「気仙沼漁師カレンダー2021」撮影のために、
1年で4度気仙沼を訪れた写真家の幡野広志さん。
ただ、笑顔でコミュケーションがとれたり、
歩いているだけでいろんなものをくれたり、
「距離の近さは外国のようだった」と
幡野さんは振り返ります。
「気仙沼って、どうしてこんな不思議な町なんですか?」
カレンダーの企画と発行にたずさわっている「気仙沼つばき会」の
斉藤和枝さん(斉吉商店)、小野寺紀子さん(アンカーコーヒー)に
そんな疑問を投げかけました。
「気仙沼漁師カレンダー2021」の写真を展示した
『幡野広志、気仙沼の漁師を撮る。』にておこなわれた、
トークライブ中継の様子をお届けします。
- ─
- ここから、質問コーナーに入ろうと思います。
みなさんいかがでしょうか?
- 男性
- 気仙沼で食べたイカがすばらしかった、という
お話がありましたが他においしかったものは?
- 幡野
- 一番おいしかったのは、
メカジキのハーモニカです。
- 和枝
- 背びれのつけ根のところですね。
背びれはよく動く場所だから、
筋肉もついておいしいんです。
一匹につきほんのすこししか取れない
希少な部位です。
- 幡野
- ああ、そうでしょうね。
つばき会のみなさんとお店で夕飯を囲んだ時に
出してもらったんですけど、
地元の方々が我先にと取っていたので、
地元でもあんまり食べられないんだろうなあ、と
思っていました。
- 和枝・紀子
- (笑)。
- 紀子
- なかなか食べられないです。
昔は漁師さんだけが食べられる
部位だったんですよ。
- 幡野
- また食べたいですね。
- ─
- オンラインでも質問を募集しています。
大塚先生からいただきました。
気仙沼でおいしいお酒はありましたか?
- 幡野
- 先生、やさしいな。ありがとうございます。
僕はずっと生ビールだったんですよね。
むしろあったんですか?
- 紀子
- 蒼天伝と、水鳥記という日本酒は
気仙沼のじまんです。
- 幡野
- 僕、飲んだのかなあ。
- 紀子
- お土産でも人気です。
- 幡野
- そうなんですね、買えばよかった。
- ─
- 気仙沼に行くなら、
オススメの季節はいつでしょうか?
- 和枝
- どの季節も食べ物はおいしいですけど、
秋ですかね。
戻りガツオとサンマの刺身と、
あと、気仙沼は松茸の穴場なんですね。
- 紀子
- 山がたくさんありますから・
前沢牛とか仙台牛もあるから、
すき焼きに松茸とお肉を入れたら完璧です。
- ─
- 幡野さんはいかがですか?
- 幡野
- 僕は冬が好きでした。
すごく寒いけど、雪はそんなに降らないんです。
東京からいくと、一関から電車で行く人が多いと思いますが、
2両くらいの単線で、大船渡線に乗ります。
山道をゆっくり通って、
ストーブが電車の中で炊かれていて、
景色がめちゃくちゃきれいです。
僕は好きでした。
- ─
- 他の質問をいただきました。
「気仙沼のあっけらかんとした明るさの秘訣を聞きたいです。
何かつらいことがあったときは、どう切り替えるのでしょうか?」
おふたり、いかがでしょうか。
- 和枝
- ああー。そうですね。
- 紀子
- 考えないことですね。
- 和枝
- うん、そうですね。
すごく考え込んでしまったときは
パチって思考スイッチを切って、
「ま、今日はいいか。こんなに考えたし」って(笑)。
- 幡野
- いいな、いいな、いいですね。
- 紀子
- まあ、でもみんなそうかと言えば、
人にもよります。
- 幡野
- 性格の問題もあるし、
ひとくくりにはできないですね。
- 和枝
- 地域的な話をすれば、
たぶんずっとあったものがなくなったら、
「また取りに行く」って考えはあるかもしれないです。
漁師も、また魚を獲ればいいやって思うでしょう。
- 紀子
- 東日本大震災でたくさんのおうちが流されました。
私たちもおうちが流されましたけど、
「まあ、また作るか」って思いました。
みんながそうじゃないですけどね、もちろん。
- 幡野
- そうだったんですね。
- 紀子
- 漁師カレンダーをはじめたときも、
もし売れなかったら言い出しっぺの私たちが
ひとり100万円ずつ負担するって話したの。
今思えば、家もない、金もないのに、
よく言ったなって思いますよ。
- 和枝
- 自分のことなのにね、
よぐ言ったなーって。
- 幡野
- それはすごいですね。
- 男性
- 気仙沼の漁師さんというのは、
出身はどんな方が多いのでしょうか?
生まれも育ちも気仙沼なのか、
よそ者が居着いたのか。
- 幡野
- 僕が会った方はIターンの方が多かったです。
福岡からきた若いお兄さんは、
気仙沼の漁師さんのブログを読んで、心引かれて、
いきなり来たそうです。
震災のボランディアをきっかけに、
気仙沼の居心地の良さを知って移住された人にも会いました。
地元の人ももちろんいますけど、
縁もゆかりもなく来ている人も多かったですね。
あと、インドネシアの方も多いですね。
- ─
- もう一つ質問をいただいています。
「気仙沼には何隻くらい船があるんでしょうか?」
- 和枝
- え!
- 幡野
- そんなに驚くことですか。
- 和枝
- 今ちょうど話していたんですけど、
漁師カレンダーをやりたいと思った発端は、
船の種類なんですよ。
気仙沼はカツオ船、サンマ船、大目流し網船、
突きん棒船、旋網船などと、
いろんな種類の漁船が港に入ってきます。
東京から来た方は一緒にみえると思いますけど、
私たちは、それぞれの船によって漁師さんの性格が
全然違うなーって思ってたんですよ。
多種多様な漁師さんを撮れる港って
他になかなかないんじゃないか、というところから
この漁師カレンダーははじまったんです。
- 紀子
- 魚の種類も違うし、漁の仕方も違うし。
それぞれこだわりがあって。
- 幡野
- ああ、それはわかります。
一本釣りか網で獲るかとか、細かい違いにも
それぞれ美学がありました。
- 紀子
- 質問にお答えすると、
気仙沼に水揚げする船ってなったら、
年間で何百、何千になると思います。
- ─
- どこで水揚げするかは、
船頭さんが決めるんですよね。
- 和枝
- そうです。
- 紀子
- 本来はどこで揚げてもいいんですけど、
気仙沼はありがたいことに選ばれている港です。
震災の年も、岸壁が壊れてしまって、
氷もない、油もないっていう時がありました。
でも、カツオ船の方々が気仙沼に水揚げしたいと
おっしゃってくださったんです。 - 港も整備されていないから、
2隻くらいずつ順番で港に入って来てくださって、
どうしても、震災の年は
他の魚の水揚げ量が少なくなりました。
でも、カツオだけはその年も
水揚げ量日本一になったんです。
- 幡野
- はあーー。
- 紀子
- 環境が悪いのに、カツオ船の漁師さんが
気仙沼を選んでくださったおかげです。
- 和枝
- だから、気仙沼は漁師さんだけじゃなくて、
みんなが漁のことや港のことを
心配したりよろこんだりするんです。
そんな港、気仙沼だけだって、
他の港から来た漁師さんに言われます。
- 紀子
- 漁師さんに会えば、
「今日は獲れてよかったですね」とか
「水揚げいっぱいあってよかったですね」とか
そういう話をこちらから振りますから。
私たちは漁師さんにすごく関心があるんです。
毎日魚のことや、天候、沖の天候、
漁師さんに関心を持って生きていますね。
- ─
- 漁師さんのための銭湯「鶴亀の湯」も、
隣には「鶴亀食堂」もあります。
- 幡野
- うん、わかります。
気仙沼は選ばれる理由がありますよね。
- ─
- 最後の質問をいただきましょうか。
- 男性
- 気仙沼の女性の魅力を教えてください。
- 幡野
- うーん、なんだろう。
ひとくくりにはできないけれど、明るいですね。
最初は大阪の人に近いのかなって思ったんですけど、
それともちょっと違っていて、
海外の人に近いと思いました。
フランクで、距離が近い。
おふたりはその中でも特に明るいですけど。
- 和枝・紀子
- あははは(笑)。
- 幡野
- つばき会のみなさんは特に明るかったです。
基本的に社交的で、インテリジェンスも高いと思いました。
- 和枝
- 根本的なものは、
ずっと変わらないと思います。
- 幡野
- 女性だけじゃなくて、
男性もこんな感じなんですよ。 - 僕は仕事柄、いろんな地域にいかせてもらいますけど、
気仙沼は国内でみても独特です。
たとえるなら外国みたいですね。
中にいる人はわからないと思いますが、
外からみると不思議な町で、すごく魅力的。
- 和枝
- 外国みたいって、よく言われますね。
- 幡野
- インドネシアの方が一番落ち着いてますよね。
- 会場
- (笑)。
- 和枝
- そうかもしれないですね。
- ─
- 落ち着いたら、気仙沼に行きたいですね。
- 和枝
- ぜひ漁師さんたちに会いにきてください。
お話される人、いっぱいいますから。
事前予約すれば漁港の見学もできます。
カツオを食べておいしかったら、
ちょっと大きめの声で「うわー、うまい!」って
言ってくださったら、最高によろこびます。
- 幡野
- それは、伝わりますね。
- ─
- 言葉の通じない海外に行くような感覚ですね。
- 幡野
- そうですね。人間力が試されます。
表情でコミュニケーションがとれるところも、
おもしろい町だと思いました。
- ─
- そうですね、一泊二日ではもったいないので
ぜひゆっくり過ごしていただきたいです。
本日は、幡野さん、和枝さん、紀子さん、
ありがとうございました。
- 幡野、和枝、紀子
- ありがとうございました。
(おわります。)
2020-10-04-SUN
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気仙沼漁師カレンダー2021
写真と文=幡野広志
(企画・発行/気仙沼つばき会)
気仙沼の漁師のみなさんをモデルに、
毎年、名だたる写真家が気仙沼に滞在して撮影する
「気仙沼漁師カレンダー」。
2021年版は幡野広志さんが撮りおろしています。10月2日(金)から、斉吉商店さんや
アンカーコーヒーさんなど、
宮城県気仙沼市の各店にて販売がはじまります。
(ほぼ日のお店では、TOBICHI東京、TOBICHI京都、
渋谷パルコ内「ほぼ日カルチャん」で販売いたします)詳しくは「気仙沼漁師カレンダー」の
ウェブサイトへどうぞ。