世界の感じ方が少し変わるかもしれない
旅があるなら、行ってみたいと思いますか?

いろんな地域の方と関わる「ほぼ日あっちこっち隊」。
北海道では、増えすぎているシカの話をきっかけに
道東の西興部(にしおこっぺ)村にたどりつき、
さまざまな方と仲良くさせていただいています。

狩猟、釣り、きのこ狩りや山菜採りなど、
豊かな自然とともに、思い思いに暮らす人々。
あいまのおしゃべり。都市とは違う時間の流れ方。
固まっていた考えがほぐれてゆきます。

この魅力をいろんな方に紹介できたらと思っていたら、
エゾシカ旅行社さんのツアーへの企画協力のかたちで、
ほぼ日も関わらせてもらえることになりました。

知らない方も多い土地だと思うので、
ずいぶんしっかりめに紹介してみます。
あなたもぜひ、西興部に出かけてみませんか。

(写真=幡野広志)

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10. 何もないなかで、何でもできる。

 
ゲストハウス「ガコッパー」の和さん、
「エゾシカ旅行社」の中根さん、
ほぼ日あっちこっち隊の田中での
ある夜の会話、続きです。
このツアーでやりたいことについて話しました。

中根
旅行会社をやってると、どうしても
「旅行とはこうあるものだ」みたいな、
わかりやすい型から
ツアーをつくってしまいがちで。
いま話してるような、
いわゆる「観光要素」をフックにせずに
その土地の魅力を伝えるような旅行って、
なかなか表現が難しいんです。
そうですよね。やっぱり普通は
「この場所の観光要素は何か?」を考えて、
そこから「何が必要」で「予算がどう」とか
導き出して、プランを作るじゃないですか。
だから
「西興部は観光要素がないからツアーが難しい」
という声はよく聞きますし、
ぼくらもガコッパーをやりながら、
「そんなところに人に来てもらうのは難しい」
とかよく言われるんです。
中根
そうですよね。
でも本当は「観光要素がないから人を呼べない」
ということでもないと思うんですよ。
ぼくがちょっとひねくれてるのか、
単純に「来る理由がないなら作ればいい」と思うし。
「何もないってことは、なんでも作れることだ」
って超バカな、ポジティブな考えもあって(笑)。
「自分」と「場所」が、人が来る理由を
作ることだってできると思ってて。

田中
「自分」と「場所」が、人が来る理由を作る。
たとえば西興部って、災害が少なくて、
地震も少ないし、水災害もないんです。
いまのところ、熊災害も聞かないんですけど。
そういういいところなんですけど、
地震が少ないぶん、温泉も少ないんです。
で、温泉ってぼくも好きだし、
観光要素としても魅力だと思うんです。
だから「温泉いいな」と思って、
自分たちが住む場所を探すなかで、
温泉地を候補にしたこともあったんです。
だけど温泉って、それぞれの土地の経済と、
ものすごく繋がってるんですよ。
中根
利権が生まれますからね。
そう。で、調べていけばいくほど、
なにかやろうとすると、そういう部分から
考える必要があるのがわかってきて。
結局、自分はそういう難しさを抱えてまで、
温泉地でやっていきたい感じには
ならなかったんです。
むしろ自分にとっては、自分で風呂釜を作って、
自分で水を引っ張って来て、
自分で割った薪でお湯を沸かすほうが
断然価値があると思って。
中根
これですよね。
そういうおもしろさをうまく表現できれば、
お客さんも来てくれるんじゃないかと思ってて。
田中
そういうおもしろさ‥‥つまり
「自分でつくるおもしろさ」みたいな?

「来てくれるお客さんと一緒に
観光要素に代わるものを
作っていったらいいんじゃないか」
みたいな感覚があるんですね。
だからたとえば、さっきも話に出ましたけど、
今週、ガコッパーの裏庭で
「窯をつくるワークショップ」
というのをやっているわけです。
粘土を固めて積み上げる作業をやってて、
ゲストハウスにたまたま泊まりに来た人でも、
やりたい人には参加してもらってて。
そうすると、案外みんなおもしろがって
一緒にやってくれるわけですね。
で、さらに「完成を見に来ます」とかも
言ってくれてて。
そういうのって、新しい観光だと思うんです。
これ、いいなと思って。
田中
ああ、なるほど。
つまり「観光要素」のかわりに、
「一緒におもしろがれる現場」があるというか。
そうそう。
だから、やって来る人たちは
「生きる」とか「住む」とかを
一緒にやるのがおもしろくて来る。
中根
そうですね。
つまりこれ、ぼくらの生活が
来るきっかけの、商品になるっていう。
すごい時間がかかるし、ビジネス的には
まったく儲からなそうですけど(笑)。
この規模なら、成り立つ感じがあって。
それは、新たに観光要素を作るとかじゃないから、
すごく自然なサイクルのなかでできるし。
そのぶん収入も少ないと思うんですけど、
別に俺、お金を儲けて
ベンツを買いたいわけでもないので。
ぼくらはいままでずっと、
何か蓄えたいとか考えないまま、
「金もねえけど借金もねえ」でやってきてて。
お金が入ったときも、
「次の何かにつながればいいな」とか思いながら
お世話になった人にお酒を1本送ったりとかしてて、
流れを回すようなイメージでやってるんですね。
今後も、体さえ動けばこのスタイルで(笑)。
いろんな人たちとたのしめていけたらいいな
って感じなんですね。

田中
おおー。
「うまく見せる方法」や「もっと儲ける方法」も、
なんとなくはわかるんです。
でもそっちに行ってしまうと、
どこかファッションっぽくなるというか、
いま自分がおもしろがってやってることが、
ちょっとつまらなくなってしまう気がするんです。
もちろん、そういうのをたのしめる人とか
ビジネス的な野望がある人とかなら
いいと思うんですけど。
中根
そうですね。
ぼくも旅行を仕事にしながら、自分たちの活動が
あまりにビジネスだけの話になってしまうと、
モヤモヤする感じがあるんです。
むしろ、やりたいのは、
自分たち自身も「いいな」と思う旅行を
参加する人たちにもたのしんでもらうこと。
来た人がそれぞれなりに土地と出会うこととか、
自由さとか、偶然性とかを含めたおもしろさ。
そういうことを味わう
きっかけを作っていけたらと思うんです。
でも旅行会社としては、
その思いだけが強くなりすぎてしまうと、
それはそれで陳腐化しやすいジレンマがあって。
いまもずっと、どうやればうまくいくかの
チャレンジ期間なんですけど(笑)。
田中
お話を聞いていると、
「ガコッパー」も「エゾシカ旅行社」も
根本の、大事にしたいところが
けっこう似ている感じがありますね。
「ちゃんと自分たちがおもしろいと
思えるものを届けたい」っていう。
それも「自分たちもおもしろがりながら」という。
そうですね、そこは基本というか。
中根
もちろん、難しさはあるんですけど。
田中
まあ‥‥まずは、いま話しているようなことを
「おもしろそう!」と思ってくれる人たちに
気づいてもらって、
つながりが増えていくのが最初なんですかね。
そうやってすこしずつ人が集まることから、
おもしろいことが増えていけば。
中根
そうです、そうです。
そういうことかなと思いますね。
田中
あと、さっきの「生活に参加する」という話と
つながってそうな話ですけど、
西興部とか「ガコッパー」って、
ぼくはいま2回目ですけど、すでに
「ただいまー」「おかえりー」みたいな
気分があるんですよ。
ある種の故郷感というか。

ああ、その感じはぼくらもけっこう
思ってもらいたいと考えてて。
「行く場所」じゃなくて「帰って来る場所」に
なっていくといいなと思ってます。
田中
自然が豊かな場所だから、季節ごとの印象は違うし、
「ガコッパー」自体も変わっていくから、
何度も来るたのしさって、けっこうあって。
「足を運びたくなる場所ができるおもしろさ」は
合わせて伝えられたらと思いますね。
今日もみなさんが裏の窯づくりを
手伝ってくれたじゃないですか。
それも「ただいま」「おかえり」だと思うんですよ。
「これは前に自分が叩いた土だ」みたいな。
田中
たしかに。生活の部分を一緒にやることで、
故郷感は増しますね。
中根
で、今回のツアーの話でいえば、
このツアーに何度も参加してほしいとか、
そういうわけでもないんですよね。
このツアーはきっかけになればよくて、
2回目以降はもう自分たちで
「次は西興部と周辺エリアをまわってみます」とかで、
来て、勝手に巡ってくれるぐらいでもいい。
田中
そうですね。
で、さらに言うなら、帰結として、
西興部じゃなくてもいいと思うんです。
「あ、こういう生き方があるんだ」と知って、
そのあとでその人が別の場所に
自分なりの西興部を見つけてもいい。
中根
ああ、そういうことを表現できたら
すばらしいですね。
田中
そっか。それもそうですね。
西興部にこだわらない自由なかたちで、
来た人たちそれぞれに、嬉しさが増えれば。
ええ。それぞれの人にとっての
おもしろさが増えていくことが、
まずはやっぱり大事だと思うんで。

(つづきます)

2026-04-11-SAT

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