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おもしろ魂。
三宅恵介さん土屋敏男さんと、テレビを語る。

6. 正体がわからないという魅力。


タモリさんは、かつて、
「ほぼ日」に登場してくれたときに

「ぼくは、なんとか
 生き延びるっていうことが最優先です。
 観念によって、
 生き方が規制されるっていうのが、
 あんまり、よくないですね。
 正義であるとか、
 こうしなければならないとかいうために、
 自分の生き方を規制されるっていうのは、
 結局、言葉だけを信じて
 生きてるみたいなもんですから。
 お題目になっちゃうし、
 たのしくもないことなんですよ」

と、率直な姿勢を、語ってくれました。
タモリさんの正体は、どういう人なのかを、
3人は、尊敬をこめて、語りつづけています。

三宅恵介さんプロフィール
土屋敏男さんプロフィール

糸井 このところ、タモリさんと
続けてお会いすることがあって、
いままでよりも、
たくさん話したりしているんです。

たとえば、タモリさんは、
アルタで番組が終わって、目黒まで
よく、歩いて帰るらしいんですよね。

「気づかれないですか?」
と言っても、平気な顔をして
「いやいやいや」と笑っている……。

タモリさんの歩いている分量って、
どうも、並大抵じゃないらしいんです。
散歩の途中、カメラを持って、
Y字路を撮っていたり……。

おばあちゃんっぽいところが
ありますよね。

毎日、ちゃんと、
おいしいものをおいしくいただいて、
起きる時間には起きて、寝る時間には寝る。
それで「あぁ、おもしろかった」という暮らし。

朝は朝星、夜は夜星、みたいな、
そのふつうさが、タモリさんなんですよね。
三宅 だから、『いいとも』は、やっぱり、
ごはんみたいなものというか、主食なんです。
誰も気がつかないんだけど、「ほぉー」と思う。
そういうとこがすごいなぁ、とぼくは思います。
糸井 しかも、
あんまり栄養過多にしちゃうと、
太っちゃうとか飽きちゃうとかいうことを、
タモリさん自身が、自分の体で
わかっているような感じがするんです。


だから、ノリすぎてるタモリさんって、
見たことないですよね。

確かに、鐘や太鼓叩かれてるうちに、
調子づいてイグアナになったりすることは
あるけれど、化けたあとには、
またすぐに元に戻って……。

あの「元に戻ってる」というところが、
また、すごいですよね。
土屋 『いいとも』のタモリさんがあって、
『ミュージックステーション』の
タモリさんがあって、
『タモリ倶楽部』のタモリさんがあって、
というバランスも不思議です。

マネージメントなのか、
セルフマネージメントなのかは
わからないのですが、そのへんの
彩りのつけかたみたいなものには
「……目的は何ですか?」
と聞いてみたくなります。
糸井 よく、さんまさんが、
「スタジオに行かなかったら
 ヒマでしょうがないから
 仕事をしに来ている」
という言いかたするんですけど、
ほんとうにそれを体現しているのは
タモリさんじゃないでしょうか。

アルタに行けば、誰かがいるし、
『ミュージックステーション』
に行けば誰かいるし……
それを毎日やって、
しかも、やり過ぎていないですよね。
三宅 やっぱり
『タモリ倶楽部』のタモリさんが、
いちばん好きです。

あれがおおもとの、
タモリさんなんだという。
あれは、ずっとつづけて欲しいです。
糸井 いちばん、
たのしそうにしてますよね。
あれは、やめないんだ、
というのは決めているんでしょう。
土屋 かと言って、
『ミュージックステーション』も、
あれもお金のためにやっている、
という感じではないわけです。

それぞれの番組で、
自分の中にあるパーツを、
きちんと出している感じがするんです。
糸井 思えば、タモリさんは、
学生時代には、バンドの司会者でしょう?
三宅 そうです、そうです。
糸井 その頃から、
同じことをやっているとも言えるわけです。

川崎徹さん(CMディレクター)は、
タモリさんとおんなじ早稲田大学で、
たしか年齢がひとつかふたつ下なんですが、
タモリさんのことを、

「ジャズバンドの司会者としてうまくて、
 お金の計算からなにから、
 ものすごくちゃんとできる森田さん」

として尊敬していましたから。
「森田さんは、すごかった」と……。

タモリさんのなかには、
敢えて言えば活弁の徳川夢声だとか、
文化人と芸能人の区別が曖昧な時代の
余韻があるんじゃないかなぁと思うんです。

文人画みたいな……。
「絵描きじゃないけど、
 あの人の絵がいいんだよ」
そういうふうな。

三宅さんが、さっきおっしゃった
「タモリさんは、芸人さんではない」
という印象は、ほんとうによくわかるなぁ。

タモリさんには、
まず、弟子とか師匠っていう
イメージがないですよね。
「上」もいないし、「下」もいない。
三宅 そうなんですよ。ひとりだけ、です。
糸井 全員に対して、平らに接しているという。
三宅 そうそう、フラットですよね。
糸井 そこがやっぱり、あの人の独自性なんですね。

「タモリさんに、さんざんいじめられて」
なんて話は聞いたことがないですよ。

そのかわりに
「タモリさんに良くしてもらったんだ」
ということも、聞いたことがないし……。
土屋 タモリさんは、いわゆる
「徒党を組む」ということがないですね。
糸井 あのフラットさっていうのは、
やっぱり一生、ああいうものなんでしょうね。
土屋 タモリさんみたいな人って、いないですよね。
糸井 タモリさんみたいに
なりたいっていう人も、聞いたことがないです。
土屋 「あ、こいつは、将来タモリになるな!」
っていうのも、いないです。
糸井 (笑)いない。
三宅 タモリさんみたいに、
ああいう昼間の番組を持ちたいな、
というのはいるかもしれないけど、
タモリさん個人に向かって
「ああなりたい」
と思って進んでいく人は……いないですね。
糸井 うん。

「ぼくはどっちかっていうとタモリ系です」
なんて人、いないよね。
土屋 タモリさんの正体って、なんなんでしょうか?

一般的に言えば、それこそ
「タレントさん」というくらいですから、
テレビに出てくる人たちというのは、
「特殊な才能があるということ」
が、前提になるじゃないですか。

ところが、いままで話してきているような、
タモリさんの「ふつうでいること」って、
いわゆる「才能があること」とは違いますよね。

だから、ぼくは、
タモリさんの正体が、わからないんです。

たしかに、正体が見えないからこそ、
見事と言えば見事なんですけれども。
  (次回に、つづきます)


今日のひとこと:

「『いいとも』のタモリさんがあって、
 『ミュージックステーション』の
 タモリさんがあって、
 『タモリ倶楽部』のタモリさんがあって、
 というバランスも不思議です。
 マネージメントなのか、
 セルフマネージメントなのかは
 わからないのですが、そのへんの
 彩りのつけかたみたいなものには
 『……目的は何ですか?』
 と聞いてみたくなります。
 一般的に言えば、それこそ
 タレントさんというくらいですから、
 テレビに出てくる人たちというのは、
 特殊な才能があるということが、
 前提になるじゃないですか。
 ところが、タモリさんの、ふつうでいることって、
 いわゆる『才能があること』とは、違いますよね。
 だから、ぼくは、
 タモリさんの正体が、わからないんです。
 たしかに、正体が見えないからこそ、
 見事と言えば見事なんですけれども」
               (土屋敏男)

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 テレビや、企画づくりについて思うことなどは、
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 お送りくださると、さいわいです。
 どのメールも、すべてじっくり拝読しますし、
 つい、おおぜいと分けあいたくなるような
 メールの感想などは、「おもしろ魂」連載中に
 ここで、ご紹介させていただくかもしれません。


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2004-09-08-WED

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