中島 |
“草原のペガサス 街角のヴィーナス”
その一行も含め、あの曲そのものが
『プロジェクトX』がなかったら、
書くことはなかったと思うんですけれどね。 |
糸井 |
はあー! それはどういう経緯ですか。 |
中島 |
ぶ厚い番組の企画書をいただいてきて読んでたらね、
わたしの知らない人たちや、
知らない生き方ばっかり、
てんこ盛りに出てきたんですね。
最初に思ったのは、そうした方々への敬意を
どうやって表したらいいかなってこと。
わたしは、尊敬すべきその人たちに
賛辞を送りたかったのね、
素敵、って。 |
糸井 |
‥‥いいじゃない。 |
中島 |
で、行き着いたのは、
「わたし、惚れてます」って言おうってこと。
惚れたなら、ヴィーナスにもペガサスにも、
すばるにも見えるのね。
「お父さん、あなたはすばるです! 素敵です!」
って言いたかったのね。 |
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糸井 |
彼らは娘に褒められたような
気持ちよさだったんだろうな。 |
中島 |
あ、そうですか?! |
糸井 |
恋人に褒められる以上に
うれしいんですよ、娘に褒められると。 |
中島 |
そうでしょうかね。 |
糸井 |
あの番組は、ぼくらの年代の人に
ものすごく受けましたよね。 |
中島 |
うふふふ。仕事する人たちの話ですからね。 |
糸井 |
うんうん。でも、男があの詞を書いたら、
そうはならなかったと思うんですよ、きっと。
どこかもっと自嘲的になったと思いますよ。
こうして直接うかがうと納得できますね。 |
中島 |
ああ、なるほど、そうかもしれませんね。 |
糸井 |
うん、恋人だったら、
あんた仕事ばっかりしてんじゃない、
ってなるじゃないですか。 |
中島 |
ああ。 |
糸井 |
娘がある距離感から、
「そんなお父さんの娘でよかったです」
って言うような。
だから、敬意って言葉はすごくわかります。 |
中島 |
番組の制作サイドが込めた思いも
“敬意”だったのね。
「自分たちはこの番組を作りたいんだ、どうしても。
この無名の人たちに光を当てて欲しい」
って言われたの。
光を当てる? 当てるってどういうことだろうって
さんざん迷ってて、
いただいた資料をずーっと読んでたときに、
あ、あたしが光を当てる必要なんて
なにもないんだ、と思ったのね。
彼らが光ってるじゃない、自分で。
自分で光ってんなら彼らが星ですから、
もうそこで、あの歌詞はできあがってたんですよ。
彼らはそこにいたんですよね。
それをわたしは文字に写しただけ。 |
糸井 |
ほんとに純粋にそう思えたってことだね。 |
中島 |
ちゅうことですね。 |
糸井 |
ぼくはまだやっぱり濁ってるわ。 |
中島 |
え? |
糸井 |
自分がそういうふうに書き手として、
純粋に何か思って書いたときの
不安定さみたいなものに出くわすことって
よくあるから。
つまり生々しさというか‥‥。 |
中島 |
ええ。 |
糸井 |
だから、ちょっと距離を置きたくなって。
なんだろな、頭と格好とが繋がってない感じかな。
手だけで上手に書ける部分を足さないと
完成品になんないような
気がするときがあるんですよ。 |
中島 |
手が必要ですか? |
糸井 |
ええ、技術というかね。
で、そっちが、
ぼくの心以上に動いてくれたときに、
ぼくは、爆笑するんです。 |
中島 |
爆笑ですか! 嬉しくって?
すごいな、天才だな、それって。 |
糸井 |
いやいや、そういうときって、
やっぱり自分で作ったという
思いがないんですよ。
手が作ってくれた。足してくれたっていう。 |
中島 |
はいはいはい。 |
糸井 |
で、みゆきさんの曲を聴いてると、
もう降りてきたとしか思えないっていうね。
ぼくは、もう、まんまじゃ書けないよって
ところがあるんですよ。
今の話でも、聞くとそのとおりだろうなあって
思うんですけれどね。 |
中島 |
いや、失敗もいっぱいありますよ。 |
糸井 |
そうですか。 |
中島 |
ええ、ええ。
試行錯誤ばっかりですよ、結局のところ。 |
糸井 |
え? 世に出たものでも、
自分では実は失敗だと思うんですか? |
中島 |
失敗とは違いますけど、
うーん、完成品じゃない、
というほうが近いのかな‥‥。
いやあ、発売しておいて、
本当に申しわけないんだけど、
完成品と思ったものがまだないというか‥‥。
大変失礼なんですが。 |
糸井 |
意外だなあ。 |
中島 |
作業としては、演奏とか歌とかを録音して、
ミックスして、マスタリングして、
そこで一旦ストップしないと、
CDをつくる工場には入れられないわけで。
だけど、特にミキシングの作業なんかは
凝りだしたらいつまでたっても終わらない。
なんぼでもやれちゃうんですよね。
イギリスあたりに6年も7年も
やってる人なんかもいますけどねぇ。
そうやってね、
キリないのはわかります、すごく。
だけどね。 |
糸井 |
娘はいつか嫁に出さなきゃなんない日が来るんだよね。 |
中島 |
そうなんですよね。
嫁入り修行いつまでもさせておきたいんですけど。 |
糸井 |
まだ、あんたの味噌汁には
合格点はあげられないわねとか(笑)。 |
中島 |
そうなんですよねー。
でも歳食っちゃうんですよ、
そうこうしてると、娘が。 |
糸井 |
そうだそうだ。 |
中島 |
本当に。だから見切りつけて出さなきゃなんない。
そこで、やっぱり、ああすりゃよかったな、
こうすりゃよかったみたいな
気持ちは残りますでしょ。
なので自分でまたCDかけて
発売後に聴くのがストレスの元なんですよ。 |
糸井 |
それで聴かないようにしてる? |
中島 |
聴くと、
「だからここはこうすればよかったのに!!」
とかね。今すぐ回収したくなっちゃうんですよー。
でも、全CDを回収したら会社潰れますからね。
零細企業なもんで(笑)。 |
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(つづきます!) |