シルク・ドゥ・ソレイユっていうサーカスが
あるんですけど、そこにはクラウンと呼ばれる
ピエロがいるわけです。
これがやってる芸は
ほんとマーフィーさんと同じで、
思いっきり客をいびるわけですよ。
それこそ、せっかくお客さんが買ってきた
ポップコーンを「‥‥で、そういうわけで」
っていうタイミングで吹き飛ばしちゃったり。
ヒドイ(笑)。
どのくらいまで許してくれるかっていうのを
全部わかってるんです。
さらに言うと、
お客さんもみんな洒落が通じるんですね。
あぁ、そうでしょうね。
2度見たら、2度同じことをやってるわけです。
シナリオにしたら同じなんですけど、
当の本人にとって、昨日と今日は絶対に違う。
うん、違いますね。
それを1回でもテレビでオンエアしちゃったら
つまらなくなっちゃう。
シルクは絶対テレビでは見せないんです。
「テレビを入れない理由が
ハッキリしている場所」というのが
シルクを観たときの印象ですね。
テレビにさえ出なければ、一生ポップコーン
吹き飛ばして、芸を磨いていける。
なるほど。
こういうことのおもしろさっていうのが
僕はもっと知りたいんですよね。
それはうらやましい世界ですよね。
そもそも披露する場があるってことですから。
僕らの場合はメインでやらせてもらっている
デパートさん自体が現状、斜陽な状態ですから、
残念なことにどんどん披露する場が
なくなっちゃってきてるんですよ。
あ、なるほど。
シルクはサーカスだから
場を持っているわけだ。
ええ。
僕らは落語家と違って高座じゃないですし、
基本、お客さんは通りがかりの
何の罪もないお客さんだから。
そうだそうだ。
何の罪もない(笑)。
さらに言えば、量販店の形態が郊外型で
入り口がたくさんあるような形に
どんどん変わってきている。
そうすると、罪もないお客さんをつかまえる
網を張るところがないんですよ。
あぁ、そうですよね。
だから本当に場がなくなってきちゃって。
そこに持ってきてやってることが
もう本当に汚いし、柄が悪い(笑)。
だからもうどんどん廃れてきちゃってますね。
ギャランティをもらうわけじゃなく
やっぱり売ってなんぼなもんですから。
僕が学生のころに
アルバイトでこんなことしてたころは
もっとぜんぜん効率はよかったですけどね。
えっ? 学生のアルバイトだったんですか?
えぇ、僕はアルバイトから
そのままこの道に入っちゃいました。
あぁ、そうなんだ。
意外でした。
でも、それってなんか寄席に通い詰めて
落語家になっちゃう人みたいですよね。
あぁ、そう言われてみればそうかも(笑)。
どう考えても同じですよ。
現に、僕は落語が大好きで、
子どものころから寄席に通い詰めてたんです。
志ん生さんとか三亀松さんをリアルタイムで
ずっと追いかけてました。
あぁ、もう最高ですね。
子どものころから
三亀松のやる芸がわかってたわけですね?
わかってましたね。
それ、おかしいなぁ(笑)。
三亀松のアソコなんか何度も観ましたよ。
客席で、ひょいっと見えちゃうんだ。
そうやって落語を追いかけてましたけど、
「落語家になりたい」と思ったことは
一度もないんですよね。
でもね、最近‥‥。
最近?
最近、思ったんです。
「なんで、
落語家を目指さなかったんだろ?」って。
(続きます)
2008-12-22-MON
(C)Hobo Nikkan Itoi Shinbun