- ──
- カネタ織物さんは、
最初はコーデュロイを織っていたとか。
- 太田
- 別珍‥‥コーデュロイは
もともとこのあたりが産地で、
それでうちも始めたみたいです。
- 松下
- ここは掛川市で、
浜松とはちょっと離れていて、
秋冬物に使われる綿織物の産地なんですよね。
- 太田
- でもうちは途中でいったん
コーデュロイはやめたらしいんです。
浜松方面のシャツ地関係などを
ずっとやってきた。
- 松下
- いつごろ、コーデュロイはやめられたんですか。
- 太田
- けっこう早かったらしいですよ。
70年前に創業して、
たぶん数年で他のものに切り替えたようです。
- 松下
- へえーっ。周りがみんなコーデュロイなのに?
- 太田
- そう、たぶん儲かったんでしょうね、
変えた方が(笑)。
コーデュロイも儲かったと思うんだけど、
それだけじゃなくて、いろんなものをやって。
当時は24時間、休みもなくずーっと機械を動かして。 - コーデュロイをまたやり始めたのはたぶん、
ここ10年か15年くらい前のことです。
- 松下
- カネタさんの歴史の中では
けっこう最近なんですね。
なぜ、コーデュロイを再開されたんですか?
- 太田
- やっぱり産地として残していきたいっていうのと、
ここでしかできないっていうこともあって、
やっぱりコーデュロイ、やり直そう、って。
- ──
- やめてた期間がけっこう長くても
すぐに戻れるものなんですか。
- 太田
- そうですね。まあ、基本的には組織がわかっていて
そういう構造の組織を織ってあげれば。
- 松下
- カネタさんは、コーデュロイを織ってない期間も
とんでもなくむずかしい生地ばっかりやってるんで、
へっちゃらなんですよ。
ある意味、ずっとコーデュロイだけやってたら、
コーデュロイしか織れない
機屋さんになっちゃったかも。
- 太田
- そうですよね(笑)。
- 松下
- カネタさんの多様性っていうのは
それが大きいですね。
- 太田
- そうですね。
うち、非常に多角的にいろいろやらせてもらってて、
一番厳しかったのが僕が大学生のとき。
- 松下
- あ、そうだったんだ、厳しかったんですか。
- 太田
- 周りの機屋さんがバタバタ倒れていきました。
僕が東京の私立の大学に行ってたので、
父たちはやめるにやめられず、
どんなむずかしいのでも、
どんな仕事でも、取りに取って、
仕事を回していたんです。
それで技術力がだいぶ上がってきた。
- ──
- じゃあ、恩返ししないわけにいかないですね。
- 太田
- そう(笑)、そういう気持ちはあります。
で、僕が社会人になったので、父は、
もうソフトランディングしようと思ってみたいで。
付き合いのあるお客さんの所に、
「徐々に減らしていって、終わりにします」って、
ずーっと言ってたらしいんですよ。
その矢先、6年前に僕が戻って
跡を継ぐって言い出したので、
「また頑張らんといかん」ということになって(笑)。
世界一の平織を極めたい。
- ──
- お父さんと一緒にお仕事してみて、どうでしたか。
- 太田
- 父は基本的にはもう織ることしか考えてない。
- ──
- ああ、ザ・職人ですね。
織るのが楽しいんですね。
- 太田
- そう、そうです。
「このむずかしい糸を
どうやってやったら織れるか」
っていうのを父は常に考えてる。
出来上がった生地には別に興味なかったんですよ。
- ──
- そうだったんですね。
- 太田
- 僕は、出来上がった生地の方に興味があって、
今、一緒にやってて、非常にね、いいです。
- ──
- いいバランス。
- 太田
- 父には、もうしばらく頑張ってもらって。
- 松下
- 技術を受け継がないといけない。
職人さんの中でも、
お父さんしか織れないものが
けっこうあるんですよね。
- 太田
- そう、設計とかは全部僕がやるんですけど、
現場でのセッティングは、僕はできないんです。
だから、父の技術を
会社として引き継いでいくように。
僕としては、
自分の息子が「やりたい」って言ったときに、
しっかり働ける状態をつくっておくっていうのが、
最終的な目標というか。
- ──
- 太田さんがこれだけ楽しそうなら、
きっと、やりたくなりますよ。
- 太田
- ハハハ。
- ──
- 太田さんが目指すのは、どんな布ですか?
- 太田
- やっぱりね、最終は平織が僕はいいと思いますね。
- 松下
- 平織が、技術が一番発揮できる。
綾織とかも、
ちょっと使いたくなったりしますけど。
- ーー
- でも、平織に戻っていく。
それはどういうところがいいんですか。
- 太田
- 繊細なんですよ、平織が一番。
綾織、コーデュロイ、サテン、二重織とか、
複雑な組織をいろいろやったことがあるんですけど、
複雑にすればするほど、表面は荒れてくる。
平織が一番、繊細で細かいんです。
高密度の平織って必ず摩擦するんですね。
だから、糊の付け方や
密度の具合で調整するんですけど、
それはそれでものすごく織りにくくなる。
高密度にすればするほど、平織にすればするほど、
そういう特性が顕著に出てくるんです。
本当にむずかしい。
むずかしいけど、最終的に、バキッとしているのに
繊細で非常になめらかなタッチが出せるのが
平織なんです。
- 松下
- 太田さんの仕事のかたちは理想だと思うんですよ。
素晴らしい技術があるご実家に入って、
その仕事のすごさがわかって、好きになって。
もちろん評価も高くて。
- 太田
- (笑)。
- 松下
- そういう環境にある遠州の機屋さんって、
多少の技術の差はあっても、まだまだ多いんです。
だから、もっともっと伝えていきたいなって思います。
ここに来れば、いい平織がある。
- ──
- これからのことについては、
どんな展望をお持ちですか?
- 太田
- 基本的にこれがベースですね。平織。
だんだん僕の中でも、
平織と綾織くらいに絞ってきてて。
そこをもっと突き詰めていきたいなと思ってます。
- ──
- 「あそこなら、平織のいいの、あるよ」って言われる。
- 太田
- 平織の引き出しを一番たくさん持っておきたい。
そこをずっと勉強していきたいっていうのはあります。
それと、ご近所の人たちにも
この遠州がすばらしい産地であることを
知ってもらいたいんですよね。
- ──
- お客さまだけじゃなくて、地域にも。
- 松下
- 黒子に徹さざるを得ない産業っていうか、
どれだけすごいブランドに使われてても、
生地をつくってる現場には
光が当たらないんですよね。
- 太田
- そう、そこですね。
そのために何をするかをずっと考えていて。
たとえばイタリアなんか、生地のメーカーとして
有名な会社っていくつかあるけれど、
日本でそういう会社って、あまりないんです。
- 松下
- ないですね。
- 太田
- だから、そういう意味での知名度を上げて行きたい。
僕は、イギリスのシャツ生地メーカーの
トーマス・メイソン(THOMAS MASON)
のように、生地に詳しい人から一般のエンドユーザーにまで
知ってもらえている状況を、
目指したいなと思ってますけどね。
やっぱり僕、自画自賛じゃないですけど、
具体的にいいものをつくってると思ってますから。
- 松下
- タイプライターって、超シンプルで
平織の中でも一番技術が
問われる生地なんですよね。
このレベルのものはもう、他社では絶対織れない。
- 太田
- はい。そうですね。
- ──
- 太田さん、かなり研究されてるんでしょうね。
- 太田
- そこは非常に。
ずっとバージョンアップをしてきて、
最近わりと安定的にできるようになりましたね。
糸も、日本の糸も使ったし、
インドも、中国もやって
今たどり着いたのは、
パキスタンで紡績されている糸です。
パキスタンの紡績さんは、
非常にいい糸をつくってくれて、
古いんですよ、うちみたいに。
糸とのマッチングも深堀りしていくと深いんです。
- 松下
- 紡績機と織機の掛け合わせもあるっていうこと。
紡績も一緒で、
ゆっくりゆっくり紡ぐほど
いい糸になるんですって。
本当に柔らかくて丈夫ないい糸になる。
それには昔の機械が使われてる。
そこでもしっかり差別化が図れるんですよね。
- 太田
- そうそう(笑)。
- 松下
- 本物のタイプライターは、寡黙なんです。
パッと見て、すぐわかるものじゃないですよね。
- 太田
- そうなんですよ。
- 松下
- もっと言うと、触らないと、
着てみないとわからない
すごく奥ゆかしい生地なんですよ。
- ──
- 落ち感だとか、ドレープとか、
動いたときにどうなるか。
- 太田
- ええ、ええ。わからない、はい。
- ──
- それに触れて、着てみて、「これだ」と思う、
そういう人が、ここに戻ってくる。
- 松下
- そうそう、そうそう。まさにそうですね。
- 太田
- もうひとつの基本はやっぱり、綿ですね。
綿の織物っていう、世界中どこにでもある。
そんな中で、うちは
見た目もシンプルな生地を織ってるんです。
そして、シャトル織機を使ってるんで、
大きい工場と比べて生産性が非常に悪く、
それにともない生地の値段も上がってしまう。
そういう条件下でやっている。
だからこそ、生地のクオリティとしては
世界一じゃないとやっていけないと僕は思っていて、
「どういう生地が世界一なんだろうか」って
常に考えながらやらせてもらってるんです。
- ──
- シンプルだからこそ、突き詰めたくなる。
太田さんは研究するのがお好きなんですね。
- 太田
- お客さんが希望する生地を、どうやったら
弊社にしかできないものにできるか。
どうやったら一番ターゲットに近くなるか。
僕は常に勉強させてもらって、知識を得たので、
相手のニーズに対してのクオリティとして、
どこにも負けないような生地を織れると思ってます。
それが僕は楽しかったりして。
ちょっと趣味みたいなところもありますけど。
- 松下
- 生地をつくる工程はいっぱいありますから、
同じような思いの人たちが
繋がってないと成り立たない。
遠州は徹底的に考える方々ばっかりの
連結なんですよ。
- 太田
- そうですね。
非常に幸せな環境だと思います。
今、とりあえず世界一の生地をつくって、
名前を広めていきたいなっていうのがあって。
自社製品も作っているんです。
ブランド名、
カネタ(qaneta)っていうんですけど。
- 松下
- 頭文字がKじゃなくて、「Q」なんですよね。
カネタの「Q」。究極の「Q」でね。
- 太田
- はい、究極です。
たぶんね、世界一だと思ってる生地なんで。
- ──
- 究極の「Q」。素晴らしいですね。
ありがとうございました。
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(おわります)
2024-04-13-SAT