現代美術作家の加賀美健さんは、ヘンなものを買う。「お金を出してわざわざそれ買う?」というものばかり、買う。ショッピングのたのしみとか、そういうのとは、たぶん、ちがう。このお買い物も、アートか!?あのお買い物を突き動かすものは、いったい何だ。月に一回、見せていただきましょう。お相手は「ほぼ日」奥野です。

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加賀美健(かがみ・けん)

1974年東京都生まれ。現代美術作家。国内外の美術展に多数参加。彫刻やパフォーマンスなど様々な表現方法で、社会現象や時事問題をユーモラスな発想で変換した作品を発表している。

https://kenkagamiart.blogspot.com/
instagram: @kenkagami

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買ったもの_その5 

「サッチーの写真集」

ジャケ買いでした。友人が出していたブックフェアのブースで見つけて。このカバーを見た瞬間、財布からお金出してました3000円だったかな。めちゃくちゃカッコいいなと思って。ふだんはスタジオの棚にディスプレイしてます。仕事してるとき、このサッチーの泥パックの顔が視界に入るようにしてるんです。それくらい自分のなかでは重要な一冊。つねに「俺、こんなんでいいのか?」って思わせてくれる存在っていうか。ふつうのアーティストだったら、もっとバウハウスとかわかんないけど、そういうオシャレっぽそうなのを置くんでしょうけどね。人に見せたいし、自分で見たいんでしょうね、ぼくは。この顔を。「野村沙知代」って書いてなきゃ誰だかわかんない、この顔を。ただ、中身はとくに見てないんですよ(笑)。カバーがすべてで、正直、内容はどうでもよかったって言うか。なので今から、あらためて見てみようと思います。何となくパラパラした覚えはあるんだけど‥‥へええ‥‥とか、いまさらビックリしたりして。ははは、なんだこりゃあ(笑)。うわあ‥‥サッチーが水着で‥‥はああ‥‥サッチーがベッドで半裸で‥‥! 何かフィジーかどこかの南国の浜辺で、サッチーが、イケメン風の外国人モデルと! ここまでの意欲作っていうか、問題作だったとは(笑)。でもこれ一体どういうコンセプトだったんだろう。笑える本としてつくったんじゃないのか‥‥? ギャグなのかマジなのかが、ぜんぜんわからない。‥‥というか、絶対ふざけてつくってると思ってたんだけど、そんな感じがぜんぜんしない。むしろ真剣。マジで撮ってる。誰かの「本気」を感じる。編集者なのか、アートディレクターなのか、カメラマンなのか、サッチー本人なのか。それとも、この場にいる全員なのか。イケメン風の外国人モデルも含めて。えっ? 最後までこれかと思ったら、いきなり球児にバッティングの指導してる! 野村監督ならわかるけど、サッチーのバッティング指導って? 「もっとヒジをたたんで!」とか、そういうこと言ってる? ああっ、野村監督だ。最後の最後で監督が出てきた。はぁーっ‥‥こういうテンションで終わるのか。そうかあ、「夫婦の物語」だったんだ。ああ‥‥。いや、いろいろあったんだろうけど、いい夫婦だったもんね。テレビで観てただけだけどね。サッチーの言葉もグッと来る。「私はまだ老人になるのは嫌だ (中略) いつか体のどこからか『もう終わりだよ』……と信号がくるまで 一生懸命生きていこうよ 明日からでなく 今からよ (中略) 私の強さは この写真集の中に納めた 何が襲ってこようが 屁ッチャラだ 屁のカッパ サッチー」最高だなあ。いい写真集ですね、これ(笑)。でも、誰が買うんだろう? 

アートの定義もいろいろだと思いますが、ひとつには「残るもの、残ってしまうもの」じゃないかなと。洞窟壁画とかも「アートだ!」と思って描いてない気がします。でも、今では先史時代のアートとして、みんなに大事にされてますよね。残ったから、残したいと思ったから。そういう意味では、この写真集もアートです。こうして大事にされて、今後も「残されて」いくわけだから。加賀美さんちの、スタジオの棚に

加賀美さんの「カッコいい」

短パンに超ロングソックスsocks

ショートパンツには、短いソックスを合わせるのがふつうだと思うんですけど、先日エスカレーターに乗ってたら、ここまでの超ロングソックスの人がいたんです。目の前に。いや、ハイセンスですよね。思わず写真を撮ってしまいました。これ、夏になると、ぼくもたまにやってるスタイルなんです。うちの小学生の娘も、先日このスタイルしてました。カッコいい。

2022-07-16-SAT

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