暮らしの中の小休止のように、
夢中になって没入できる編みものの時間。
ぎゅっと集中して、気がつけば
手の中にうつくしい作品のかけらが
生まれていることを発見すると、
満たされた気持ちになります。
編む理由も、編みたいものも、
編む場所も、人それぞれ。
編むことに夢中になった人たちの、
愛おしい時間とその暮らしぶりをお届けします。

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後編 楽しい気持ちがいちばん大事。 明石佐奈子さん

 
医療関係のお仕事に従事されている明石さん。
理系出身ということもあり数字に強いためか、
編み図から計算してサイズを変更したり
応用を加えたりすることに抵抗がないそう。
今では家族に編むことが楽しく、
ご家族も明石さんが編んだニットを身につけています。
それぞれのサイズや雰囲気にぴったりあった作品は
身体にフィットし、どれもお似合いです。

 
「大人サイズの作品でも子どもサイズになるように、
編み図を調整して編むこともあります。
あとは、細い針と糸を使って、小さくしたり。
自分でつくるとより一層、大事なものになりますよね。
秋生まれの主人には、誕生日になると
毎年お誕生日のニットを贈っています。」

 
糸もお好きだという、明石さん。
基本的には編みたい作品が先にあり、
それから合う糸を探しますが、
糸先行で編みたいものを考えることもあるそう。
「糸にひとめぼれをしてしまって、
思わず買ってしまうことも。
とくに、海外の糸は色使いや質感が
日本の糸とは違う魅力があり、
手が伸びてしまいます。
先に糸が手元にあるときは、
『糸の魅力を発揮できる編み図はどれだろう』
といろいろ探すのも楽しいです。」

 
編みもの以外にも好きなこと、
それが山とキャンプ。
家族で時間を見つけては
いろいろなところに出かけています。

 
「息子が2歳、娘が4歳のときに
キャンプをはじめてからは、
編みものと同じくらいの時間を割いて
次はどの山に登るか、どこでキャンプをするか、
常に予定を考えているかもしれません(笑)。
キャンプでも、編みものをします。
簡単に編めるものを持っていって、
外でゆったり過ごしながら
編みものができる時間は最高ですね。」
日常的に編んでいる明石さんの姿を見てなのか、
子どもも自然と編みものができるように。
「わたしも子どもも車酔いしないので、
キャンプに行く車中でわたしも娘も
ずっと編んでいます。

 
常々編んでいることについて
家族に直接聞いたことはないですが、
『編みものが好きなんだなあ』くらいの感じで
わたしのことを見ていると思います。
多少、波がありますが、
隙間時間はすべて編みものに使う、
という生活が何年も続いていて、
この先も変わらなさそうですね。
今年くらいからは、メリヤス編みであれば、
手元を見なくても編めるようになったことに
気がついてしまって。
暗い車中でも“ながら編み”ができてしまう。
わたしのなかで大きな発見でした(笑)。」
明石さんが、これだけまっすぐ編みものに夢中になる、
その原動力には「楽しい」という気持ちがあります。

 
「もともと、楽しさが第一優先の人間で、
自分の気持ちが満たされることが大事。
たとえば、時短料理はまったくやる気がでないのですが、
味や見た目が心惹かれる料理のほうが
何時間かかってもつくろうと思えるんです。
なので、目的に合わせて編み図を探すのではなく
写真を見て、ひとめぼれで編むことが多い気がします。
実用的なものよりも、
子どもに着せてみたいと思ったり
編んだことがないデザインだったり、
ワクワクする気持ちが編む原動力になっています。」

 
どんどん、編みものの技術と楽しさを
蓄積している明石さん。
次なる目標は、英語で書かれた
海外の文章パターンでニットを編むこと。
そして、自由に編み続けることです。
取材後に送ってくださった素敵なメールとともに、
編みものへの気持ちを最後にお伝えします。
「基礎を習得してそこから応用するタイプなので、
『英文パターンハンドブック』を手に入れました。
この本を片手にパターンを読解しつつ、
すこしずつ編み進めています。
Cirrusというお店をしていますが、
作家でデビューしたい、
世の中にないデザインを生み出したい、
という野望は今のところありません。
それよりも、この編みものという壮大な歴史を、
味わいたい気持ちが今は大きいですね。

 
わたしが目の前で編んでいるのは小さな一目ですが、
その背景には、編みものという文化が育んできた
長い歴史があって、その中でさまざまな技法が生まれて、
たくさんの人が仕事や趣味を通して
編みものを楽しんできた時間があります。
実は、よく考えたら、
編みものの歴史上の人物ってあまり知られていません。
つまり、特別な誰かの天才的な発明だけが
文化をつくるのではなく、
純粋な気持ちから技法が生まれて、
文化が育まれてきたのではないかと想像していて。
それが、私が編みものを好きなところのひとつです。
自分や家族、友人のために
自分のやりかたで無理なく楽しめる。
そういうフラットさが、
わたしにとっての編みものの魅力です。

 
これからも、編まなくちゃと気負いすぎず、
ひとめぼれしたものを自分の好きな糸で好きなときに、
自由に編んでいきたいと思いますし、
この楽しさを子どもたちにも伝えていく
“編む人”のひとりで居たいと思います。」

 


明石佐奈子さんの編む日々を見られたい方は、
Instagramもチェックしてみてください。
また、明石さんの作品を購入できるお店があります。
名前は「Cirrus(シリュス)」。
アイテムによってはサイズの要望に合わせて
編んでくださいます。
現在は、日本の羊の毛糸で編む
もこもこのベストのオーダーを受付中。
着こなしもとてもかわいらしいので、
ぜひ一度のぞいてみてください。

撮影|明石さん 撮影|明石さん

 

(明石さん、ありがとうございました。)

写真・川村恵理

2024-12-17-TUE

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