ダ・ヴィンチ×ほぼ日刊イトイ新聞共同企画 中島みゆきさん、おひさしぶり。 ややこしくておもしろい、歌をつくるということ。
第5回 試行錯誤ばっかりです。
中島 “草原のペガサス 街角のヴィーナス”
その一行も含め、あの曲そのものが
『プロジェクトX』がなかったら、
書くことはなかったと思うんですけれどね。
糸井 はあー! それはどういう経緯ですか。
中島 ぶ厚い番組の企画書をいただいてきて読んでたらね、
わたしの知らない人たちや、
知らない生き方ばっかり、
てんこ盛りに出てきたんですね。
最初に思ったのは、そうした方々への敬意を
どうやって表したらいいかなってこと。
わたしは、尊敬すべきその人たちに
賛辞を送りたかったのね、
素敵、って。
糸井 ‥‥いいじゃない。
中島 で、行き着いたのは、
「わたし、惚れてます」って言おうってこと。
惚れたなら、ヴィーナスにもペガサスにも、
すばるにも見えるのね。
「お父さん、あなたはすばるです! 素敵です!」
って言いたかったのね。
糸井 彼らは娘に褒められたような
気持ちよさだったんだろうな。
中島 あ、そうですか?!
糸井 恋人に褒められる以上に
うれしいんですよ、娘に褒められると。
中島 そうでしょうかね。
糸井 あの番組は、ぼくらの年代の人に
ものすごく受けましたよね。
中島 うふふふ。仕事する人たちの話ですからね。
糸井 うんうん。でも、男があの詞を書いたら、
そうはならなかったと思うんですよ、きっと。
どこかもっと自嘲的になったと思いますよ。
こうして直接うかがうと納得できますね。
中島 ああ、なるほど、そうかもしれませんね。
糸井 うん、恋人だったら、
あんた仕事ばっかりしてんじゃない、
ってなるじゃないですか。
中島 ああ。
糸井 娘がある距離感から、
「そんなお父さんの娘でよかったです」
って言うような。
だから、敬意って言葉はすごくわかります。
中島 番組の制作サイドが込めた思いも
“敬意”だったのね。
「自分たちはこの番組を作りたいんだ、どうしても。
 この無名の人たちに光を当てて欲しい」
って言われたの。
光を当てる? 当てるってどういうことだろうって
さんざん迷ってて、
いただいた資料をずーっと読んでたときに、
あ、あたしが光を当てる必要なんて
なにもないんだ、と思ったのね。
彼らが光ってるじゃない、自分で。
自分で光ってんなら彼らが星ですから、
もうそこで、あの歌詞はできあがってたんですよ。
彼らはそこにいたんですよね。
それをわたしは文字に写しただけ。
糸井 ほんとに純粋にそう思えたってことだね。
中島 ちゅうことですね。
糸井 ぼくはまだやっぱり濁ってるわ。
中島 え?
糸井 自分がそういうふうに書き手として、
純粋に何か思って書いたときの
不安定さみたいなものに出くわすことって
よくあるから。
つまり生々しさというか‥‥。
中島 ええ。
糸井 だから、ちょっと距離を置きたくなって。
なんだろな、頭と格好とが繋がってない感じかな。
手だけで上手に書ける部分を足さないと
完成品になんないような
気がするときがあるんですよ。
中島 手が必要ですか?
糸井 ええ、技術というかね。
で、そっちが、
ぼくの心以上に動いてくれたときに、
ぼくは、爆笑するんです。
中島 爆笑ですか! 嬉しくって?
すごいな、天才だな、それって。
糸井 いやいや、そういうときって、
やっぱり自分で作ったという
思いがないんですよ。
手が作ってくれた。足してくれたっていう。
中島 はいはいはい。
糸井 で、みゆきさんの曲を聴いてると、
もう降りてきたとしか思えないっていうね。
ぼくは、もう、まんまじゃ書けないよって
ところがあるんですよ。
今の話でも、聞くとそのとおりだろうなあって
思うんですけれどね。
中島 いや、失敗もいっぱいありますよ。
糸井 そうですか。
中島 ええ、ええ。
試行錯誤ばっかりですよ、結局のところ。
糸井 え? 世に出たものでも、
自分では実は失敗だと思うんですか?
中島 失敗とは違いますけど、
うーん、完成品じゃない、
というほうが近いのかな‥‥。
いやあ、発売しておいて、
本当に申しわけないんだけど、
完成品と思ったものがまだないというか‥‥。
大変失礼なんですが。
糸井 意外だなあ。
中島 作業としては、演奏とか歌とかを録音して、
ミックスして、マスタリングして、
そこで一旦ストップしないと、
CDをつくる工場には入れられないわけで。
だけど、特にミキシングの作業なんかは
凝りだしたらいつまでたっても終わらない。
なんぼでもやれちゃうんですよね。
イギリスあたりに6年も7年も
やってる人なんかもいますけどねぇ。
そうやってね、
キリないのはわかります、すごく。
だけどね。
糸井 娘はいつか嫁に出さなきゃなんない日が来るんだよね。
中島 そうなんですよね。
嫁入り修行いつまでもさせておきたいんですけど。
糸井 まだ、あんたの味噌汁には
合格点はあげられないわねとか(笑)。
中島 そうなんですよねー。
でも歳食っちゃうんですよ、
そうこうしてると、娘が。
糸井 そうだそうだ。
中島 本当に。だから見切りつけて出さなきゃなんない。
そこで、やっぱり、ああすりゃよかったな、
こうすりゃよかったみたいな
気持ちは残りますでしょ。
なので自分でまたCDかけて
発売後に聴くのがストレスの元なんですよ。
糸井 それで聴かないようにしてる?
中島 聴くと、
「だからここはこうすればよかったのに!!」
とかね。今すぐ回収したくなっちゃうんですよー。
でも、全CDを回収したら会社潰れますからね。
零細企業なもんで(笑)。
 

(つづきます!)

2007-09-12-WED
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