モリカゲシャツのひみつ。着る人の、顔がみえる範囲でする仕事。
 
第3回 きっちり寄せてきっちり入れる。
── サイトでは、発表して2時間で
売り切れてしまうこともあるということでしたが、
実際、月に何枚くらいのシャツを
作られているのでしょうか?
森蔭 それはオーダーシャツ以外で、ですか。
── そうですね、あらかじめデザインがあって
サイズを選んで購入する既製品のほうで。
森蔭 うーん、どのくらいでしょう‥‥
その月によってもちがいますけど、
4〜500枚は作っていると思います。
── なるほど、4〜500枚。
森蔭 ほんと、効率わるいんですよ(笑)。
もう、合理性のかけらもないような
じゃまくさいことをずっとやり続けているんで。
ひとつのシャツを作るのに、
1枚裁断するのも1000枚裁断するのも、
手間は同じようなものなんです。
型紙と仕様書は、いずれにしても必要ですからね。

── 仕様書というのは?
森蔭 設計図みたいなものです。
ここはこういうふうに縫って、
ここのステッチは何ミリで、
ここは生地を切り替えて、とか‥‥。
建築でいう図面のようなものですね。
これがあれば、量産はできてしまうんです。
でも、オーダーシャツの場合は、
それから作るシャツは1枚ですし、
既製品でも数十枚‥‥効率がわるい(笑)。

── ふつうは、型紙と仕様書ができて
「売れそう」となると‥‥
森蔭 「行け!」ってなるんでしょうね。
そういうお店はすくなくないです。
ただ、ぼくがみている限りでは、
その「行けー!」というのは
それほどは続かないような気がするんですよ。
瞬発力はあっても、維持するのに苦労して、
いずれはどこかの大手に吸収されたりとか‥‥。
よくある話なんです、アパレルでは。
── そうですか。
森蔭 まあ、「行けそうなときには、行く」
という気持ちも、わからなくはないんですよ。
そういうやりかたも、もちろんあると思います。
── でも森蔭さんは、行かない。
森蔭 行かないですねえ。
なんていうんでしょ‥‥
まず、「決めたことを決めたとおりにやる」
というのがぼくのなかにはすごくあるんです。
決めた数の倍売れちゃったというのは
あんまりいいことではない、という。
逆に半分でもダメだし。
100と決めたら100に近づくようにするんです。
超えても102とか103とか(笑)。
── ぴったりがいいんですね。
森蔭 ぼくはゴルフしませんけど、
きっちり寄せてきっちり入れるみたいな?
── (笑)。
森蔭 まあ、それでも最初のころににくらべると、
だいぶ、数は増えてるんですよ。
── 作るシャツの枚数は増えているんですね。
森蔭 ええ、すこしずつですが。
最初はほんとに、
ぼくがぜんぶ縫ったりしてましたから。

── それが、現在は工場で?
森蔭 はい、工場で。
とくべつな作業とかリペアなんかは、
本店のアトリエでやったりもしますけど、
基本的には工場にお願いしています。
型紙と仕様書を渡して電話をかければ、
ちゃんと伝わるので。
── 信頼できる工場ができたわけですね。
森蔭 はい、そうです。
── 作る数をすこしずつ増やせたのは、
「サイトでの通販」も大きいのでしょうか。
森蔭 それもあると思います。
直接お会いするわけではないですが、
「売って終わり」にはならないんです。
コミュニケーションはメールでできますし。
── 声が届くんですね。
森蔭 はい。
── その意味では、
お客さんの顔がみえている、と。
森蔭 そうですね、つながっていられます。
おみやげとか、いただいたりするんですよ。
── おみやげ?
森蔭 いろんなものを送ってくださるんです。
「梨とれました」みたいな(笑)。
── そうですか(笑)。
森蔭 なんか、もう、恐縮で。
「いつもお世話になってます」って、
それ逆ですやん、みたいな(笑)。
── すてきな関係ですねえ。
信頼できる工場があって、
そんなふうにサイトでもお客さんと
つながることができるわけですから、
つい、もっと作ろうと思いそうですが‥‥。
森蔭 そこを、がまんしてます(笑)。
お買い求めいただけないのは
ほんとに申し訳ないのですが、
急激に増やすのは、やっぱり無理なんで‥‥。
徐々に。
── 徐々に。
見渡せる範囲で。
森蔭 そうですね。

  (明々後日、木曜日に続きます)
2008-02-04-MON