「気仙沼漁師カレンダー2021」撮影のために、
1年で4度気仙沼を訪れた写真家の幡野広志さん。
ただ、笑顔でコミュケーションがとれたり、
歩いているだけでいろんなものをくれたり、
「距離の近さは外国のようだった」と
幡野さんは振り返ります。
「気仙沼って、どうしてこんな不思議な町なんですか?」
カレンダーの企画と発行にたずさわっている「気仙沼つばき会」の
斉藤和枝さん(斉吉商店)、小野寺紀子さん(アンカーコーヒー)に
そんな疑問を投げかけました。
「気仙沼漁師カレンダー2021」の写真を展示した
『幡野広志、気仙沼の漁師を撮る。』にておこなわれた、
トークライブ中継の様子をお届けします。

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第二回 ただ、笑顔で近づいてくる。

和枝
カレンダーをみて思ったのは、
やっぱり幡野さんのお人柄があってこその、
漁師さんたちの顔だったなって思います。
紀子
笑顔がみんな、かわいいんですよ。
幡野
表紙の漁師さんとかですか?
斉藤
そうそう。
同じ方で9月の写真もかわいいじゃないですか。

△これは表紙の写真ですが、
9月にも同じ方の写真が載っています。
©Hatano Hiroshi △これは表紙の写真ですが、 9月にも同じ方の写真が載っています。 ©Hatano Hiroshi

幡野
すごく変わった方だったんですよね。
ひとりで船をやっているんですけど、
そこに、撮影のためのチームから
成人男性3名が乗船すると200キロ増えるんですって。
ちいさな船に対してその重量増えると、
燃費も落ちるし、そもそも邪魔なはずなんです。
すごく冷たい感じなのかなと思ったら、
ずっと話しかけてくるんですよ、僕に。
和枝
ずっとですか。
幡野
ずーっとです。
喋りたい方だったんでしょうけど、
言葉が10%もわからなくて。
さらにエンジン音や、風と波の音で、
さらにわからなかったです。
ただ、この方もずっと笑顔でした。
和枝・紀子
ああー。
幡野
その時に、人間のコミュニケーションって、
表情なんだなと思いました。
漁師さんの笑顔をみていたら
「歓迎されてるな」って伝わりました。

斉藤
表情は伝わりますね。
幡野
タラをたくさん釣るんですけど、
毎回たくさん揚がってくるのに
1匹1匹持って、にっこりと笑顔でポーズをとってくれて。
斉藤
たぶんうれしかったんですね。
撮ってくれるし、話も聞いてくれるし。
幡野
いや、話は聞けてたのかな‥‥
斉藤
でも、幡野さんが「うん、うん」って
相槌を打ってくださったら、
自分の漁のことを話したいと思うんでしょうね。
幡野
たしかに、いろいろ教えてくれました。
弟子になるのかっていうくらい(笑)。
タラばっかりとれるのが不思議で
説明もしてくれたんですけど、
わからなかった。知りたかったのに。
この方は、はじめて撮影した方なんですよ。
冬に行って、
2日目ではじめて乗せてもらった漁船でした。
緊張して不安だったんですけど、
この方と会えて「ああ大丈夫そうだ」と思いました。
斉藤
寒かったでしょう?
幡野
すごく寒かったです。
動けないくらい着込まないと寒いし、
かといって夏も暑くて。
どちらにしても過酷なんですね。
幡野
過酷でしたね。
斉藤
そんな寒いのに一緒に船に乗ってくれたから、
燃費が悪くなってもうれしかったんだと思います。
幡野
邪魔になると思っていたので、
その、うれしそうな感じが僕もうれしくて。
東北の港町って、東京の人からすると
元々はすこし排他的なイメージがありました。
そういうのを気にしていたんで、
拍子抜けするくらいぜんぜん違っていたことが
今回一番驚きました。
怖い人なんていなかったです。

紀子
漁師さんはウェルカムな人が多いですね。
幡野
ひとり、見た目はすごく怖そうな人がいて。
えっと‥‥そう、この8月の方。
紀子
ああ、おっちゃんね。
知ってますよ。
幡野
この方、有名ですよね?
たぶん、すごい人なんですよ。
なぜなら彼の一挙手一投足で全員が動いていたから。
しかも、社長さんもみんな、彼に敬語を使っていました。
斉藤
そういう船はいい船ですね。
魚も絶対おいしいですね。
幡野
ああ、そうですか。
10人くらいの小型船ではあるんですけど、
みんなが信頼しあって機敏に動いていましたね。
印象に残っています。
4月の、新人の彼の写真もいいですよね。
幡野
彼だけは「そこに立って」と指示をして撮りました。
でも彼のときだけですね。
それ以外は声もかけずに撮りました。
5月のご夫婦も、撮られたこと気づいてたのかな。
旦那さんが奥さん側ではなく、
ちょっと外側に体を向けているのがリアルですよね。
幡野
すごくカッコよかったです。
気仙沼ホルモンを初めて食べたんですけど、
煙がひどくてカメラが燻製状態になりました。
でもまあ、たくさんの思い出があって、いいかって。
思い出がたくさんつまっていますね。
幡野
カップラーメンをくれた方がいたんです。
カップラーメンにとれたてのワカメが入れてあって、
「食べてごらん?」って。
いやとも言えなくて食べてみたら、
それがものすごくおいしかった。
こんなにおいしいものあるんだって思いました。
斉藤
そういうものいっぱいあったでしょう。
幡野
ありましたね。
イカがびっくりするくらい
おいしかったです。
斉藤
わたしたちは食べたことがないやつですね。
幡野
船に乗っている人しか食べられないと聞きました。
8月に載っている漁師さんに、
小さいけれど生きたイカを丸々渡されたんですよ。
最初は冗談だと思ったけど、
一緒にいた人が普通に食べていたから
僕も恐る恐る食べたんです。
そしたら今まで食べたイカの中で、
ダントツでおいしかった。
2時間後くらいに下船して、
船で獲れたイカをさばいて振る舞ってくれたんですけど、
やっぱり生きているイカの味には勝てない。
一番おいしいのは船でしか食べられないんだと思って、
それはすごく感動しました。
(音声が途切れてしまう)
あれ、音声が。
大丈夫ですか?聞こえてますか?
和枝・紀子
き・こ・え・て・まーーす!
幡野
声が大きい。
気仙沼のおばちゃん感出ましたね(笑)。
テストでも、いつもこのテンションですね。
幡野
気仙沼の人って、なんでこうなんですかね(笑)。
隣町の陸前高田との距離って、10キロ少しですよね?
車なら15分くらいとかとっても近い。
でも、町の大きさの違いからなのか、
お人柄がまったく違うと思いました。

和枝
ああ、そうですね。
昔から違いますね。
幡野
震災前から違いますか。
和枝
そうですね。
陸前高田は同じ沿岸でも、
しっかり耕すというか、
真面目にコツコツ積み上げられる方が
多いと思います。
でも、気仙沼は「バーン!」みたいな感じ。
幡野
はい(笑)。
紀子
そう、一発「バーン!」と。
和枝
漁師町だから、全国から人がいらっしゃるでしょ。
私たちも外の人の方言ってわからない時もあるんですよ。
だけどね、顔をみればだいたいのことがわかります。
幡野
そうかあ。
築地とか焼津とか他の港町とも違って、
気仙沼は特殊な気がします。
和枝
私たちはかけ離れているんですよ、都会から。
だから外から人が来てくれることがうれしいし、
それで町も成り立っていますから。
特に女性が明るい印象があります。
幡野
明るかったですね。
みんなすっごいパワーがあって、
気仙沼は町も人も不思議だなあと思いました。
距離も近いんですよね。
市場とか港に行くと、
ほぼずっと誰かが話しかけてきて
いろんなものをもらいました。
魚だけじゃなくて、ほんといろんなものを。
和枝
幡野さんはあげたくなるんですかね。

(つづきます。)

2020-10-03-SAT

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  • 気仙沼漁師カレンダー2021

    写真と文=幡野広志
    (企画・発行/気仙沼つばき会)


    気仙沼の漁師のみなさんをモデルに、

    毎年、名だたる写真家が気仙沼に滞在して撮影する
    気仙沼漁師カレンダー」。
    2021年版は幡野広志さんが撮りおろしています。

    10月2日(金)から、斉吉商店さんや
    アンカーコーヒーさんなど、
    宮城県気仙沼市の各店にて販売がはじまります。
    (ほぼ日のお店では、TOBICHI東京TOBICHI京都
    渋谷パルコ内「ほぼ日カルチャん」で販売いたします)

    詳しくは「気仙沼漁師カレンダー」の
    ウェブサイトへどうぞ。