小学生のころ、お隣りさんの寝タバコが原因で、
実家が全焼してしまったこと。
お母さんが蒸発し、お父さんが亡くなり、
中学生以降、親戚の家を転々として暮らしていたこと。
そんな生い立ちをはじめ、
人生に訪れるさまざまな「切ないできごと」を
クスッと笑えるユーモアに変えて届けてきた、
「実家が全焼したサノ」さん。
今回ほぼ日はサノさんに、
「『自分の人生をコンテンツにする』って、疲れませんか」
と、質問をしてきました。
日々の暮らしの中から
「コンテンツ」になりそうなものを探してみたり、
自分の人生を「コンテンツ」として捉えてみたり。
いつの間に染みついていたそんな感覚に、
ふと疲れてしまう瞬間が、今の時代にはある気がします。
気になるんです。そんな中、たくましく、面白く、
「自分の人生をコンテンツにし続けている人」の、
頭の中や、心の中が。
そんな問いに、心の奥深くから、
丁寧に丁寧に言葉をすくいあげるように応えてくれた、
サノさんへの全4回のインタビュー。
聞き手は、ほぼ日のサノです。ややこしくて、すみません。
実家が全焼したサノ(じっかがぜんしょうしたさの)
広告代理店で働くサラリーマン。
「実家が全焼したサノ」という
X(旧Twitter)アカウントで、
毎日切なかった出来事を投稿している。
幼少期に実家が全焼したことを機に、切ない人生を送る。
学生時代にホストクラブで働き、卒業後はバーを経営。
その後、事業拡大を目指し大学院でMBAを取得するも、
バーは潰れてしまう。
著書に『実家が全焼したらインフルエンサーになりました』
(KADOKAWA)がある。
第2回
調子に乗りようがない。
- ――
- Twitterを始めて1年のうちに、
フォローしてくれる人たちの数が
1万人、2万人、6万人‥‥と増えていったとき、
自分が「すごい人」の仲間入りをしたような、
そんな気持ちはなかったんでしょうか。
というのも、あの、
僕だったら絶対に、調子に乗ってると思うんです。
- サノ
- (笑)。そうなんですか?
- ――
- 僕がSNSに疲れてしまったのって、たぶん、
「自分もすごい人の仲間入りをしたい」みたいな動機が、
少なからず自分の中に混じってたからだと思うんですね。
だから、どんな投稿をするときも、
どこかで実際の背丈より大きく見えるよう背伸びしてて、
自然な投稿ができなくなっていって、
そんなだから疲れちゃったところもあった気がして。
- サノ
- なるほど。
- ――
- サノさんの場合は、そういう、
「すごい人の仲間入りをしたい」みたいな動機とか、
実際に「仲間入りできたかも!」みたいな高揚感は、
少しもなかったんでしょうか。
- サノ
- うーーん‥‥僕の場合は、
「調子に乗る」みたいな感覚は
本当になかったかもしれません。
そこってなんか、「なぜフォロワーが増えたか」
という理由がけっこう大事だと思っていて。
- ――
- どういうことですか?
- サノ
- たとえば僕が、
「めちゃくちゃイケメン!」みたいなことで
フォロワーが増えてたりしてたら、
調子に乗ってたと思うんですよ。
でも僕ってただ、
「切ないできごとが起きてフォロワーが増えてるだけ」
だから、そういう意味で‥‥
なんか、調子に乗りづらい(笑)。
- ――
- アハハ、なるほど(笑)。
- サノ
- みんな「こいつは次、どんな切ないことを起こすんだろう」
ぐらいの感じで見てるというか、
なんなら面白くない投稿したときは
ほんとに誰もいいね押してくれないんで。
本当のインフルエンサーって、「うんこ」って言うだけで
1000いいねとかつくじゃないですか。佐藤二朗さんとか。
ああいう領域に行くと
「影響力あるな」と思うんですけど、
僕が「うんこ」と言っても、
たぶん、本当に「4いいね」ぐらいなんですよ。
シビアな審査員たちがフォローしてくださってるというか、
べつに誰も僕のことを尊敬して
フォローしてるわけじゃないんで。
それをわかってるから、調子に乗りようがないんです。 - あと僕の場合、
たしかに花は咲いたかもしれないですけど、
「自分の思ってた色の花」じゃないから。
- ――
- ああー‥‥すごく面白い視点ですね。
「自分の思っていた色の花」じゃない。
- サノ
- 自分で「これ絶対ホームラン打つぞ」って狙って
実際にホームラン打てたら調子に乗れると思うんですけど、
僕はなんか、バントの構えしてるのに、
たまたまポンってボールが飛んでいって、
ヒットになったみたいな感じだから、
思ってたのと違うんですよね。
「なんか、思ってた花じゃないな」っていうので、
そこでも調子に乗れないっていう。 - しかも、「実家が全焼したサノ」という花にしても、
「みんなが僕に求めてる笑い」みたいなものがあって、
そこのツボを押さえないとダメなんですけど、
僕はそのツボを今でも絶妙にわかってないんで、
スベるときは、大スベりするんです。
- ――
- 面白いし、切なくなってきました。
でも、サノさんがインフルエンサーになっても
浮足立たなかった理由が、腑に落ちた気がします。
- サノ
- まあ、そもそも僕、
浮足立つような、そんなにいい人生送ってないですしね。
- ――
- ‥‥あの、でも逆に言うと、サノさんって、
たしかに「調子に乗らない」かもしれないですけど、
べつに自分のことを「卑下もしてない」ですよね?
お話ししていて、なんとなく、そう感じるんですけど。
- サノ
- あ、それはそうですね。
「人よりいい人生」とも思ってないですけど、
かと言ってそんなに「悪い人生」とも思ってないというか。
そこは、そもそも「人とあんまり比較してない」
というところがあるのかもしれません。
- ――
- それは、もともとの気質ですか。
それとも、過去の経験によって根づいたものでしょうか。
- サノ
- ‥‥「経験に根づいたもの」なのかな、ひょっとしたら。
- 僕、小学校のときに母親が蒸発して、
中学校のときに父親が自殺して、
親戚の家をけっこう転々としてたんですね。
おじさん、おばさんの家で暮らしたりとか、
おじいちゃん、おばあちゃんの家で暮らしたりとか。
そうやって場所を転々としていくと、
なんか‥‥基準があまりにも変わっていくんで。
場所が変わると評価軸も毎回変わるんで、
人と自分を比較しづらいんです。
そういう暮らしを繰り返してきたから、
「物事を比較で考えない」というふうに
なっていったのかもしれません。
- ――
- はああ、なるほど。
つまり、いろんな環境を経験すればするほど、
「評価なんて環境によって変わっちゃうものだから、
まわりと比較していてもあんまり意味がない」
ということがわかっていくという。
- サノ
- そういう感じだと思います。
僕、広告代理店で働く前は
ホストクラブで働いてたこととかもあるんですけど、
ホストクラブだったら「売上のマウント」はもちろん、
売れてないホスト同士でも
「俺のお客さんのほうがかわいい」とか、
本当にいろんな「マウントの軸」があって。
で、会社に入れば今度は「学歴のマウント」があったり、
「どっちが出世してる」っていうマウントが
あったりするじゃないですか。 - 結局どんな環境にいても
「マウント」というのはあって、
どのマウントにも上には上がいて、
しかもそれは場所が変われば中身も簡単に変わる
けっこう曖昧なものなんだと思うと、
あんまり「比べる」ってところで
一生懸命頑張っても仕方ないのかもな、
っていう感覚は、自分の中に根付いてる気がします。
(つづきます)
2024-12-18-WED