
シリーズ第18弾の今回は、
福岡市美術館の近現代コレクションを拝見。
ウォーホル、ロスコ、バスキアからミロ、
松本竣介、桂ゆき、吉田博、中園孔二、
カプーア、グルスキー、塩田千春‥‥
そして菊畑茂久馬など九州派の面々など。
きらめきの所蔵作品の数々でした!
同館には見事な古美術部門もあって、
今回は取材できなかったんですけど、
2024年の
「ミュージアムキャラクターアワード」で
銀メダルに輝いた、
かの「こぶうしくん」には会えました!
お話くださったのは学芸員の忠あゆみさん。
担当は「ほぼ日」奥野です。
※展示替え等により、
現在は展示していない作品もあります。
- ──
- 河原温さん、日付の作品で有名ですけど、
ふつうの絵って言ったらいいのか‥‥
いろいろと描いてらっしゃるんですよね。 - 東京国立近代美術館の《孕んだ女》とか、
大原美術館の《黒人兵》とか、見ました。
これは「印刷絵画」というシリーズ?
- 忠
- デイトペインティングをはじめるより前の、
貴重な作品です。
雑誌の『美術手帖』のとじこみ付録に
この作品のコピーが収録されていまして、
「印刷絵画」という副題をつけて、
印刷物であるけれどもオリジナルである、
という挑戦的な試みをしています。
- ──
- あ‥‥あの漆黒の闇は、もしや。
- 忠
- はい。アニッシュ・カプーアです。
アニッシュ・カプーア《虚ろなる母》1989-90
- ──
- やっぱり。見たことのない作品でも、
そうなんじゃないかと思わせちゃうのが、
すごいところですね。 - しかも、何だ、近づいたら意外なかたち。
遠くから見たら球体かと思ったけど、
ゴロンと転がったお茶碗、みたいですね。
- 忠
- はい。吸い込まれてしまいそうですよね。
プルシアンブルーの顔料を使っているんですけど、
光をあまり反射しないんです。 - だから、どこまで先があるのかわからない。
- ──
- 暗闇より暗闇っぽいというか、
洞窟より暗いんじゃないの‥‥みたいな。
作品名は《虚ろなる母》ですか。 - そして、そのとなりには、ニワトリ‥‥。
- 忠
- シャガールです。
- ──
- ああ、本当だ。シャガールっぽい。
- 忠
- 悲しい作品なんです。
- 戦時中、シャガールはユダヤ系の方なので、
疎開していたんです、ニューヨークへ。
その間に故郷の村が空襲に遭ってしまって。
しかも、
奥さんも病気で亡くなってしまうんですね。
それで制作から離れ、沈んでいたんですが、
ようやく再起をかけて描いたのが、この作品。
故郷の村が舞台で、
この人は奥さんのベラさんと言われてます。
マルク・シャガール《空飛ぶアトラージュ》1945 ©ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2026
C5411
- ──
- なるほど。
- 忠
- 最初は、
ペガサスとして描いていたらしいんですが、
途中でニワトリに変えたそうです。 - 以前、福岡県内の小学校に
「どこでも美術館」という企画で
作品のレプリカを持って行ったとき、
子どもたちが
「この人、死んでるかもしれない」とか、
本質を突いたことを言うので、驚きました。
- ──
- 伝わるんでしょうか、言葉以外のところで。
子どもって、
何かを直で受け取る能力があるというのか。 - こっちの飛行機は?
【右】アンゼルム・キーファー《メランコリア》1989
- 忠
- ドイツ人のアンゼルム・キーファーによる
《メランコリア》という作品です。
- ──
- これには乗りたくはない、たぶん墜落する、
と書いてあります。
- 忠
- ナチスドイツによる
第二次世界大戦の暗い歴史を意識しながら
作品制作をする作家なんです。
なぜ人は戦争で殺し合うのかだとか、
迫害された人たちの苦しみとか、
そういったところへアクセスできるような
オブジェをつくっています。
- ──
- どうして《メランコリア》なんだろう。
- 忠
- 右の翼に載せられている「謎の多角形」が、
ドイツルネサンスの巨匠
アルブレヒト・デューラーの作品の中に出てくる
多角形を立体化したものなんです。 - で、その該当するデューラーの版画のタイトルが
《メランコリア》なんです。
- ──
- あ、あの有名な版画か。天使が悩んでるみたいな。
国立西洋美術館で見たような‥‥
でも、こんな多角形、描き込んでありましたっけ。
- 忠
- はい、あったんです。
- その多角形が何を意味しているのかについては、
ずっと謎めいているらしいです。
そんな物体を翼に載せることで、
さまざま想像させるような作品になっています。
- ──
- 「戦争」というテーマにも
「メランコリア」は関係していそうですね。
- 忠
- そうですね。
- 戦争をしてしまう人間の悲しい性みたいな
ニュアンスを込めて、
「憂鬱」という意味のタイトルが、
つけられているんじゃないかとは思います。
- ──
- そして、塩田千春さん。
- 何年か前に森美術館で開催された個展には、
たくさんの人が行ってましたね。
塩田千春《記憶をたどる船》2023
- 忠
- この作品は、
福岡市美のためにつくっていただいたもの。
赤い糸は、
もう塩田さんの代名詞みたいな素材ですね。 - さっきのカプーアもですけど、
塩田さんの作品も「ずっと見ていられる」。
観る側が動いていくと、
赤がハレーションを起こしたようになって、
景色が変わっていくんです。
そこに時間の流れみたいなものを感じるし。
- ──
- 近くに寄ってみると、あらためてすごいな。
視覚を撹乱してくる感じ。
塩田千春《記憶をたどる船》(部分)2023
- ──
- となりは‥‥これはモノクロの写真ですか。
- 忠
- 絵画なんです。日高理恵子さんの作品です。
ずっと木を描き続けておられる方で。 - 毎日毎日目にする木を、
繰り返し繰り返し、描き続けているんです。
- ──
- いろんな作家さんがいるんだなあ。
- さっきの炭鉱の絵の山本さんもですけど、
何かを表現するにあたっては、
続けることって本当に大事だなって思う。
- 忠
- そうですね。
ぶれずにやり続けていることの、すごみ。 - 求道者のような姿勢の作家からは、
わたしたちも、やっぱり目が離せないし。
- ──
- ああ、求道者。本当に。
- 忠
- そして、こちらが最後の作品です。
当館がリニューアルオープンをしたときに
個展を開催した
インカ・ショニバレさんのオブジェ。
ナイジェリアにルーツのある作家さんで、
いまはイギリスを拠点にしています。 - 美術学校へ通っていた時代、
「アフリカにルーツがあるのなら、
アフリカらしいことを表現してみなさい」
と先生から言われ、
「なにくそ~」って感じで奮起して
たどりついたのがこの布だったそうです。
アフリカンバティックといって、
繊維会社が、アフリカで販売するために
つくった布地なんですが、
これを使ってオブジェを制作しています。
インカ・ショニバレCBE《桜を放つ女性》2019
- ──
- 銃口から花が爆発してる。
- 忠
- 桜ですね。
- マネキンの頭部は「地球儀」でできています。
よく見ると、そこに
女性の自由の獲得のために貢献した
世界中の人の名が書き込まれています。
日本人では、上野千鶴子さんのお名前とかも。
インカ・ショニバレCBE《桜を放つ女性》(部分)2019
- ──
- いわく言いがたい迫力を感じる作品ですね。
- これで、ひととおり
見せていただいた感じでしょうか。
たくさんご紹介いただき、
本当に、ありがとうございました。
- 忠
- こちらこそ、ありがとうございました。
- 今回ご紹介した常設展示は、
今年(2026年)の6月28日まで見られますので、
ぜひ、たくさんの人に来てほしいです。
- ──
- おっ、最後にヘンリー・ムーアだ。
《ふたつのかたちによる横たわる人体》という作品。
(※現在は寄託期間が終了したため展示されていません) - ヘンリー・ムーアの作品は、
広島市現代美術館でもいくつか見ました。
- 忠
- 原爆についての作品をつくっていますよね。
- 博多駅でも、
このシリーズの作品を見ることができます。
- ──
- おお。本当ですか。見て帰ります!
ヘンリー・ムーア《着衣の横たわる母と子》(1983-1984) ※画像提供:福岡市
(終わります)
2026-04-06-MON