日本全国に散らばるミュージアムを訪ねて、
学芸員さんたちに
所蔵コレクションをご紹介いただく連載、
第16弾は、満を持して!
原美術館ARCへおじゃましてきました。
はやくから、日本に
世界の現代アートを紹介してきた美術館。
コレクションにまつわるエピソードにも、
その作品収蔵の経緯にも、
この美術館ならではの物語がありました。
全12回の連載、お話くださったのは
青野和子館長と学芸員の山川恵里菜さん。
この年末、ゆっくりとおたのしみください。
そしてぜひ、
原美術館ARCへ遊びに行ってみてください。
担当は「ほぼ日」奥野です。
- ──
- おとぎ話に出てくる馬車みたいですね。
小野節子さんの作品。
- 青野
- 小野さんは世界銀行で活躍された方で、
40歳を過ぎたころから、
作品をつくりはじめたという
異色の経歴を持ったアーティストです。
- ──
- えっ、世界銀行! ‥‥を辞めて
アーティストになっちゃった。すごい。
- 青野
- アフリカや中南米で活躍なさったあと、
現代美術家へ転身したんです。 - ステンレスでできた大きな輪や曲線に、
人間や鳥、小動物などを切り出した
こちらの作品は、
東日本大震災の直後につくられたもの。
当時、作家は作品タイトルについて
「夢を持てば、
悲しく辛い現実から抜け出す勇気を
持つことができる」と述べていました。
- 山川
- ヴァイオリニストや画家など、
芸術家を多く輩出するご家系のご出身。
- ──
- えっ、いま調べてみたら、
お姉さんが、オノ・ヨーコさんでした。 - ひゃー、びっくり。作品も素敵ですね。
- 山川
- 尖った部分もあるので、安全のため、
作品の周囲に
ドウダンツツジを植栽しています。 - 夏はグリーン、秋は真っ赤に色づいて、
とってもきれいなんですよ。
春には、うしろのソメイヨシノの桜が、
きれいなピンク色に染まります。
- ──
- おおー、今度は春に来てみます!
- 山川
- ぜひ。3月下旬から4月上旬くらいに、
ピンク色に包まれるので。 - わあ、トンボが手に(笑)。
- ──
- 秋ですね(笑)。人懐っこいトンボだ。
- 山川
- 小野さんの作品、鶴のくちばしの先も、
トンボたちの休憩所として大人気です。
- ──
- こちらの作品はじつにダイナミックで、
いつ見てもドキドキします。
関根伸夫さんの、《空相》という作品。
- 青野
- 品川の原美術館が設立されたころに
設置された作品で、
閉館まで前庭に置かれていたんです。 - 周囲の緑を映す鏡面の角柱の上に、
大きな白御影石が載せられています。
総重量「6トン超え」の大作です。
- ──
- 6トン!
- 青野
- 品川のお庭からの撤去そして輸送、
ステンレス柱面の研磨、
この場所へ再設置する作業は、
本当に大変で‥‥
25トンのクレーンで吊り上げたりして
大がかりなものでしたが、
無事、この場所に収めることができて、
みんなでホッとしたんです(笑)。
- ──
- 輸送‥‥。こんな大きなものを、輸送。
柱と石はバラバラになるんですか。
- 青野
- 数か所ホゾみたいものを差し込んで
固定しているだけなので、外れます。 - 再設置に際しては、
6トンの重量がかかっても大丈夫なように、
地面に鉄板を敷いたり、
巨大なコンクリートのブロックの基礎を
地中に基礎を打ったりしているんです。
- ──
- ここまで大きくて重たくなると、
アート作品といえども、
建築のような気の遣い方が必要になる、と。
- 青野
- 地盤調査からはじめたり、
安全面には最大限の配慮をしています。
- ──
- そのおとなりも、柱状の彫刻作品。
- 青野
- 当館を設計された磯崎新さんの奥さま、
彫刻家の宮脇愛子さんの作品です。 - 品川ではポール3本で構成された
《うつろひ》という名前の作品でした。
ここへの移設にあたって、
「ARCは広いので、5本にしましょう」
ということで、
《うつろひ '89 カシオペア》と
名前も変えて、5本のポールを
カシオペア座のように設置しています。
- ──
- 柱のてっぺんからワイヤーが出ていて、
おたがいに結ばれているんですね。 - まさしく「星座」のようです。
- 青野
- 作品の真下から見上げてみてください。
- ──
- はい。おおー。
- 青野
- ほら、風に揺れるステンレスロッドが、
空に描かれた
ドローイングの線のように見えますね。 - 本当にエレガントで、美しい作品です。
- ──
- ワイヤーで空に絵を描いているみたい。
遠くから眺めたときと、
真下から見上げたときとでは、
作品の印象がパーッと変わりました。 - で、このワイヤーもやっぱり風で動く。
- 青野
- そう。風で「うつろう」んです。
- ──
- それにしても、
こちら側から見下ろす美術館の建物が、
本当にカッコいいです。 - 宮脇さんの旦那さん、
磯崎新さんが設計なさったんですよね。
- 青野
- そう。磯崎さんの彫刻のようでしょう。
- ──
- 本当ですね。
- 宮脇さんの彫刻のたもとからながめる、
磯崎さんの彫刻。
- 青野
- 厩舎風の建築にしたのも、磯崎さんのご提案。
- カントリーサイドにつくるんだったら、
品川の原美術館とは
正反対のデザインにしたらどうですかって。
- ──
- たしかに近代的な美術館って、
鉄筋コンクリートづくりの重厚な建物、
みたいなイメージがあります。
- 青野
- しかも、外観を黒に統一することで
シャープな印象を演出しています。 - 創設者の原理事長も、
「おもしろいですね」と大いに賛同し、
平屋建てのシンプルなデザインで
自然光の入る美術館が、できたんです。
アーティストが、自分のスタジオで
作品をつくっているような環境の中で、
作品を「呼吸させたい」ということで。
- ──
- たしかに呼吸しているように感じます。
すごい開放感ですし。 - 空が高くて、
建物の向こう側には赤城山ですもんね。
- 青野
- はい。
- 建物の中の渡り廊下から見る赤城山が、
一幅の絵画のように素晴らしいんです。
(つづきます)
2024-12-21-SAT
-
この連載でもたっぷり紹介していますが、
ウォーホル、オトニエル、三島喜美代、エリアソンなど
お庭に展示している作品から、
草間彌生、奈良美智、宮島達男など日本の現代美術家、
さらには狩野探幽や円山応挙など古い時代の美術まで、
原美術館さんがひとつひとつ収集してきた
素晴らしいコレクションを味わうことができる展覧会。
年末年始も2025年1月1日以外は
12月31日も1月2日も開館しているそうです!
年末独特の内省的な雰囲気、
お正月の晴れやかな雰囲気のなかで作品に触れたら
またちがった感覚を覚えそうな気がします。
今期展示は1月13日まで、ぜひ訪れてみてください。
さらに!
2025年1月9日から新宿住友ビル三角広場で開催される
「生活のたのしみ展2025」には、
この「常設展へ行こう!」に出てくる美術館の
ミュージアムショップが大集合するお店ができます。
原美術館ARCの素敵なグッズも、たくさん並びます。
ぜひぜひ、遊びに来てくださいね!
生活のたのしみ展2025について、詳しくはこちら。本シリーズの第1回「東京国立博物館篇」から
第12回「国立西洋美術館篇」までの
12館ぶんの内容を一冊にまとめた
書籍版『常設展へ行こう!』が、
左右社さんから、ただいま絶賛発売中です。
紹介されているのは、
東京国立博物館(本館)、東京都現代美術館、
横浜美術館、アーティゾン美術館、
東京国立近代美術館、群馬県立館林美術館、
大原美術館、DIC川村記念美術館、
青森県立美術館、富山県美術館、
ポーラ美術館、国立西洋美術館という、
日本を代表する各地の美術館の所蔵作品です。
本という形になったとき読みやすいよう、
大幅に改稿、いろいろ加筆しました。
各館に、ぜひ連れ出してあげてください。
この本を読みながら作品を鑑賞すれば、
常設展が、ますます楽しくなると思います!
Amazonでのおもとめは、こちらです。