日本全国に散らばるミュージアムを訪ねて、
学芸員さんたちに
所蔵コレクションをご紹介いただく連載、
第16弾は、満を持して!
原美術館ARCへおじゃましてきました。
はやくから、日本に
世界の現代アートを紹介してきた美術館。
コレクションにまつわるエピソードにも、
その作品収蔵の経緯にも、
この美術館ならではの物語がありました。
全12回の連載、お話くださったのは
青野和子館長と学芸員の山川恵里菜さん。
この年末、ゆっくりとおたのしみください。
そしてぜひ、
原美術館ARCへ遊びに行ってみてください。
担当は「ほぼ日」奥野です。
- ──
- あちらに鎮座しているのは、
もちろんアンディ・ウォーホルですよね。 - めちゃくちゃデカいキャンベルスープ缶。
- 山川
- 1981年、アメリカのコロラド州立大学で
ウォーホルが個展を開いたときに、
学生とコラボレーションした作品ですね。 - ワークショップの一環として、
あのように巨大な缶を3つつくりました。
そのうちのひとつが、当館に。
- ──
- おお。
- 山川
- コロラド大学で開催されたシンポジウムに
理事長が招待されたときに
この作品に出会い、コレクションに加わりました。
裏側にウォーホルのサインが入ってます。 - ちなみに、デザインはキャンベルのもの、
スチール製の缶は製造会社の工場製、
ペイントは学生さんが担当したんですね。
つまりウォーホルは「指示をするだけ」。
一切、手を出してはいないんだけど、
サインを入れて、
ウォーホル作品ということになってます。
- ──
- ウォーホルの真骨頂って感じですね。
- 青野
- 大量生産・大量消費時代を象徴する
ポップアートの申し子のようなウォーホルは、
貧しかったころ、毎日のランチに、
キャンベルスープを飲んでいたそうです。 - つまり彼は、キャンベル缶を
もっとも身近で大衆的で
誰もが知るモチーフと見なして、
繰り返しアート作品にして提示したのです。
- ──
- この缶を見たらウォーホルを思い出すほどの
有名ですよね。
ぼくなんか飲んだこともないのに知ってるし。
- 青野
- 高さ3メートル、直径2メートルあるんですよ。
- 先ほど山川も言っていましたが、
ぜんぶで「3つだけ」しかつくられていない、
たいへん貴重な作品です。
- ──
- そうか。ウォーホルといえば「複製」なのに、
「たったの3つ」だけ‥‥。
- 青野
- 世界で3つのキャンベル缶です。
- キャンベル缶自体も大量生産の象徴ですよね。
子どものころから親しんでいたもの、
大量につくられ大量に消費されていくものを
アートとして提示したところが、
やはりウォーホルのおもしろさなんですよね。
- ──
- 日本でいえば、おかめ納豆みたいな感じ?
- 青野
- そうかもしれません(笑)。
- とくに「刺激的」というわけでもない、
大量生産品の「おかめ納豆」を
アート作品として提示し、大量に複製した。
そんなウォーホルが
3つしかつくらなかった作品なんです。
- ──
- どうやって運んだんですか。
コロラドのほうから、あんな大きなものを。
- 青野
- 船便ですね。東京湾からは陸路で。
- おっしゃるように、移動するのも一苦労。
あの缶にキャンベルスープを入れたら
何人分かって聞かれることがありますが、
まだ調べていません(笑)。
- ──
- めっちゃ入ることはたしかですね(笑)。
おとなりの作品は‥‥?
- 青野
- メナシュ・カディシュマンの作品です。
- 1988年、ここに別館ができてからは、
大型作品を展示する機会も多くなって。
- ──
- 個人の邸宅だった品川では難しくても、
こちらなら展示できるから、と。
- 青野
- そうなんです。サイズのこともあるし、
品川は瀟洒な建物で、
形状もとってもユニークだったんです。
部屋の壁がカーブを描いていたりしたし、
天井高のある部屋も
ひとつしかありませんでした。 - 大型化かつ多様化する現代美術作品に、
対応しきれなくなっていたんです。
- ──
- なるほど。
- 青野
- でも、原美術館が少しずつ知られるようになってきて、
「一緒に展覧会をやりませんか」とか、
「こんな作家がいるんですけど」と、
海外の美術館や大使館などから
お声がけをいただく機会も増えたのですが。 - 当初、こちらで企画展を中心に開催し、
品川ではコレクションをしっかり見せていこう、
と、考えていたと聞いています。
カディシュマンの作品も、
ここで「イスラエル現代彫刻展」を
開催したときに出品された作品で、
その際にコレクションに加えられたものです。
- 山川
- 神話の『プロメテウス』をもとにした、
コールテン鋼でつくられた作品ですね。
- ──
- コールテン鋼。
- 青野
- 錆の進行を錆で防ぐという特殊鋼材で、
耐久性に優れています。
落ち着いた錆の色調が美しいですよね。 - ちなみに、カディシュマン本人は
ロシア系イスラエル人。
『プロメテウス』はギリシャ神話です。
人間に火を授け、
文明の基盤を築いた神さまのことです。
その行為がゼウスの怒りを買い、
山の岩に縛り付けられて
日々、オオワシに内臓を食べられる‥‥
という苦しみを受けたんです。
- ──
- ひえ~。
- 青野
- その残酷なシーンを、表現した作品です。
神話では、プロメテウスは最後に
ヘラクレスによって解放されるんですが。
- ──
- そのとなりは、品川にあったものですか。
- 山川
- 飯田善國《風の息吹き》です。
品川のお庭にずっと置かれていましたね。
- 青野
- そう、品川の門から入ってすぐの場所に
長らく設置されていた作品です。
風を受けて、羽根が回転するんですよ。
「キネティックアート」と呼ばれますね。 - こちらへ移設した屋外作品の下にはいずれも、
品川のお庭にもたくさんあった
アイビーを植えて、
「結界」の代わりにしているんです。
- ──
- これ以上は入らないでね、という。
- 青野
- そうですね。できるだけフェンスやロープは
使いたくはないけれど作品は守らければ、と。
飯田さんは、ここ群馬県のおとなりの
栃木県足利市の生まれですが、
慶應大学在学中に徴兵、学徒出陣され、
中国を転戦した経歴をお持ちなんです。 - 帰国後は大学に復学しましたが、
画家を目指して東京藝術大学に進学し、
その後ローマへ留学。
彫刻に魅せられ、
彫刻家を目指すことになったそうです。
40代半ばまでは
ヨーロッパで活躍していましたが、
帰国後はステンレスなどを素材とした
抽象造形へ移行、各地の公共建築でも、
たくさんのパブリックアートを
手掛けていらっしゃいますね。
- 山川
- DIC川村記念美術館にも、作品が。
- ──
- あ、エントランスにある、ドーム型の?
あちらも動いていましたよね。
- 青野
- はい。自然の力で動く作品を、
たくさんつくられたアーティストです。
(つづきます)
2024-12-20-FRI
-
この連載でもたっぷり紹介していますが、
ウォーホル、オトニエル、三島喜美代、エリアソンなど
お庭に展示している作品から、
草間彌生、奈良美智、宮島達男など日本の現代美術家、
さらには狩野探幽や円山応挙など古い時代の美術まで、
原美術館さんがひとつひとつ収集してきた
素晴らしいコレクションを味わうことができる展覧会。
年末年始も2025年1月1日以外は
12月31日も1月2日も開館しているそうです!
年末独特の内省的な雰囲気、
お正月の晴れやかな雰囲気のなかで作品に触れたら
またちがった感覚を覚えそうな気がします。
今期展示は1月13日まで、ぜひ訪れてみてください。
さらに!
2025年1月9日から新宿住友ビル三角広場で開催される
「生活のたのしみ展2025」には、
この「常設展へ行こう!」に出てくる美術館の
ミュージアムショップが大集合するお店ができます。
原美術館ARCの素敵なグッズも、たくさん並びます。
ぜひぜひ、遊びに来てくださいね!
生活のたのしみ展2025について、詳しくはこちら。本シリーズの第1回「東京国立博物館篇」から
第12回「国立西洋美術館篇」までの
12館ぶんの内容を一冊にまとめた
書籍版『常設展へ行こう!』が、
左右社さんから、ただいま絶賛発売中です。
紹介されているのは、
東京国立博物館(本館)、東京都現代美術館、
横浜美術館、アーティゾン美術館、
東京国立近代美術館、群馬県立館林美術館、
大原美術館、DIC川村記念美術館、
青森県立美術館、富山県美術館、
ポーラ美術館、国立西洋美術館という、
日本を代表する各地の美術館の所蔵作品です。
本という形になったとき読みやすいよう、
大幅に改稿、いろいろ加筆しました。
各館に、ぜひ連れ出してあげてください。
この本を読みながら作品を鑑賞すれば、
常設展が、ますます楽しくなると思います!
Amazonでのおもとめは、こちらです。