── |
モリカゲシャツさんは、創立10年だそうですね。 |
森蔭 |
そうです、
「モリカゲシャツ」と名乗って10年です。 |
── |
ということは、アパレルのお仕事はもっと前から。 |
森蔭 |
ええ、この仕事は15年ほどになります。
やりはじめたころはすごく景気がよくて、
まあ、DCブランドなんかが全盛期ですよね。
いろんなお店がにぎわってたんですが、
ぼくは、なんかそのころ、
こういうのは違うなぁと思ってたんですよ。
なんでしょ‥‥もっとこう「作って届ける」という
実感がほしかったんですね。 |
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── |
作って届ける、ですか。 |
森蔭 |
作る側と、買う側の顔が、
互いにちゃんと見えてるってことです。
そういうやりかたは、どうすればいいんやろ?
と若いころずっと考えてて、思いついたのが
「オーダー」だったんです。
ウエディングドレスとか舞台衣装とか、
オーダーいただいたのは何でも作ってました。 |
── |
最初はシャツだけじゃなかったんですね。 |
森蔭 |
ええ。気づいたらシャツだけになったんですよ。
なんかね、なんとなく、「シャツかなぁ」と、
思ったんでしょうねぇ(笑)。
ま、もちろん、もともとシャツが好きだった
っていうのもあるんですよ。
自分で作ったシャツを着てたら
お客さんから「それを作ってくれないか」
みたいに言われるのが多くなってきて、
「シャツ、いけるんちゃうかな?」と(笑)。
で、「モリカゲシャツ京都」になったんです。
それが1997年ですから、10年前ですね。
(このお話をうかがったのは去年の9月でした) |
── |
現在も基本的にはシャツだけですか。 |
森蔭 |
はい、基本的には。
大きくわけて、オーダーシャツと、
既製品の2種類になります。 |
── |
オーダーシャツというのは、
好みのシャツを注文できるわけですよね? |
森蔭 |
ええ、オーダーはずっとやってます。 |
── |
それと、既製品のシャツ。
こちらを購入できるのは、
京都の本店か、ホームページだけで‥‥。 |
森蔭 |
そうですね、いまのところ、
そのふたつの販売方法だけです。 |
── |
東京からはやはり、
サイトで注文することになるわけですが。
‥‥これがですね森蔭さん。
買えないんですよ。 |
森蔭 |
ああ‥‥。
さいきんは公開して2時間くらいで
売り切れたりしてるんで、もうしわけないです。 |
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── |
すごい人気ですよね。
もうちょっとでも多めに作ってもらえると
うれしいんですが‥‥。
あの数が限界なのでしょうか‥‥。 |
森蔭 |
いや、作ろうと思えば、いくらでも作れるんです。 |
── |
‥‥え?! |
森蔭 |
同業者にもよく言われるんですよ、
「売れるんだからもっと作れよ」って。 |
── |
‥‥作れるんですか。 |
森蔭 |
はい、数を増やすことは、いつでも。 |
── |
‥‥でも、作らない。 |
森蔭 |
そのへんが微妙で難しいところなんですけども‥‥。
ちょっと足りないぐらいが、
いいんじゃないかなぁと思うんです。 |
── |
あえてすくなくしている、と。 |
森蔭 |
ちょっと足りないくらいのものを持っている
という所有感みたいなものが
お客さんにとってのよろこびだと思うので。 |
── |
‥‥あ、そういう理由だったんですか。
なるほど‥‥。
たしかに、手に入れた人はうれしいですよね。 |
森蔭 |
でも、ま、たくさん売らない
いちばんの理由は、大量に売ってしまうと
お客さまを追いきれないということですけどね。 |
── |
いやあ、意外でした。
じつは、お会いする前には、
がんこな職人さんを勝手にイメージしてたんです。
「もっと欲しいって言われても、
作れねぇもんは作れねぇんだよ!」
みたいな(笑)。
たくさん作りたいのは山々だけど、
質を保つためには、
あの数しか作れないんだと思ってました。 |
森蔭 |
あ、そういうイメージで思われるのは、
ぼく、けっこう好きです。 |
── |
(笑)。 |
森蔭 |
「シャツの会社で修行されてたんですか」とか、
「お父様の代からシャツの会社なんですか」
みたいなこと言われますよ、実際。
「そうじゃなくて、たまたまこうなったんです」
って正直に答えるんですけどね、
「いや、それはちょっとよくわからないですねぇ」
なんて、信じてもらえない(笑)。
もう、ほっときますけどね。
そう思われるのも悪い気はしないんで(笑)。 |
── |
そうですか(笑)。 |
森蔭 |
でも、職人気質に思われることも好きだけど、
「じつはコイツ、それだけじゃあないぞ」
って思われるのは、もっと好きなんです。 |
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── |
と言いますと? |
森蔭 |
ぼくは、デザイナーでも職人でもなくて‥‥
多分、半分は商売人なんですよ。
もちろん自分でもデザインはしますが、
その微妙なバランスのところでやってるんですね。
だから、そういうふうにやっている以上は
「見つけてほしい」という気持ちもあるんですよ。 |
── |
見つけてほしい、ですか。 |
森蔭 |
ユーザーのひとに「見つけてほしい」から、
こんな変わったやりかたをしてるわけで。 |
── |
なるほど。 |
森蔭 |
「シャツをたくさん作らないのは、
わかってくれる人たちだけに届けたいからです」
という美しい言いかたもできるんですけど‥‥
でも、ま、それは建て前であってね(笑)。 |
一同 |
(爆笑) |
森蔭 |
やり続けることがいちばんの目的ですから、
たくさんの人に見つけてもらって、それで、
へんな話、ある程度は儲けないとあかんな、と。 |
── |
はい。 |
森蔭 |
とはいうものの、儲けがすべてでは、
やっぱりないんですよねー。
このあたりが非常にややこしいんですけども(笑)。
「いくら売れました」で終わりではなくて、
買ったあとにどうなっていくのかってところが、
ぼくはすごく気になるんです、ほんとに。
シャツはだいじに着てもらいたいし、
破れたりすればリペアもしてあげたい。
シャツというモノを通じて、人と人が出会ってからんで、
それがまたグーッと、ぼくたちのとこに戻ってくる、
そういうのも面白いんですよねぇ。
それは手の届く範囲で顔を見てないとできないわけで。
大量生産だと、いまのぼくらにこれはできない。
‥‥もう、ややこしいでしょ?(笑)
こんな話で、だいじょうぶですかね。 |
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── |
だいじょうぶどころか、
たいへん面白いです! |
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(明々後日、木曜日に続きます) |