糸井 |
今日、三宅さんと土屋さんに
集まっていただいたのは……。
「それぞれのテレビに対する実感を、
いったん吐きだしてみたら、
なんか違うものが
見えてくるんじゃないか?」
と思ったからでもあるんです。
例えば……それぞれ、
違う局で長くやってきた中では、
いつから、
「世知辛さ」みたいなものを
感じるようになってきましたか? |
三宅 |
長い間の蓄積でもありますが、
はっきりと変わったのは、
お台場に来てからです。
やっぱり、人の流れが変わりました。
これも萩本さんの理論なんですけど、
「新社屋を建てると落ちる」んですね。
世の中みんなそうだろうし、
日テレさんは今度の汐留で落ちているし、
TBSさんにしても
新社屋を作ったときに落ちる……
それはもう絶対的な流れなんです。
当たって、儲かるから、社屋を建てる。
経営的にはいいのでしょうが、
そういうなかで、
雰囲気というのが変わってきますから。 |
土屋 |
「新社屋で変わる」
というのは、確かにありますね。 |
糸井 |
個人の家でも
まったくそうなんだけど、
引っ越しするときに合理化がはじまる。
「こういう整理棚を付ければ
いいんじゃないか」
「こっから先、
土足かどうか
よくわかんなかった場所は、
もうクツって決めよう!」
引っ越しするときに、
規則が変化することがあるんです。 |
三宅 |
ありますよね。
萩本さんの事務所の
「浅井企画」という会社が
五反田にあるんですけど、
親切堂ビルという、
昔ながらの古いビルのままでして。
エレベーターもないような
古ーいビルに、ずっといるんです。
その精神はいいなと思いますけれど、
こないだ泥棒に入られたりしまして……。 |
糸井 |
今は全般的に、
守備のコストが高すぎますよね。
「こういう文句を言われたらイヤだから
ここは変えよう」とか、
「ほんとはもっと思いきったことを
言いたいんだけど、
こういうヤツが来たら
めちゃくちゃにされちゃうから、
このぐらいにしておこう」とか、
インターネットでさえ
気づかわざるをえないんだから、
テレビ局はもっとでしょう。 |
三宅 |
入社試験のときに
面接がありますよね。
入社試験を受けて落ちた人間から、
「ブースの右から二番目にいた試験官が
タバコを吸っていて、
あいつは聞いてくれなかったから……」
という書きこみが
インターネット上にあったらしいんです。
ところが、人事局が
「ちゃんと態度はよくして、
タバコを吸わないように」
と面接官に言ってしまう。
「関係ないだろう?」と思うんです。
情けなくなりました。
なんで相手に合わせるんだ?
上場したり、株主総会を開いたりすることも
そうなんでしょうけど、
やっぱりそれも「守る」ことですよね。 |
糸井 |
「守る」って、無限に金がかかりますよね。
早い話が、防水時計みたいに
なっちゃうわけでしょう? |
土屋 |
(笑)
「百気圧も防水する必要があるのか?」と。 |
糸井 |
「殺されて沈められたときに、
時計は動いていました」みたいな。
ぼく、こういう「守るコスト」なんて、
四五歳まで考えていなかったんです。
おそらく、こういうことまで
考えるようになったのが
「ほんとうに働きはじめた」
ということなのでしょうけど。
ただ、違う意味では、
「管理からはみでる人のことも考える」
って、うれしいことではないけど、
年寄りの仕事として大切だと思うんです。
「おまえ、メチャクチャだなぁ」
と思うようなヤツがいてもいい、
という日本は、いい国じゃないですか。
昔に、自分がやってもらったように、
今度は自分がそういうヤツを認めて、
のびのびといられる場所を
作るべきだと思っているんです。
暴言を吐くヤツにも、
「これからも言いなさい」
と、活躍できる場所を作るだとか……。 |
三宅 |
ええ。 |
糸井 |
たとえば、
宮藤官九郎さんとかを見てると、
いわゆる古典とかをぜんぜん読んでないし、
映画も観ていないみたいなんです。
まぁ、うちの子どもたちもそうです。
「こういうものを目指す人は、
これは読むよな?」
そういうものを「知りません」と
エッセイでは書くけど、宮藤さんは、
あれだけのものを作ることができるんです。
ぼくたちに、
それだけの才能を発見する力が、
もうなくなっているとすれば、
そういう人たちが
これからも出てきてもいいだけの、
「のりしろ」のような場所を
大きく作っておく。
それも、
オトナの大切な仕事だと思っています。
そう考えると、
えらい忙しくなってきちゃう。 |
三宅 |
(笑) |
糸井 |
「欽ちゃんが作ったルール」
というのを、ぼくらはいま、
ものすごく納得しながら話しているけど、
欽ちゃんが
潰しちゃうかもしれない人っていますよね。
「あんなもん、ダメダメダメ」
と切ってしまう中に、きっと、
すごく強い力を持った、
別の教養が生まれているんだと
ぼくは思っているんです。
じゃあ、欽ちゃんの道も、
そうじゃない道も、
両方があったほうがいいや、と。 |
三宅 |
一度、
欽ちゃんのハウツーを生かして、
たけしさんがツッコミで
高田純次さんがボケで、
同じようなことを
やってみたことがあったんです。
ところがうまくいかなかった……
萩本さんだから成立していたのであって、
たけしさんには
たけしさんのやりかたが
あるんだとわかりました。
「萩本さんに教わったことを、
そのままそこに当てはめても無理だ」
おおもとは一緒なのだから、
そこを探すべきなんだ、と思ったんです。 |
糸井 |
いわば、萩本さんは、
バラエティ番組の
「ニュートン力学」だと思うんです。
モノは、手を離したら、落ちる。
「だけど、誰かが
見えないガラスを出したら落ちない」
というのもありなんです。
例えば、たけしさんが
萩本さんの弟子だったら、
改良されちゃってたと思うから。 |
三宅 |
それはどうなるかわかりませんけど……。 |
糸井 |
ぼくは、
そういうところまで見ることに、
興味があるんです。
自分の「のりしろ」みたいなものを、
もっと、増やさなければいけない。
ダメだと切り捨ててはいけない。
これは、子どもがいたせいで、
気づけたことなんですけど。 |
三宅 |
あぁ。 |
糸井 |
三宅さんの娘さんも、うちの子も、
おもしろいことを考えているんですよ。
だけど、そのおもしろさは、
「一流企業の面接には落ちるおもしろさ」
なのかもしれません。
教養がないのに、この子どもたちが
「おもしろい」と言っている人たちが、
なにかを作る可能性というのもあるわけです。
そこをちゃんと見てやらなかったら、
親じゃないですよね……
そう思って眺めると、
町中、そんな人だらけなんです。 |
三宅 |
わかります。
娘と映画に行ったり、
映画の話をすると、合うんですよね。 |
糸井 |
娘どうしの会話のような、
日常生活の言語だけを使って
一生過ごすことって、ほんとうは、
それがいちばんしあわせなんだと思う。
それなのに、
今までの文化にとらわれてしまって
「おまえ、そんなことも知らないの?」
と言いあうことだとかで、
いろいろな考えが
つまらなくなっちゃうと言うか……。
前々からよく言っているんだけど、
ぼくは、落語に出てくる
長屋の人たち程度の会話が、
いちばんしあわせだと思っています。
それが、おもしろいんだし。 |
三宅 |
知識を見せたがる若い人って、
なんかみんな「偉そう」なんですよね。
偉くないのに、偉そうなんです。 |
糸井 |
深いことを
考えていそうな発言をするし、
マーケティングのことを
語ったりもするけど、よく聞くと
「それをやったら、
かえってダメになるじゃないか?」
みたいな話ばかりに
なっているんですよね。 |