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おもしろ魂。
三宅恵介さん土屋敏男さんと、テレビを語る。

7. 新社屋を建てると落ちる

企業が新社屋に移ると、人の流れがガラッと変わる。
テレビ局の社員として、
フジテレビの三宅さんも、日本テレビの土屋さんも、
そのことを体験しているようです。

萩本欽一さんの理論としては、
「新社屋を建てると、その会社は落ちる」
ということだそうですが、その理由は何でしょうか?

今日は、企業を守るということと、
その中で番組を作るということに関する話をどうぞ。

三宅恵介さんプロフィール
土屋敏男さんプロフィール

糸井 今日、三宅さんと土屋さんに
集まっていただいたのは……。

「それぞれのテレビに対する実感を、
 いったん吐きだしてみたら、
 なんか違うものが
 見えてくるんじゃないか?」

と思ったからでもあるんです。

例えば……それぞれ、
違う局で長くやってきた中では、
いつから、
「世知辛さ」みたいなものを
感じるようになってきましたか?
三宅 長い間の蓄積でもありますが、
はっきりと変わったのは、
お台場に来てからです。
やっぱり、人の流れが変わりました。

これも萩本さんの理論なんですけど、
「新社屋を建てると落ちる」んですね。
世の中みんなそうだろうし、
日テレさんは今度の汐留で落ちているし、
TBSさんにしても
新社屋を作ったときに落ちる……
それはもう絶対的な流れなんです。

当たって、儲かるから、社屋を建てる。
経営的にはいいのでしょうが、
そういうなかで、
雰囲気というのが変わってきますから。
土屋 「新社屋で変わる」
というのは、確かにありますね。
糸井 個人の家でも
まったくそうなんだけど、
引っ越しするときに合理化がはじまる。
「こういう整理棚を付ければ
 いいんじゃないか」
「こっから先、
 土足かどうか
 よくわかんなかった場所は、
 もうクツって決めよう!」
引っ越しするときに、
規則が変化することがあるんです。
三宅 ありますよね。
萩本さんの事務所の
「浅井企画」という会社が
五反田にあるんですけど、
親切堂ビルという、
昔ながらの古いビルのままでして。

エレベーターもないような
古ーいビルに、ずっといるんです。
その精神はいいなと思いますけれど、
こないだ泥棒に入られたりしまして……。
糸井 今は全般的に、
守備のコストが高すぎますよね。
「こういう文句を言われたらイヤだから
 ここは変えよう」とか、
「ほんとはもっと思いきったことを
 言いたいんだけど、
 こういうヤツが来たら
 めちゃくちゃにされちゃうから、
 このぐらいにしておこう」とか、
インターネットでさえ
気づかわざるをえないんだから、
テレビ局はもっとでしょう。
三宅 入社試験のときに
面接がありますよね。
入社試験を受けて落ちた人間から、
「ブースの右から二番目にいた試験官が
 タバコを吸っていて、
 あいつは聞いてくれなかったから……」
という書きこみが
インターネット上にあったらしいんです。

ところが、人事局が
「ちゃんと態度はよくして、
 タバコを吸わないように」
と面接官に言ってしまう。
「関係ないだろう?」と思うんです。
情けなくなりました。
なんで相手に合わせるんだ?
上場したり、株主総会を開いたりすることも
そうなんでしょうけど、
やっぱりそれも「守る」ことですよね。
糸井 「守る」って、無限に金がかかりますよね。
早い話が、防水時計みたいに
なっちゃうわけでしょう?
土屋 (笑)
「百気圧も防水する必要があるのか?」と。
糸井 「殺されて沈められたときに、
 時計は動いていました」みたいな。
 
ぼく、こういう「守るコスト」なんて、
四五歳まで考えていなかったんです。
おそらく、こういうことまで
考えるようになったのが
「ほんとうに働きはじめた」
ということなのでしょうけど。

ただ、違う意味では、
「管理からはみでる人のことも考える」
って、うれしいことではないけど、
年寄りの仕事として大切だと思うんです。
「おまえ、メチャクチャだなぁ」
と思うようなヤツがいてもいい、
という日本は、いい国じゃないですか。

昔に、自分がやってもらったように、
今度は自分がそういうヤツを認めて、
のびのびといられる場所を
作るべきだと思っているんです。
暴言を吐くヤツにも、
「これからも言いなさい」
と、活躍できる場所を作るだとか……。
三宅 ええ。
糸井 たとえば、
宮藤官九郎さんとかを見てると、
いわゆる古典とかをぜんぜん読んでないし、
映画も観ていないみたいなんです。
まぁ、うちの子どもたちもそうです。

「こういうものを目指す人は、
 これは読むよな?」
そういうものを「知りません」と
エッセイでは書くけど、宮藤さんは、
あれだけのものを作ることができるんです。

ぼくたちに、
それだけの才能を発見する力が、
もうなくなっているとすれば、
そういう人たちが
これからも出てきてもいいだけの、
「のりしろ」のような場所を
大きく作っておく。

それも、
オトナの大切な仕事だと思っています。
そう考えると、
えらい忙しくなってきちゃう。
三宅 (笑)
糸井 「欽ちゃんが作ったルール」
というのを、ぼくらはいま、
ものすごく納得しながら話しているけど、
欽ちゃんが
潰しちゃうかもしれない人っていますよね。
「あんなもん、ダメダメダメ」
と切ってしまう中に、きっと、
すごく強い力を持った、
別の教養が生まれているんだと
ぼくは思っているんです。

じゃあ、欽ちゃんの道も、
そうじゃない道も、
両方があったほうがいいや、と。
三宅 一度、
欽ちゃんのハウツーを生かして、
たけしさんがツッコミで
高田純次さんがボケで、
同じようなことを
やってみたことがあったんです。
ところがうまくいかなかった……
萩本さんだから成立していたのであって、
たけしさんには
たけしさんのやりかたが
あるんだとわかりました。

「萩本さんに教わったことを、
 そのままそこに当てはめても無理だ」

おおもとは一緒なのだから、
そこを探すべきなんだ、と思ったんです。
糸井 いわば、萩本さんは、
バラエティ番組の
「ニュートン力学」だと思うんです。

モノは、手を離したら、落ちる。
「だけど、誰かが
 見えないガラスを出したら落ちない」
というのもありなんです。

例えば、たけしさんが
萩本さんの弟子だったら、
改良されちゃってたと思うから。
三宅 それはどうなるかわかりませんけど……。
糸井 ぼくは、
そういうところまで見ることに、
興味があるんです。

自分の「のりしろ」みたいなものを、
もっと、増やさなければいけない。
ダメだと切り捨ててはいけない。


これは、子どもがいたせいで、
気づけたことなんですけど。
三宅 あぁ。
糸井 三宅さんの娘さんも、うちの子も、
おもしろいことを考えているんですよ。
だけど、そのおもしろさは、
「一流企業の面接には落ちるおもしろさ」
なのかもしれません。

教養がないのに、この子どもたちが
「おもしろい」と言っている人たちが、
なにかを作る可能性というのもあるわけです。
そこをちゃんと見てやらなかったら、
親じゃないですよね……
そう思って眺めると、
町中、そんな人だらけなんです。
三宅 わかります。
娘と映画に行ったり、
映画の話をすると、合うんですよね。
糸井 娘どうしの会話のような、
日常生活の言語だけを使って
一生過ごすことって、ほんとうは、
それがいちばんしあわせなんだと思う。

それなのに、
今までの文化にとらわれてしまって
「おまえ、そんなことも知らないの?」
と言いあうことだとかで、
いろいろな考えが
つまらなくなっちゃうと言うか……。

前々からよく言っているんだけど、
ぼくは、落語に出てくる
長屋の人たち程度の会話が、
いちばんしあわせだと思っています。
それが、おもしろいんだし。
三宅 知識を見せたがる若い人って、
なんかみんな「偉そう」なんですよね。
偉くないのに、偉そうなんです。
糸井 深いことを
考えていそうな発言をするし、
マーケティングのことを
語ったりもするけど、よく聞くと
「それをやったら、
 かえってダメになるじゃないか?」
みたいな話ばかりに
なっているんですよね。

今日の仕事論:

「長い間の蓄積でもありますが、
 会社が、一度はっきりと変わったのは、
 お台場に来てからです。
 やっぱり、人の流れが変わりました。
 これも萩本さんの理論なんですけど、
 『新社屋を建てると落ちる』んですね。
 世の中みんなそうだろうし、
 日テレさんは今度の汐留で落ちているし、
 TBSさんにしても
 新社屋を作ったときに落ちる……
 それはもう絶対的な流れなんです。
 当たって、儲かるから、社屋を建てる。
 経営的にはいいのでしょうが、
 そういうなかで、
 雰囲気というのが変わってきますから」
             (三宅恵介)

※次回は「番組制作者の育ちかた」の話になります。
 おもしろさを生む雰囲気とは、どんなものなのか?
 フジテレビ三宅恵介さんと日テレ土屋敏男さんの、
 他では読めない話を、どうぞ、おたのしみに──!
 
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2004-06-23-WED

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