ドラマ『ムショラン三つ星』の原作者で
管理栄養士の黒栁桂子さんの職場は
愛知県の男子刑務所。
受刑者たちと並んで給食を作っています。

大事なおかずをつまみ食いされることもあれば、
手のこんだデザートに歓声があがったり、
受刑者が語る家族の話にじーんと来たり。
刑務所の給食室で起こるさまざまなできごとや、
黒栁さんがおいしい「ムショ飯」を通して
伝えたいことを聞きました。

>黒栁桂子さんプロフィール

黒栁桂子(くろやなぎけいこ)

愛知県岡崎市生まれ。管理栄養士。老人施設や小学校勤務を経て、2012年より岡崎医療刑務所勤務。受刑者とともに日々給食づくりに励んでいる。はじめての著書『めざせ!ムショラン三つ星 刑務所栄養士、今日も受刑者とクサくないメシ作ります』(朝日新聞出版)は、NHKのドラマ原作本に。

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第3回 ひとり1個の概念を捨てよ

──
黒栁さんは限られた予算と時間の中で
給食を作られていますが、
自画自賛したくなるようなメニューはありますか?
黒栁
自画自賛ですか?
それはさすがに‥‥あります(笑)!

──
ふふふ。
ぜひ教えてください。
黒栁
小袋のお菓子を給食に出すときには、
念のため人数分より少し多めに発注するので、
いつも3、4袋ほど余るんです。
そういうのがたまってくると、
使い勝手がなくて困るんです。
──
全員に配るには足りない、中途半端な状態ですね。
黒栁
あるとき「キャベツ太郎」がたまってきてしまったので、
どうにかして使えないかと考えました。
最初はサラダのトッピングにしようかと思ったんですけど、
「いや、これはもっとおもしろいものに
できるんじゃないかな」と。
それで、「キャベツ太郎」をグシャグシャッとつぶし、
かつおぶしやソース、青のりなどを足して、
「キャベツ太郎ふりかけ」というのを作ったんです。
──
おお、キャベツ太郎がふりかけになった。
黒栁
ご飯にかけてもいいし、
そのままでも食べられるふりかけです。
最初は粉末状にしてしまうつもりでしたが、
「先生、これはキャベツ太郎の形を、
ちょっと残した方がいいんじゃないですか?」
と彼らが提案してくれたんですよ。
たしかにそのほうが「キャベツ太郎」を
使っている感じが出るし、カサも増すから、
彼らの意見を採用することにしました。

△キャベツ太郎ふりかけ △キャベツ太郎ふりかけ

──
受刑者の意見を採り入れることは
よくあることなんですか?
黒栁
はい、よくあります。
彼らから意見が出たときは、
なるべく採用するようにしています。
「自分の意見を汲んでもらった」
という経験をしてもらいたいので。
──
自己肯定感につながりますね。
黒栁
「キャベツ太郎ふりかけ」は
おもしろいものができたと思いましたが、
わざわざ作るものでもないので、彼らには
「もう二度と作らないから味わって食べなさい!」
と言って出しました(笑)。
お菓子にかぎらず、
おかずが中途半端に余ってしまうこともあります。
たとえば上半期と下半期で業者さんが代わると、
余っちゃうことがあるんですよ。
──
えっと、どういうことでしょうか?
黒栁
たとえば100人に1個ずつコロッケを出すのに、
上半期はA社のコロッケを出していて、それが80個余っていた。
追加発注をすれば足りない分を補えるのですが、
下半期からはB社のコロッケに切り替えることに
なってしまいました。
だから、80個のA社のコロッケが
出せなくなってしまったんです。
──
B社のコロッケを20個足して、
100個にしてはいけないんですね。
黒栁
はい。
受刑者の食事は、トラブルを回避する意味でも
平等であることがとても大事なので。
──
その余った80個のコロッケは、どうなったんですか?
黒栁
ひとり1個という固定概念を捨てました。
──
おお。
といいますと?
黒栁
別の料理にしてしまうんです。
いったん80個のコロッケをすべて揚げて、
ぐちゃぐちゃに潰しました。
そこに炒めたソーセージや野菜をまぜて
ジャーマンポテトのようなおかずにしたんです。
これなら100人で分けられますから。
1個、2個‥‥と数えるおかずを
「数もの」とよんでいるんですが、
うちでは「数ものを数ものと認識せず使う」
ということはよくやってます。
──
たしかにそうすれば、
ひとり1個の概念を捨てられますね。
今の職場で働く前も、
そのような工夫をされていたんですか?
黒栁
いやー、ここに来てからですね。
前職は学校栄養士だったんですけど、
学校の場合は1食だけですし、
4月1日から次の年の3月31日まで
ほぼ人数が変わらないんです。
でも、刑務所だと3食で、
しかも人の出入りがありますから。
──
食材がどのくらい余るか、予測がつかないですね。
黒栁
冷蔵庫を開けて、
「あ、これ余ってる。
賞味期限来ちゃうし、使わなきゃ!」とか、
「これとこれを混ぜちゃえ!」とか、
家庭の料理と同じようにやっています。

『めざせ!ムショラン三つ星
刑務所栄養士、今日も受刑者とクサくないメシ作ります
(作・黒栁桂子/朝日新聞出版)

刑務所での給食づくりについて、
黒栁さんのパワフルな語り口で教えてくれる本です。
現場のドタバタエピソードに笑ったり、
受刑者との交流にじーんとしたりと
心が忙しくなります。
黒栁さん考案のムショ飯が再現できる
レシピページもありますので、
この読み物に出てくるカスタードクリームや、
いかフライレモン風味が
作ってみたくなりましたら、ぜひ。
(担当・安木)

【朝日新聞出版HPはこちら】
【Amazon書誌ページはこちら】

◎ドラマ『ムショラン三つ星』がNHKで放送中
毎週土曜日22時スタート(全5回)
【NHK公式はこちら】

 

(つづきます)

2026-06-15-MON

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