ドラマ『ムショラン三つ星』の原作者で
管理栄養士の黒栁桂子さんの職場は
愛知県の男子刑務所。
受刑者たちと並んで給食を作っています。

大事なおかずをつまみ食いされることもあれば、
手のこんだデザートに歓声があがったり、
受刑者が語る家族の話にじーんと来たり。
刑務所の給食室で起こるさまざまなできごとや、
黒栁さんがおいしい「ムショ飯」を通して
伝えたいことを聞きました。

>黒栁桂子さんプロフィール

黒栁桂子(くろやなぎけいこ)

愛知県岡崎市生まれ。管理栄養士。老人施設や小学校勤務を経て、2012年より岡崎医療刑務所勤務。受刑者とともに日々給食づくりに励んでいる。はじめての著書『めざせ!ムショラン三つ星 刑務所栄養士、今日も受刑者とクサくないメシ作ります』(朝日新聞出版)は、NHKのドラマ原作本に。

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第4回 ズキュンときた瞬間。

──
いきなり話が変わってしまいますが、
黒栁さんは、どうして男子刑務所で
働くことになったんですか?
黒栁
ここに来る前は学校給食の栄養士として、
小学校に勤務していました。
職員室の中にデスクがあって、
給食室と行き来しながら仕事をしてたんです。
──
はい。
黒栁
当時は契約期間が決まった働き方を
していたのですが、小学校で3年間働くと、
県の栄養教諭になるための受験資格を
得ることができるので、がんばっていました。
で、3年経ったところで契約が切れてしまいました。
──
じゃあ、ぎりぎりセーフですね。
黒栁
いや、それが実務経験日数が
3日足りなかったんです。
──
3日!
じゃあ、試験を受けられなかったんですか?
黒栁
はい。
それでしょうがないから、
「管理栄養士 愛知県 求人」で検索したら、
ほんとうに、たまたま、今の刑務所が出てきたんです。
──
では刑務所の食事を作ろうとか、
刑務所の食に携わりたいとか、
そういう希望があったわけではなく?
黒栁
ぜんぜん!
募集のページにくわしい仕事内容が載っていなかったので、
どういう仕事かも分かっていませんでした。
でも今までの経験があれば、
なんとかなるだろうと思って応募したんです。

──
そうでしたか。
黒栁さんの他にも、受験者はいましたか?
黒栁
これも全く知らなかったのですが、
他に30名ほどいたみたいです。
国家公務員にあたる仕事なので、
管理栄養士の職場の条件としては、
とてもいいので、
他県からも応募があったみたいですね。
──
狭き門だったんですね。
ご自身が選ばれた理由に
思い当たることはありますか?
黒栁
それはですね、
ちょうどいいおばさんだったからだと思います。
──
えええ?
黒栁
たぶん「刑務所あるある」だと思うんですけど、
男子刑務所で若いキレイなおねえちゃんが
働いていると困るんですよ。
刑務官が「なにかあったらいけない」と
心配になりますから。
あと、現場にいる栄養士は基本的に一人だけなので、
経験の少ない人が来ても、教えられる人が誰もいない。
経験がある、ちょうどいいおばちゃんだったのが
よかったんだと思います。
──
そうですね、
とはちょっと言いづらいです(笑)。
黒栁
あ、あとは、こう言われました。
「度胸がありそう」って。
──
実際のところは、どうでしょうか?
黒栁
ある方だと思いますね。
心の中で「どうしよう、どうしよう」と思っていても、
顔は平然としていますから。
私は事件が大きければ大きいほど、
一回お茶を飲むようにしているんですよ。
わざわざお茶淹れて、飲んでから、
「よし、いこか!」みたいな。
──
頼もしいです。
採用面接官の方は見る目がありましたね。
黒栁
あはは。
──
人気の職場ではありますが、
応募するときに、
怖いとは思いませんでしたか?
黒栁
受刑者と接することはないと思い込んでいたんですよ。
だから怖くなかったんです。
出来上がった給食を彼らがいるところに
運ぶくらいかなとイメージしていたので。
──
ああ、なるほど。
黒栁
そもそも受刑者が食事を作っていることも
知りませんでした。
普通の現場と同じように、
給食を作るスタッフが雇われていると思っていたんです。
──
その誤解が解けたのは、いつですか?
黒栁
採用後の手続きに言ったときですね。
「給食を作る外部スタッフは何名いるんですか?」
とお聞きしたら、
「いや、いないよ。受刑者が作るんだよ」って言われて。
そのときにはじめて、
自分が受刑者と接する仕事をすることが分かりました。
「うわ、聞いてない!」って、冷や汗が出ました。
──
はじめて刑務所の中に入ったときのことは
覚えていらっしゃいますか?
黒栁
はい。
あまり身動きをせずに、
監視カメラの位置を目で追っていましたね。
受刑者に背後に立たれると怖いので、
なるべく壁沿いに歩いたりしていました(笑)。
──
そうでしたか。
黒栁
でも、実は受刑者の方も
私のことをすごく警戒していたみたいです。
下手に私とすれ違って、
仮に肩が触れてしまったりすると、
「お前、栄養士さんに何してるんだ」って
刑務官から注意されてしまうので。
彼らの方が私を避けていきました。
──
その緊張や恐怖心が消えた瞬間は、覚えていますか?
黒栁
それはよく覚えていますよ。
働き出してから2ヶ月くらい経ってから、
前任者から引き継いだメニューではなく、
自分で提案したメニューを出したんです。
「いかフライのレモン煮」という
愛知県西尾市で人気の学校給食を参考にして作った、
「いかフライレモン風味」というものなんですけど。

△黒栁さんのいかフライレモン風味 △黒栁さんのいかフライレモン風味

それを出したあと、
受刑者が話しかけてきてくれたんです。
「こないだのいかフライ、めっちゃウマかったっす。
もう一回やってください」って。
──
それはうれしいですね。
黒栁
はい、素直にうれしかったんです。
なんかすごく、「ズキュン!」ときました(笑)。

──
「ズキュン」と!
黒栁
はい、「ズキュン!」って感じです。
その場面をいまだに覚えてます、すごく。

『めざせ!ムショラン三つ星
刑務所栄養士、今日も受刑者とクサくないメシ作ります
(作・黒栁桂子/朝日新聞出版)

刑務所での給食づくりについて、
黒栁さんのパワフルな語り口で教えてくれる本です。
現場のドタバタエピソードに笑ったり、
受刑者との交流にじーんとしたりと
心が忙しくなります。
黒栁さん考案のムショ飯が再現できる
レシピページもありますので、
この読み物に出てくるカスタードクリームや、
いかフライレモン風味が
作ってみたくなりましたら、ぜひ。
(担当・安木)

【朝日新聞出版HPはこちら】
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◎ドラマ『ムショラン三つ星』がNHKで放送中
毎週土曜日22時スタート(全5回)
【NHK公式はこちら】

 

(つづきます)

2026-06-16-TUE

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