2020年7月、渋谷パルコ8階
「ほぼ日曜日」でおこなわれた写真展
『幡野広志、気仙沼の漁師を撮る』
(幡野さんが「気仙沼漁師カレンダー2021」
ために撮影した、たくさんの写真を展示したもの)。
そのオープニングイベントとして、
幡野広志さんと医師の大塚篤司先生の
トークライブ中継がおこなわれました。
SNSやイベントなどでも親交のあるおふたり。
「特にテーマを決めることなく、
のんびりとおしゃべりをしましょう」
というゆるゆるした中継で、
もともと掲載予定はなかったものですが、
この時期ならではのお話がよかったので、
ほぼ日の記事としてご紹介します。

>幡野広志さんプロフィール

幡野広志(はたの・ひろし)

写真家。1983年生まれ。

2004年、日本写真芸術専門学校中退。
2010年から広告写真家・高崎勉氏に師事、
「海上遺跡」で「Nikon Juna21」受賞。
2011年、独立し結婚する。
2012年、エプソンフォトグランプリ入賞。
2016年に長男が誕生。
2017年多発性骨髄腫を発病し、現在に至る。
著書に『なんで僕に聞くんだろう。』(幻冬舎)
『ぼくたちが選べなかったことを、
選びなおすために。』(ポプラ社)
『ぼくが子どものころ、ほしかった親になる。』(PHP研究所)
『写真集』(ほぼ日)がある。

大塚先生たちがおこなっている、
医療をとりまくさまざまな
コミュニケーション・エラーの解消を目指す活動
「SNS医療のカタチ」(YouTubeTwitter)に
ゲストとして参加することも。

Twitter
note

<「ほぼ日」での登場コンテンツ>
「普遍的なことを言っている。」(病理医のヤンデル先生との対談)
「『嫌い』な気持ちと、うまく付き合う。」(占い師のしいたけ.さんとの対談)
「幡野さんの、中心にある考え。」
「被写体に出合う旅。」
「これからのぼくに、できること。」
(以上3つ、糸井重里との対談)
「そこだけを、見ている。」
(糸井、古賀史健さんと3人での鼎談)
「ネパールでぼくらは。」
ほか。

>大塚篤司さんプロフィール

大塚篤司(おおつか・あつし)

医師、医学博士。1976年生まれ。
皮膚科専門医。がん治療認定医。
日本アレルギー学会代議員。

2003年信州大学医学部卒業、
2010年京都大学大学院卒業。
チューリッヒ大学病院客員研究員を経て
2017年より京都大学医学部特定准教授。

がん・アレルギーのわかりやすい解説がモットー。
正しい知識がないために、
間違った知識で悪化する患者を数多く経験し、
AERA dot.・京都新聞での記事執筆、
全国での講演、イベント、SNSでの発信など、
医師と患者を正しい情報で橋渡しする活動に
勢力を注ぐ。

近年は、小児科医のほむほむ先生(@ped_allergy)、
外科医のけいゆう先生(@keiyou30)、
病理医のヤンデル先生(@Dr_yandel)とともに、
医療をとりまくさまざまな
コミュニケーション・エラーの解消を目指す
「SNS医療のカタチ」(YouTubeTwitter)の
活動もおこなっている。
(「SNS医療のカタチ」の動画中継では、
おもしろTシャツや独自の背景画像で場を和ませる
「B’z大好き」の先生としても知られる)

著書に
『最新医学で一番正しいアトピーの治し方』
(ダイヤモンド社)、
『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』
(大和出版)、
『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版)がある。

Twitter @otsukaman

前へ目次ページへ次へ

(3)死にたい気持ちを大事にする。

▲トークライブは、幡野さんの悩み相談の連載&本
『なんで僕に聞くんだろう。』の話にもなりました。 ▲トークライブは、幡野さんの悩み相談の連載&本
『なんで僕に聞くんだろう。』の話にもなりました。

大塚
幡野さんのところには、
たくさんの人生相談が届きますよね。
幡野さんの回答って、不安を感じている人たちに、
解決策をバシッと提示してあげてるところが
すごいなと思ってて。
幡野
ああ、みんな不安を感じてますね。
ただぼくとしては、
できれば具体的な解決策の提示とかは
あんまりしたくないんですけど。
大塚
どうしてですか?
幡野
言っちゃうと、そのまま実行しちゃうんですよ。
できれば自分で考えてほしいので。
大塚
はぁー。
幡野
ぼくの言うことが
必ずしも正しいわけじゃないですから。
その人とぼくは状況が違うので。
「ぼくだったらできるけど、
その人だったらどうだろう?」
とはよく思うし。
「幡野さんがこう言ってるからこうしよう」
って、けっこう危ないことですよ。
大塚
たとえば幡野さんが、その先もずっと
人生相談にのれるんだったらいいんでしょうけど。

幡野
そうそう。そのとおりなんです。
だから人生相談なんて、
無責任なものだとも思ってますね。
だからこそ、なるべくですけど
「こうしなさい」とかはちょっと言えないかなぁ。
大塚
答えは毎回、一から考えるんですか?
もともと考えてあることもあるんですか?
幡野
想像をはるかに超える相談がくるので、
考えていたこととかは
あんまり通用しないですね。
大塚
幡野さんの人生相談、
ぼくはいつも相談文を読んだあとで
「自分だったらどう答えるかな」って
考えるんです。
でも毎回読みはじめると、
幡野さんの答えがすごすぎて。
ついつい読み飛ばしそうな、
文脈や文章の
「ちょっと引っかかるな」ってところから、
しっかり拾ってきますよね。
幡野
ある程度は慣れなのかなとも思うんです。
たぶんお医者さんも経験を重ねることで、
レントゲンやCTスキャンの画像などから
違和感を見つけやすくなると思うんですけど。
いま人生相談が3500件ぐらい溜まっていて、
一応ぜんぶに目を通してるんですね。
そうやって3500件ぐらいの人生に長文で目を通すと、
なんだろう、分かってきますよ、ほんと。
最初の頃といまだと、
受け取るときの解像度が違う気がします。
たぶん経験かなと思うんですけど。
大塚
でもね、経験を重ねても
気づかない人は気づかないと思うので。
幡野
あとぼくの場合、相談した方からのお返事で
一種の答え合わせができるんです。
ぼくは質問からある程度
「こういう状況かな」と類推して答えてるんですけど、
それに対して「こうだったんです」って教えてくれる。
そしたら、だいたい当たってるので。
大塚
ああー。
幡野
たぶんそういう反応がなければ
「外してるかも」と不安になるかもしれないけど、
そこで「当たるんだな」という経験もあるので。
あとは、ご本人の方から
お礼のメッセージをいただくので。
それがまあやっぱり、
やっていてよかったかなとはちょっと思いますね。
大塚
読んでると、すごく生活に直結した
相談が多いですよね。
幡野
深刻だと思いますよ、みなさん。
大塚
ぼくらが病院で患者さんの相談にのるときって、
正直、薬で治せる場合はわかりやすいんです。
けど薬で治せない場合は、
やっぱり難しいわけなんです。
幡野
それ、どう答えるんですか?
だって先生なんかは経験値で、
その先々のことが分かるわけじゃないですか。
大塚
そう、分かるときも多くはなってきてます。
ただ薬で治せないような場合って、
結局そのときの答えで納得して帰ってもらったとしても、
やっぱりまた次のときに
同じことが相談として来るんですよ。
だから診察室の中では、その言葉に患者さんが
「うん」って思えたとしても、
普段の日常生活の中でやっぱりまた
元に戻っていくというか‥‥。
そこがすごく難しいなといつも思っています。
だから幡野さんみたいに、
なにか具体的な提案をして、
そこで患者さんが行動を元に
いろいろと気づいて思考が変わるといいのかな
‥‥と思ったりもしてるんですけど。

幡野
そうですねえ。
お礼の返事とか見てると、
人生を変えちゃったんじゃないかと思うことは
多々あったりするかなあ。
本に入ってるんですけど、
統合失調症の患者さんで
「自殺をしたい」という方がいたんです。
「死にたいけど、周りからも反対されるし、
ほんとは死にたい」
って書かれてて。
その質問にぼくは
「死にたい気持ちを大事にしたほうがいいですよ」
って答えたんです。
それなんかも、ほんとに死んじゃう
可能性があるわけですよね。
「こう言ってるし、死んでもいいか」
って思う可能性もとてもあるんです。
でもその方、半年後ぐらいに、
ぼくが岡山でした講演会に
わざわざ来てくれたんです。
「あのとき答えてもらった者です。
いま生きてるのは幡野さんのおかげです」
的なことを言ってくれたんですけど、
やっぱりすごく考えさせられましたね。
チケットをとるのも大変だったと思うんです。
頻繁にツイッターを
チェックしたりしないといけないし。
メッセージを送ればそれですむ話でも
あるわけじゃないですか。
だからたぶん彼女は、
会ってお礼を言いたかったんだろうなと思って。
大塚
すごい言葉ですね、
「死にたい気持ちを大事にする」って。
幡野
そうですね。ぼくはやっぱり
「死にたい気持ちは大事にしたほうがいい」
と思っちゃう。
死にたいときに
「ダメだ」とか「生きろ」と言われるのって、
なかなかツラいですから。
大塚
ほんとにその通りだなと思うんですけど、
医者が病院では
絶対に言えないことばじゃないですか。
患者さんが
「死にたいです」
って言ったときに、
「死にたい気持ちを大事したほうがいいですよ」
とは。
幡野
それは言えないですね。
「先生もそう思いはりますかー」
とは、ならないですから。
大塚
それは言えないです。
幡野
言えないですね。
大塚
ただ、いまの話から思うと、
たぶん死にたい気持ちが芽生えることって、
きっと誰でもあることなんですね。
少し心が弱ったり、特に苦しい状況に
なったりしたときに、頭をよぎることもある。
そのときって、もしかしたら
「自分の気持ちを打ち消そうとする」のが
辛いのかもしれないんですよね。
幡野
うん。
「打ち消す」って、否定じゃないですか。
「こんなの考えちゃダメ!」
って思っちゃうのがね‥‥。

大塚
ええ、ええ。
幡野
ぼくも1回、病気になってすぐのときに
自殺を考えたことがあるんです。
ぼくの場合は前に狩猟をしていたから、
家に散弾銃とかがあって、
リアルにすぐ死ねたんです。
たぶんその「すぐに死ねる」という環境が
むしろ死ななかった理由だと思うんですね。
そのときって「死んじゃダメ」とか
「生きなきゃダメ」という意見に触れるのが、
やっぱりなかなかツラかったんです。
「俺どっちみち病気だしな、助からないしな」
って思っちゃったし。
大塚
ああ。
幡野
でも逆に「いつでも死ねる」って思うと、
「別にいまじゃなくていいかな」
とちょっと思えたので。
だからみんな「死にたい」って言う人に
「死んじゃダメ」って言いがちですけど、
「結局それだと否定だしな」
とも思うんです。
そうじゃない答えのほうが、
意外と助けになるかもしれなくて。
「死にたい」に「死んじゃダメ」と返すのは、
聞いているようで全然聞いてなくて、
自分の意見を押しつけてるだけかもしれないよなと、
ぼくはちょっと思ったりしますね。
大塚
否定されてしまうと、心が不自由になるんでしょうね。
幡野
やっぱり否定されるっていやじゃないですか。
極端な話、のど渇いてるときに
「水飲んじゃダメ」って言われるのと
そんなに変わらないわけで。
「それを言われてもツラくなるだけじゃないかな」
ってぼくは思っちゃうけど。
でもどうかな。
大塚
幡野さんの人生相談って、
多くの人が否定するような事実が来ても、
「でも自分の幸せとかを考えたら
こう考えたほうが自然じゃない?」
みたいに幡野さんがやさしく伝えていることが
多い気がします。
幡野
倫理観とか正論みたいなものってありますけど、
わりとみんなズルく、
うまく生きてるわけじゃないですか。
倫理観とか正論だけで生きてないですよね。
悩む人って真面目な人が多いし、
正論や正しさや倫理観に
振り回されていることも多いから、
「もうちょっとズルく生きたほうが
いいんじゃないかな」
って思うことはありますね。

(つづきます)

2020-09-17-THU

前へ目次ページへ次へ
  • 気仙沼漁師カレンダー2021

    写真と文=幡野広志
    (企画・発行/気仙沼つばき会)


    気仙沼の漁師のみなさんをモデルに、

    毎年、名だたる写真家が気仙沼に滞在して撮影する
    気仙沼漁師カレンダー」。
    2021年版は幡野広志さんが撮りおろしています。

    10月2日(金)から、斉吉商店さんや
    アンカーコーヒーさんなど、
    宮城県気仙沼市の各店にて販売がはじまります。
    (ほぼ日のお店では、TOBICHI東京TOBICHI京都
    渋谷パルコ内「ほぼ日カルチャん」で販売いたします)

    詳しくは「気仙沼漁師カレンダー」の
    ウェブサイトへどうぞ。