HUIS.さんのもう1社のパートナーである
カネタ織物さん。
1年先まで織機が埋まっていて、
カネタさんの生地なら待ちます、といわれるほど、
信頼されている機屋さんです。
ほぼ日別注では、
3つの生地を作ってもらいました。
世界一の平織を極めたい、
そう語るカネタ織物の太田充俊さん。
HUIS代表の松下昌樹さんと一緒に
お話をうかがいました。
- ──
- カネタ織物は、創業70年だそうですね。
今の社長さんが、お父さんで、3代目。
で、太田さんが4代目。
- 太田
- 予定通り行くと4代目になると思います。
創業したのは曽祖父、って聞いています。
- ──
- 太田さんが継ぐことになったのは、どうして?
- 太田
- えー‥‥、そう、大学を卒業して、
まったく別の、繊維の「繊」の字もない
そういう会社に就職してたんです。
そろそろ家を建てたいなと思って、
住宅関係の業者さんを回ってたときに
うちの実家の話をしたら、
「めちゃくちゃすごい仕事してるね」って、
全然知らない人から言われたんです。
- 松下
- 「あのカネタさんですか!」みたいな。
- 太田
- そう。
で、僕もちょうどね、
何か自分で仕事したいなと思ってたときで、
「あ、自分の家があったな」と思い出して。
で、父に話を聞いたら、
「シャトル織機がわりと今、世界的に少ないから、
ビジネスチャンスとしてはあるんじゃないか」と。
「なるほどね」って入ってみて、
今ではドハマりした、みたいな感じなんですけど。
- 松下
- へえーっ。
超ラッキーですよね(笑)。
- 太田
- ええ、ええ、そうですね。
- ──
- やっぱり、シャトル織機を
使い続けてたことが大事なポイントですか。
- 太田
- そうですね。シャトル織機ってむずかしくて、
今の革新的織機は、新しければ新しいほど
シンプルな構造で、
手間が簡単になってるんですよ。
新しい機器は、セッティングに関しては
ミリ単位で設定をしないといけないんですけど、
それは全部、説明書に書いてある。
説明書通りやっていけば、できる規格なんです。 - でも、シャトル織機は、
説明書なんて何もなくて、
ネジをどのくらい回すか、みたいなことも
職人の感覚でセッティングをするんで、
非常にむずかしい。
簡単なものを織るんであれば、わりとね、
曖昧なセッティングでも織れちゃうんですけど、
むずかしい織物をするってなると
本当に細かくて、1カ所セッティングすると、
あっちもこっちもバランスをとって
全体をセッティングをしないといけないんです。
僕はその技術が続いてるところに入ったので、
いいタイミングで戻ってきたのかなと思います。
- ──
- なるほど。タイミングもよかった。
- 太田
- ただまあ、僕がね、戻ってくるって言ったときに、
祖父がめちゃくちゃ反対して。
一回も怒られたことない、
まさに目に入れても痛くない、
そのくらいかわいがってもらってたんですけど、
初めて怒られて。
「絶対だめだ!」って。
もう引退してたので、たぶん父からも、
全然聞いてなかったと思うんです。
継がないと思ってたのに、突然聞かされて。
- 松下
- やさしかった祖父が。
やっぱりガチャマン時代を知ってる世代が
反対するんですね。
- 太田
- そうですね。
祖父のときは
やっぱり一番盛り上がってたので。
- ──
- そのあとのむずかしい時代、厳しいときも
身を持って知ってらっしゃる世代の方は、
かわいい孫にそんな苦労は、させたくないと。
- 太田
- そういうことだと思います。
- ──
- ある意味、反対を押し切って
家業を継がれたわけですが、
今はいかがですか?
- 太田
- 今はね、おかげさまで非常に仕事も多くて、
HUISさんからもかなり入れていただいてますし、
年内は、もう織機の予定は埋まっていて。
- 松下
- 年内ですよ。とんでもないですね。
※取材は1月下旬に行われた。
- 太田
- いや、おかげさまで。
洋服の生地の場合、シーズンものなので、
基本的には、
「3か月で納めてほしい」っていうのが
世間の常識なんですよね。
でも、うちのやり方だと、
1年くらいかかっちゃう。
- ──
- ゆっくり織る、いい生地だから、ですね。
「それでもお願いします」っていうお客さんが。
- 太田
- そう、多いんです。
知ってくれている方も増えてきていて、
トレンドを追いかけてる
ブランドさんはむずかしいけど、
自分でトレンドを作るような
ブランドさんには使っていただける。
- ──
- このクオリティの生地で服がつくれるなら、
時間がかかっても待とう、と。
何年も長く着てもらえるような服。
そこを目指してるブランドには、ちょうどいい。
- 太田
- そうですね。
そう思っていただいてるお客さんが
最近ふえていて非常にありがたい。
- 松下
- そうすると、むちゃなことを言わない、
本当に待ってくれるお客さんしか残らないんで、
幸せな職場環境が生まれますよね。
「カネタさんの生地なら待ちます」
っていうお客さんばっかり。
- ──
- 仕事もしやすいし、
やってても楽しいでしょうね。
- 松下
- やっぱり、生地がいいものだからなんですよ。
それを実現してるのが、
いい糸を、ゆっくり織る、
シャトル織機なんですね。
やっぱり生地が全然違うから
ファンがそれだけいて、
「どうしても使いたい」って待ってくれる。
まさに、生地の価値なんですよね。
- ──
- お仕事は、最初から楽しかったですか?
- 太田
- うちの仕事をするようになっても、
しばらくは
よくわからずにやっていた部分もありましたね。
最初はうちの生地しか見てなかったので、
これがいいのかどうかって
判断がつかなかったんですが、
やがてね、周りのことをちょっと勉強しながら、
うちの生地の良さがわかってきました。
- 松下
- 僕もそうだったな。
最初は知らないことばかりなんだけど、
やればやるほどわかってきて、知りたくなる。
- 太田
- そうなんですよ。
それがあってだんだん自信が出てきて。
- 松下
- 太田さんが最初にいいと思ったのが、
タイプライターだったんですよね。
- 太田
- そうですね。そうでした。
今もこれが一番だと思ってて、
やっぱりうちの真骨頂です。
細い糸って、切れやすいんですけど、
それを、単純に高密度で織って、
限界を超えると、
こういう、紙のような形になるんです。
今でもずーっと織ってますけど、
一番むずかしい。
これはね、やっぱりうちの生きる道ですね。
- 松下
- 僕もタイプライター、一番好きですね。
80番手の極細の糸で、高密度のが。
- 太田
- 80番手のタイプライターって密度勝負で、
使う人はそんなに気にしないけど、
つくってる側からすると、
「ここに何本入っていて」っていう、
そこの勝負なんです。
- ──
- やっぱり入れば入るほどいいんですか。
- 太田
- 入れば入るほど。
- 松下
- 今回のほぼ日さんのラインナップの
タイプライターも、
80番手という細い糸を、超高密度で織ってる。
ハリとしなやかさっていう、逆みたいな質感が
この布には共存してるんですよ。
軽くて、保湿性もあって、肌になじむので
着心地がすごくいいんです。
- ほぼ日
- オフホワイトのワイドブラウスと、
ブルーグレーのロングシャツ、それから
スカートが、タイプライター生地ですよね。 - 今回ご紹介するワンピースに使われてるのが、
もうひとつのコットン生地ですね。
- 太田
- この生地はもっと細い、100番手の糸を使ってます。
すごく細い糸なのに、高密度で織ってるので
しっかりしてるし、透け感が抑えられてるんですよ。
- ──
- 薄手なのに、透け感が控えめで、
最初に見たときほんとうに驚きでした。
- 松下
- 落ち感も、ものすごくしなやか。
これだけ高密度だと、
ふつうごわっとしちゃうんですけど、
カネタさんのようにゆっくりゆっくり織ることで、
糸そのものの膨らみがつぶれないんです。
- ──
- 布の量はたっぷりなのに、すっごく軽いんですよね。
- 松下
- そうでしょう?
布をたくさんつかうワンピースに
もってこいですよね。
それからもうひとつ、シャトルリネン。
- ──
- 黒のロングシャツの生地ですね。
- 松下
- これは、フランス・ノルマンディー産地で
生産される高品質な麻を使ってるんですけど、
それを旧式のシャトル織機で
ゆっくり織ってるんです。
- 太田
- 糸に過度なテンションがかからないから、
よけいな毛羽も立たなくて、光沢がすごく美しい。
柔らかくて立体感のある風合いで、
使い込むとまたいい雰囲気に育つ、
特別な布ですね。
- ──
- これもかっこいい服になりましたよね。
- 松下
- リネンって調温機能があって、
外気と体の緩衝材みたいな働きをするんですね。
だから日本の気候に合ってるんですよ。
一年中、快適ですね。
タイプライター
綿100%
タテ糸80番手単糸×ヨコ糸80番手単糸
80番手の細い糸を超高密度で織ったコットン生地で、
紙のような張りがありながら肌触りはなめらか。
超高密度に織るから「ハリ」があり、
低速で織ることで糸がつぶれず、
綿の「しなやかさ」が保たれます。
極細コットン
綿100%
タテ糸100番手単糸×ヨコ糸100番手単糸
100番手の極細糸をタテ糸・ヨコ糸に使い、
限界まで密度を高めた特別な生地です。
髪の毛の半分ほどの細さの糸を、
ぎゅうぎゅうに織りあげることで、
驚くほど軽いのに透け感は控えめ。
ほぼ日別注のワンピース1着分に
使われている糸を繋ぎ合わせると、
なんと52kmにもなるんです。
それだけの糸を、超高密度で織り上げています。
シャトルリネン
リネン100%
タテ糸麻番40番手×ヨコ糸麻番40番手
フランス・ノルマンディー産地で生産された、
ネップ(節)やムラの少ない
上質な麻を原料に使っています。
糸に遊びを持たせてゆっくりと織り上げていくことで、
麻糸のふくらみをつぶさず、
立体感のある特別な風合いに。
耐久性も高く、使い込むほどに
さらにやわらかく風合いが増していきます。
(つづきます)
2024-04-12-FRI