暮らしの中の小休止のように、
夢中になって没入できる編みものの時間。
ぎゅっと集中して、気がつけば
手の中にうつくしい作品のかけらが
生まれていることを発見すると、
満たされた気持ちになります。
編む理由も、編みたいものも、
編む場所も、人それぞれ。
編むことに夢中になった人たちの、
愛おしい時間とその暮らしぶりをお届けします。

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前編 編む時間、そのものが好き。 明石佐奈子さん

 
「編みものは、ただの趣味なんです」
と遠慮がちに話す明石佐奈子さん。
ですが、ご自宅には趣味の範囲にとどめられないほど、
完成度の高いニットがたくさんあります。

 
明石さんは、
過去「ニット風景」にも登場いただき、
Instagramに登場するニットのかわいらしさと
編みものや手仕事を楽しまれている様子を感じる投稿に、
「どんな“編む人”なんだろう」と気になる方でした。
このたび取材をご快諾いただき、
木の温もりを感じる素敵なご自宅にうかがいました。

 
明石さんは2人の子どもを育て、
フルタイムでお仕事をされながら、
往復の通勤時間や昼休み、
お休みの日の移動の車中でも
一年中、ずっと編みものをされているそう。
まさに「四六時中」編む手を止められないほど、
編みものに夢中です。

 
「祖母が編みものをやっていて、
祖母が母に教え、母がわたしに教えてくれました。
小学校2、3年生のころだったと思います。
かぎ針と棒針、どちらもやってみて、
父にマフラーを編んだこともありました。
ですが、しばらく編みものをしておらず、
大人になって本屋さんで
三國万里子さんの本『きょうの編みもの』を
見つけたのをきっかけに再開しました。
そこから、すっかり編みものにハマってしまい、
三國さんの過去作もすべて買い集めました。
毎年、三國さんの新作を楽しみにしています。」
また、SNSの存在も、
周囲に編みもの仲間がいなかった
明石さんを支えます。
「編み始めてちょっとしてからInstagramを始めて、
そこで他の方のニットを見たり、
同じ作品でも糸で全然雰囲気が違うことを知ったり、
編みもの好きの方と情報交換できたり。
そうやって編みものの楽しさが広がっていったことも、
夢中になるきっかけとして大きかったと思います。」

 
再開して、はじめて編んだのが写真手前の手袋です。
編み込みの模様も、
はじめてとは思えないほどきれいです。
「編みものをやったことがあるとはいえ、
かじった程度の知識だったので
基礎本を購入して独学で勉強しました。
手袋は減らし目や増やし目があまりなく、
編みやすかった記憶があります。
ただ、末端がまったく冷えないタイプなので、
手袋の出番はほぼありません(笑)。
ただ、編む時間がすごく好きなんです。」
「編み終わって手元が寂しくなるのが嫌で」と明石さん。
編んでいる時間そのものが好きなため、
手が空いてしまわないように
作品を同時並行で編みながら、
つねになにかを編んでいる状況をつくっています。
「はじめて編んだフェアアイルは、
毎シーズン一着は編みたいと思えるほど
編む時間は楽しいものでした。

 
子どもができてからは、
編んだものを子どもに着てもらうのが楽しくて。
赤ちゃんのときに編んだものなど
今でも大事にとっています。」

 
バリエーション豊かなニットたちがならび、
棒針と糸を自由自在にあつかっている
明石さんの姿が想像できます。
「手袋もたくさんありますが、帽子も好きです。
帽子については被る機会も多くて出番もあるので、
よく編んでいます。

 
すごく時間を使っているということも
あると思いますが、
ひと月に10個は編んでいるかもしれません。
一年中編んでいますが、
とくに秋以降寒くなってくると
より一層気持ちが盛り上がりますね。」
編みものの全方位に目を向けて、
心のおもむくままに手を動かしている明石さん。
編むこと、そのものを楽しみ、
身近な人に着てもらっている姿を想像しながら
ニットをつくることに心惹かれているようでした。

 
「手編みの本がたくさん発売される秋口に、
新刊をひと通りチェックして、
今年はどんなものを編もうかと
編みもの計画を立てます。
ケーブル編みも、編みこみも、
最近では海外の編み図にも興味がありますし、
編みもの全般に興味があります。
最近では、家族に着てもらえるのがうれしくて、
家族のニットばかり編んでいるかもしれません。」

(後編では、明石さんがご家族に編んできたニットをご紹介。)

写真・川村恵理

2024-12-16-MON

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