おもに秋葉原で実演販売されてたんですよね?
もう秋葉原からは離れていらっしゃるんですか?
えぇ、秋葉原デパートっていう、
デパートだかアパートだかわかんないような
3階建ての売り場がありましてね、
そこでやってました。
あの駅ビルみたいな建物ですよね。
そうです。
でも、もうあの店そのものが
なくなっちゃったんですよ。
あ、そうなんですか。
えぇ。
正規の売り場とは言えないような
国鉄の私有地のところにワゴンを出して
売ってましたね。
ハッキリ言って
不法占拠みたいな状況でしたよ(笑)。
それこそお客さんは
デパートで買ってるのではなく
大道で買ってるような気分だったでしょうね。
それこそ、買って帰って奥さんに自慢しようと
もくろんでいるオヤジたちが(笑)。
ほんと、まさに男性客ばかりでしたよ。
それでいてダークスーツに身を固めた
東京の勤め人のみなさまは
僕の実演販売を見ても
ゲラゲラ笑ったりはしないんです。
ジーッと見てる。
おもしろいことを言ってもジーっと見てる。
それこそね、鉄仮面ですよ。
鉄仮面(笑)。
じっと見てるなんて
まるで寄席の客みたいですね。
そうなんです。
それでいて聞いていないかっていうと
ちゃんと聞いてるんですよ。
そういう世界ですから、
あそこなら、帰ろうとしているお客さんに
「ちょっと待て、オヤジ、この野郎」って
言ってもぜんぜん通用するんですよ。
ははぁー。
いや、でもね、本当のことを申しますと、
僕の本拠地は秋葉原のあそこじゃないんですよ。
それこそ僕は道楽がきつくて、
なかなかデパートさんでの仕事に
恵まれなかったんです。
金物屋さんの前とか
巣鴨地蔵のテキ屋さんの端っこのほうとか
そういうところでやってたんですね。
あ、そうなんですね。
それこそ浮浪者がいるようなところでも
売ったりとかしてきましたから。
その点、デパートっていう場所は
何かを買いたいと思っているお客さんが
溢れているわけです。
そういう財布を広げている状態のところで
売れないことはないだろう、という
変な自負は持ってますね。
あー、いいなぁ!
あ、いや、その代わり、
ろくなもの売ってないんですよ、本当に。
そういうこと全部、実体験で
勉強してきてるわけですよね。
いやいやいや、
これがもう絶えずギリギリのところで
貧しい生活をしてきたものですから(笑)。
今日売れないと、明日のおまんまが食えない、
そんな状況がずっと続いてました。
道楽がきつかったもんですから。
でも、まぁ、いまそういう雑なことをしてたら
どこでもクビになっちゃいますしね(笑)。
うんうん。
そういう、世間の状況みたいなものは
昔とくらべればずいぶん変わりましたよね。
冗談が通じない世界とでも言いましょうか。
あぁ、包丁を売ってても
「包丁で手を切った」って
怒ってる人がいるんですよ。
「おまえから買った包丁で手切ったぞ」って。
でもね、これ、包丁ですからね。
そういうお客さん、いるね。
絶対いる。
僕もどうしようもないから
「痛かったでしょう?」としか
言いようがないんですよ。
(笑)。
(続きます)
2008-12-16-TUE
(C)Hobo Nikkan Itoi Shinbun