
ドラマ『ムショラン三つ星』の原作者で
管理栄養士の黒栁桂子さんの職場は
愛知県の男子刑務所。
受刑者たちと並んで給食を作っています。
大事なおかずをつまみ食いされることもあれば、
手のこんだデザートに歓声があがったり、
受刑者が語る家族の話にじーんと来たり。
刑務所の給食室で起こるさまざまなできごとや、
黒栁さんがおいしい「ムショ飯」を通して
伝えたいことを聞きました。
黒栁桂子(くろやなぎけいこ)
愛知県岡崎市生まれ。管理栄養士。老人施設や小学校勤務を経て、2012年より岡崎医療刑務所勤務。受刑者とともに日々給食づくりに励んでいる。はじめての著書『めざせ!ムショラン三つ星 刑務所栄養士、今日も受刑者とクサくないメシ作ります』(朝日新聞出版)は、NHKのドラマ原作本に。
- ──
- 黒栁さんは受刑者と
直接お話される機会は多いんですか?
- 黒栁
- わりと、多いですね。
というのは、うちの刑務所は
規模が小さすぎて、予算がないからなんですよ。
- ──
- 予算がないから?
- 黒栁
- はい。
予算がないから出来合いのものが買えなくて、
できる限り手作りするしかないんです。
刑務官は調理のプロではないので、
どうしても私が作り方を直接
彼らに指導することになるんですよ。
- ──
- なるほど。
ちなみに1日あたりの予算は
どのくらいなのでしょうか?
- 黒栁
- 今年度は副食(※おかず)の部分が1日450円、
主食の部分は、1日150円ぐらい。
(※令和7年度の金額です。)
- ──
- 1食ではなく、1日!
- 黒栁
- そう、1日です。
主食が「150円ぐらい」という言い方になるのは、
人によってご飯の量を変えているからです。
立ち仕事をする人とか、
身長が高い人たちはご飯が多いんですね。
副食の方は、老いも若きも、だれでも同じ量です。
- ──
- へぇー。
では3食で割ると、
おかずは1食150円しかないんですね。
- 黒栁
- そうなんですよ。
たとえばデザートにゼリーを買おうとすると、
最近は業務用のものであっても
1つで60円から70円はするんです。
150円の中で半分近くをデザートに持っていかれたら、
おかずがすごく、ショボくなっちゃう。
- ──
- たしかに。
- 黒栁
- じゃあ、どうするかといったら、
デザートは作るしかない。
最近は自分たちで寒天などの
比較的安い材料を使って、作るようになりました。
- ──
- そうなんですか。
手間がかかることだと思うのですが、
そこまでしてデザートを諦めないのは、なぜですか?
- 黒栁
- それはですね、デザートにはやっぱり、
特別感があるからです。
- ──
- 特別感ですか。
- 黒栁
- 刑務所の中には、お酒もタバコもない。
嗜好品は一切ないじゃないですか。
だから甘いデザートは刑務所の中では、
唯一の癒しになるんです。
社会では甘いものがぜんぜん好きじゃなかった人でも、
刑務所では甘党になっていくんですよ。
- ──
- なるほど。
- 黒栁
- 受刑者には10日分の給食のメニューが
知らされるんですけれど、
その10日の中に必ず、
デザートを入れるようにしています。
「あ、この日はデザートがある。
それまでたのしみに過ごそう!」
って思ってもらえるように配置しているんです。
- ──
- 現場の作業負担以上の価値があるんですね。
- 黒栁
- そうなんですよ。
おもしろいことにですね、
手間をかけて作ったものを周りの人から
「おいしい」と言われる経験をしてくると、
炊場の彼らもどんどん頑張りたくなってくるんですよ。
だからあえて、
手間がかかるデザートを選ぶこともあるくらいです。
- ──
- たとえば、どんなデザートですか?
- 黒栁
- バレンタインデーにチョコレートケーキを
作ったことがあります。
混ぜて焼くだけのケーキだったら簡単なんだけど、
デコレーションケーキを作るとなると、
いったん焼けたものを冷まして、ホイップをかけて、
それからチョコチップをかけて‥‥と、工程が増えます。
当然、時間も手間もかかるわけですよ。
- ──
- はい。
- 黒栁
- でも、彼らに「簡単なケーキと
デコレーションケーキ、どっちがいい?」
ってきくと、
「映える(バエる)からデコレーションケーキで!」
って言うんです。
- ──
- 刑務所も「映え」が大事なんですね。
- 黒栁
- もちろん彼らはSNSには載せられないんだけれど、
やっぱり見た目が映えている方が、
周りからの反応がいいんですよね。
「昨日のチョコケーキ、誰が作ったんだよ?」
「俺だよ! 俺が作った!」
ってやりとりをしたいんです。
- ──
- それはうれしい瞬間ですよね。
- 黒栁
- 自分たちががんばって作ったものが評価されると、
自己肯定感が高まりますよね。
そういった経験は社会に出てからも絶対、
いい影響を与えると思っています。
「もっと映えるのをやりたいから、教えてください!」って、
彼らの方から言ってくることもあるんですよ。
だからここはやっぱり、
私もがんばらないといけないところだなと思いますね。
- ──
- 社会に出たときのことを見据えて。
- 黒栁
- はい。
それと私は、ウキウキしながら作業してる彼らの姿を
見るのがすごく好きなんです。
だって、怖い雰囲気の人たちがクリームを絞りながら、
ウキウキしてるんですよ。
そのギャップがなんだか、かわいくて(笑)。
- ──
- あはは、そうですね。
映えるデザートづくりが自己肯定感につながる、
ということについては
他の刑務所栄養士の方と情報共有はしましたか?
- 黒栁
- えーっとですね、
中に入れる栄養士と、入れない栄養士がいるので。
- ──
- ああ、そうか。
- 黒栁
- たとえば、無期懲役の人ばかりがいるような刑務所では
栄養士が中に入るのは、
危ないと判断されることもあると思います。
- ──
- たしかに。
- 黒栁
- でも最近、調理の指導をするようになった
男子刑務所の栄養士さんに、
うちで作っていたカスタードクリームの
レシピをお知らせしたことはあります。 - その方が実際に受刑者と作ってみると、
最初は材料を見ても、
彼らはぜんぜんピンとこなかったらしいです。
でもだんだんとカスタードクリームが出来上がってきたら、
「あれ? これってあのクリームじゃないですか!」
って驚いていたんですって(笑)。
- ──
- 材料だけだと気づかなかったんですね。
- 黒栁
- それでその時、カスタードクリームの匂いを嗅いで
「ディズニーランドの匂いがします」
って言った受刑者がいたそうです。
そこの栄養士さんが
「ディズニーランドの匂いって言われて、
すごく感動しちゃった」って教えてくれました。
たぶん、その受刑者はたのしくてしあわせな思い出と、
カスタードクリームの甘い匂いが
紐づいていたんじゃないかなって。

『めざせ!ムショラン三つ星
刑務所栄養士、今日も受刑者とクサくないメシ作ります』
(作・黒栁桂子/朝日新聞出版)
刑務所での給食づくりについて、
黒栁さんのパワフルな語り口で教えてくれる本です。
現場のドタバタエピソードに笑ったり、
受刑者との交流にじーんとしたりと
心が忙しくなります。
黒栁さん考案のムショ飯が再現できる
レシピページもありますので、
この読み物に出てくるカスタードクリームや、
いかフライレモン風味が
作ってみたくなりましたら、ぜひ。
(担当・安木)
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◎ドラマ『ムショラン三つ星』がNHKで放送中
毎週土曜日22時スタート(全5回)
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(つづきます)
2026-06-14-SUN
