── |
オーダーシャツのことについて、
うかがいたいのですが。 |
森蔭 |
はい。 |
── |
自分だけのシャツを注文するというのは、
まさしく顔がみえるやりとりですよね。 |
森蔭 |
そうですね、話し合いながら、
生地を選んだりパーツをきめていくので。 |
── |
一枚のシャツをオーダーするのに、
どのくらいの時間、話し合うのですか? |
森蔭 |
それは、お客さまによってちがうので‥‥
作りたいシャツがはっきりしている場合は
早いんですが、
そうでないお客さまのときは、
数時間かかることもありますよ。 |
── |
あぁ、やはりけっこう時間はかかるんですね。 |
森蔭 |
ですから、ビジネスとしてだけ考えると
たぶん、かしこいやりかたではないんです(笑)。
でも、これはずっと続けていきたいですね。 |
|
── |
じつは先日、弊社の糸井重里が、
こんなことを言っていたんですよ。
「モリカゲシャツさんのところに
オーダーにくるお客さんは、
3時間みっちり相談したあげく
“やっぱり今日はやめます”って
帰っちゃったりするらしいんだよ。
それって、すごいよね?!」‥‥と。
‥‥この話は、ほんとうなのでしょうか? |
森蔭 |
無理におすすめはしないんです。
いろいろとお話しているうちに、
「今ここで決めずに、よく考えたい」
というお客さまも、いらっしゃるんで。
そういう場合は、
「どうぞ、ゆっくりお考えください」
っていうことになりますね。
そのかたが、またお越しになる保証は
なんにもないんですけど。
それはしょうがないかなぁ、と思ってます。 |
── |
そうですか、ほんとうだったのですね‥‥。 |
森蔭 |
まぁ、対応したスタッフにしてみたら、
じゃーっかん、
「なんやったんやろ? この3時間は」
というのはあるかもわからないですけど(笑)。 |
── |
そうでしょうねえ(笑)。 |
森蔭 |
ま、ま、ま、いいじゃないか、と(笑)。
それも多少はしょうがないというか、
まぁ、そういうこともあるやろ、と。 |
── |
でも3時間話し合って‥‥たいへんですよね。
‥‥オーダーは、予約制ですか? |
森蔭 |
はい。 |
── |
つねにいっぱいなのでしょうか? |
森蔭 |
いや、週末とかは埋まっている日が多いですけど
平日とかなら、空いてる日も多少‥‥
そこは、お問い合わせいただければ。 |
|
── |
そうですか。
‥‥あの、これだけ人気があるとですね、
たとえばデパートから
「うちに出店してほしい」というようなお話も
あるのではないでしょうか。 |
森蔭 |
それはありますよ。
東京からも、だいたいのデパートさんが
こられたんじゃないかと思います。 |
── |
でも、出店なさってませんよね。
商品の卸も‥‥ |
森蔭 |
そうですね、していませんね‥‥。
ぼくたちのやってることは、
「お店に来てくれたらなんとかしましょう」
みたいなことなんですよ。
オーダーもそうですけど、直すこともできるし、
トラブルも、いまの数なら直接対応できるんです。
ところが百貨店でたくさん売ってしまうと、
そういうことを管理しきれなくなってしまう。
‥‥なので、ありがたいお話なんですが、
お断りするしかないんですよ。 |
── |
なるほど。 |
森蔭 |
‥‥あと、デパートでうちのシャツは、
そんなに売れないと思うし(笑)。 |
── |
いやいや、そんなことは。 |
森蔭 |
まぁ、そこそこは売れると思うんですけど、
それも最初だけだと思いますよ。 |
── |
うーん‥‥そうでしょうか?
よろこぶお客さんは多いと思いますけど‥‥。 |
森蔭 |
でも、たくさん買っていただいたとしても、
すべてのお客さまを追いきれないわけで。 |
── |
あ、そうか。
そうでしたね。 |
森蔭 |
そもそも、デパートさんが声をかけてくれるような、
ありがたい評判がうまれたのは、
やっぱり、京都にしか店舗がなくて、
そんなにたくさんのシャツを売っているわけではない
という、この状況があったからだと思うんですよ。 |
── |
なるほど。 |
森蔭 |
だいじなのは、状況だと思ってます。 |
── |
状況。 |
森蔭 |
たとえばいま、ふつうの白いシャツなら
1900円のもあれば、
5万、6万するものもあるじゃないですか。
そんななかで、うちのものを選んでいただける、
「状況」をデザインするにはどうすればいいのか、
たぶんぼくは、
それをいちばんに考えているんだと思うんです。 |
|
── |
状況をデザイン‥‥
シャツのデザインではなく。 |
森蔭 |
もちろん、シャツの構造を把握してたりとか、
生地のこととか、デザインのノウハウとか、
シャツ作りに関してはパーフェクトに
知ってなきゃいけないんですけど。
でも、そこだけで勝負できると思わないんですよ。
お客さんが「うれしい」と思ってくれるのは、
どういう状況なのかと。
ずーっとそれを考えてやってきました。 |
── |
お客さんがうれしいと思う、状況をデザインする。 |
森蔭 |
そうですね。 |
── |
あえて少数販売にしていたり、
オーダーを大切に続けているのは
すべてそのデザインのひとつなのですね。 |
森蔭 |
要は、コミュニケーションが好きなんですよ。
顔がみえていないと
こっちもたのしくない、というか‥‥。 |
── |
お客さんの「うれしい」だけじゃなくて
自分たちの「うれしい」も大切にしたい、と。 |
森蔭 |
はい。
‥‥あの、なんかけっこう
ビジネスの話になってますよね(笑)。
もっとこう、「こだわりのシャツ、一枚に込めた想い」
みたいな? 職人っぽい話がよかったですかね?
それか、ファッション寄りの話とか。 |
── |
いえいえ、
ご商売のお話、とても興味深いです。
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(来週の、月曜日に続きます) |