
世界の感じ方が少し変わるかもしれない
旅があるなら、行ってみたいと思いますか?
いろんな地域の方と関わる「ほぼ日あっちこっち隊」。
北海道では、増えすぎているシカの話をきっかけに
道東の西興部(にしおこっぺ)村にたどりつき、
さまざまな方と仲良くさせていただいています。
狩猟、釣り、きのこ狩りや山菜採りなど、
豊かな自然とともに、思い思いに暮らす人々。
あいまのおしゃべり。都市とは違う時間の流れ方。
固まっていた考えがほぐれてゆきます。
この魅力をいろんな方に紹介できたらと思っていたら、
エゾシカ旅行社さんのツアーへの企画協力のかたちで、
ほぼ日も関わらせてもらえることになりました。
知らない方も多い土地だと思うので、
ずいぶんしっかりめに紹介してみます。
あなたもぜひ、西興部に出かけてみませんか。
(写真=幡野広志)
- ツアー紹介は、今回が最終回。
最後に、西興部村の「鹿牧場」の管理人であり、
猟友会の会長でもある
中原慎一さんに聞かせてもらったお話をご紹介します
(ハンターの順平さんとともにうかがいました)。 - 子供のころからずっと西興部で暮らしてきた中原さん。
この土地が持つ、豊かな自然の気配や、
気持ちのよさを感じてもらえたら嬉しいです。
- ──
- この「鹿牧場」は、どういう理由で始まったんですか。
- 中原
- もとは酪農をしてたんだけど、30年前、
設備投資の時代にいろいろあってやめて。
土地が遊んでるから、西興部の有志10人で
「ここでシカを飼おう」って、やりはじめたんだね。
- ──
- 当時は野生のシカって、西興部にあまりいなかった?
- 中原
- うん、いなかった。
- だからシカが多かった帯広の方から、
何頭か仕入れてきたんだね。
それから苫小牧の牧場でも飼ってたんだけど、
繁殖して増えるもんだから
「狭すぎる」ってメディアで叩かれて、
ここへ5、6頭、連れてきたの。
旭山動物園からも来たんだよ。
あそこも増え過ぎてどうしようもないって。
- ──
- ここははじめから観光用の牧場だったんですか?
- 中原
- そう。だからここにいるシカが死ぬのは、
事故とかその程度だね。昔からずっと。 - あとここは、日本の企業の試験地にもなってて。
- 日本道路公団だとか、柵をつくる会社とか、
年に何組か、試験をしにくるんだね。
いまは主に忌避剤(キヒザイ)の研究。
シカが嫌がるにおいはなんだろう、とかって。
- ──
- つまり、道路や線路にシカが入らないように
するためのにおいを作る実験というか。
- 中原
- うんうん。
だからいま、旭川の高速道路沿いにさ、
10メーター間隔でフェンスのとこにずーっと
袋とかビンとか、いろいろな忌避剤をぶら下げてる。
「そこまで来たら帰るように」って。 - でも、オオカミだとかの尿だとか糞だとか、
一所懸命やってるんだけど、
なかなか難しくて、俺が見ててもいまのところ、
これっていうのはあまりない(笑)。
- ──
- なるほど、難しい。
- 順平
- はっきり効果があるものが見つからないから、
やっぱりまだ「山で獲るしかない」という
ことになってますね。
- ──
- いま、30年前にはいなかったエゾシカが、
西興部にもすごく増えてますけど、
観光のお客さんは減っていたりしますか?
- 中原
- ああ、いまは外に多くなって、
ここに来なくても見れたりするけどね(笑)。 - それでもけっこうみんな、見に来てくれるよね。
とくに夏場、6~8月ぐらいまでなら、
ここではシカに触れるからさ。 - その時期は分娩時期で、
全部落角(らっかく)するから全然角もないし。
小学生なんか中に入れてやったら、
もうね、喜んで2時間ぐらいは遊んでる。
「触ったらぬくい」とか「きれい」だとか
「つるつるしてる」とか、いろいろ喋るんだわ。
そのときは子どもたちがいちばん喜ぶね。
秋とか冬はもう全然入れないからさ、
そのときだけなんだけど。
- ──
- いま、ハンティングは
毎日ぐらい行かれてるんですか?
- 中原
- いまは数日に1回とか、村の外から来た人の
ガイドをしてたりするね。
- ──
- ガイドがないとき、中原さん自身は猟に出ない?
- 中原
- 猟は、いまはキノコに専念してる(笑)。
- ──
- あ、中原さんは凄腕の
「松茸ハンター」という噂を聞きました(笑)。
- 順平
- 今年わらびは何キロぐらいとったんですか?
- 中原
- わらびは500キロぐらい。
- 順平
- 松茸はいまのところ?
- 中原
- 松茸はなんぼとってるべなあ
……トータルで100キロいったんかなあ。
とれないときで、1回3キロぐらい。
- ──
- 3キロでどのくらいの量ですか。
- 中原
- 100本以上はあるわけね。
- ──
- うわー、国産の松茸が。
松茸ってそんなにいっぱいあるんですね。
- 順平
- あるところには、ぼっこぼこ出てるんです。
「いも拾い」って(笑)。
- 中原
- 遅い時間になると、採られちゃうから、
その前に山に行くんだね。
今日あたりだと日の出が5時25分とかで
その前にもう山へ入ってるからさ。 - 暗くても見えるんだよ、白く光って。
だから俺は「松茸は後光がさしてる」って。
雨上がりだとよけい光って見える。
- ──
- 雨上がりの松茸。すごい。
それは、かごを背負ってどんどん?
- 中原
- いや、かごは背負わない。
ビニールは破れちゃうからね、布の袋に入れて、
ある程度、2キロぐらいになると重たいから
しばってリュックに入れて、
また次の袋を持ってこうやって探す。
- ──
- うわー、いいですね。
- 中原
- あと、釣りはやるね。
でもシャケ(鮭)釣りもこのあいだ
2回行って、もう十分釣ったんで。
- ──
- じゃあいま、冷蔵庫にすごくたくさん
筋子が漬けてあるとかですか?
- 中原
- いや、メスはそんなに釣れなくて、
この前は5本釣れて、その中でメス1匹だった。
その前に船に乗って行ったときは、
8本釣って4本メスだったけどね。
- ──
- あ、いい確率。
- ──
- 西興部の生活のなかで、
中原さんがいちばん好きな部分はどこですか?
- 中原
- 西興部でいちばんったってなあ‥‥
わかんないけども、全部(笑)。
- ──
- 全部(笑)。
- 中原
- 西興部はね、宝の山だよ。
なんでも豊富で、山菜にしろさ、
他の町にないものがあるからさ。 - 行者(ぎょうじゃ)にんにくあたり、
隣町の下川町やなんか出てないんだよ。
それでみんなこっち来るんだ。
どの季節もやることがいっぱいあるね。
- ──
- 年がら年中、採集するものがありそうですね(笑)。
- 中原
- あるあるあるある。
俺、性格上さ、なんでも
趣味と実益を兼ねてるから(笑)。
「遊びで金になる」っていうのがいいよね。 - 春は山菜だってさ、行者にんにくだとかフキだとか。
タモギダケって黄色いキノコあるでしょ。
あれだって天然ものを採って、
パックに入れて道の駅に置いといたら、
すぐ売れちゃうんだよ。香りだとか味が全然違うから。
- ──
- おいしそう。
- 中原
- あと春は、ウドとタラの芽。
そんなのを袋にボッと入れて、ホチキスで留めて
ポンポンと置いとけばさ、けっこう売れるんだよ。
時期になると「いつ入るの?」とか言われてね。 - でも、タラの芽やなんかね、うちら安いっしょ。
400円ぐらいでけっこう入ってるから、
したらね、業者が全部買ってくときもあるんだよ。
だから「全部買ったらだめだ」って
あそこのお姉ちゃんが言うんだけど。 - まあ、時期もあるからね。
「いつ入る?」とか言われても、
そんなもん時期の問題だから。
伸びすぎてもだめだし。 - 言われたら、ある程度標高の高い、
寒いとこにも見に行って、探して持って来て
入れてやるけども、時期もあるからね。
- ──
- そういうのは、長年の間に知った、
自分の狩場があるんですね。
- 中原
- そうそう、だいたいわかるから。
「この時期はあそこ行かなかったらだめだ」とかね。 - そしたらもう、林道にスコップ持ってって雪かきして、
北向きで四駆入れるようにして、
自分で道を作って、山の上まで上がって。
- ──
- たのしそう。
ほんとに暇してる暇がないですね。
- 中原
- だけどもう年が年だから、あと何年できるかね。
- ──
- 今年は熊は多いんですか?
- 中原
- だんだん増えてる。今朝もあれだよ、熊いたよ。
山へ上がっていくとき沢の下に。
そんなにおっきくないけど3才ぐらいの。
見てたら、うちらの方見とったけど。
- ──
- 中原さんは、狩猟はいつはじめたんですか?
- 中原
- 狩猟は俺のおじさんがハンターで、
20代のときそのおじさんに
熊撃ちやなんか連れられて行ったからね。
だからもう50年前だよ。
- ──
- 銃って、いまのもののほうが良かったりするんですか?
- 中原
- いやあ、今使ってるのだって、もう40年前のものだから。
- ──
- そんなに買い替えるものでもないんですね。
- 中原
- うん。その前に使ってたのは80年ぐらい前の銃だもん。
昔の銃身がいいからさ。
- ──
- 昔のほうが重かったりするんですか。
- 中原
- いや、重さは昔も今も変わんないけど、
重たい銃のほうがショックがないから使いやすいね。
俺ので、スコープ付けて、6キロ500ぐらい。
重いから半日しか背負って歩けない。
- ──
- 体力とかもいるんでしょうね。
シカもね、何十キロを引っ張らないといけないし。
ハンターって大変だ。
(おしまいです。興味が湧いてきた方がいたら
ぜひ西興部を訪れてみてください。
人々の魅力的な暮らしと、豊かな自然が待っています)
2026-04-12-SUN
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