
ドラマ『ムショラン三つ星』の原作者で
管理栄養士の黒栁桂子さんの職場は
愛知県の男子刑務所。
受刑者たちと並んで給食を作っています。
大事なおかずをつまみ食いされることもあれば、
手のこんだデザートに歓声があがったり、
受刑者が語る家族の話にじーんと来たり。
刑務所の給食室で起こるさまざまなできごとや、
黒栁さんがおいしい「ムショ飯」を通して
伝えたいことを聞きました。
黒栁桂子(くろやなぎけいこ)
愛知県岡崎市生まれ。管理栄養士。老人施設や小学校勤務を経て、2012年より岡崎医療刑務所勤務。受刑者とともに日々給食づくりに励んでいる。はじめての著書『めざせ!ムショラン三つ星 刑務所栄養士、今日も受刑者とクサくないメシ作ります』(朝日新聞出版)は、NHKのドラマ原作本に。
- ──
- 黒栁さんは一緒に働いている受刑者の
罪状はご存知なんですか?
- 黒栁
- いや、それは聞かないようにしているんです。
最初の頃は気になって
聞いたこともあるんですけれども、
私の仕事に関係がないことに気がつきました。 - 用意された材料で彼らと一緒に
おいしいものができればそれでいいので、
詐欺だとか、窃盗だとか、覚せい剤とか、
彼らの罪状は炊場にいるときは
「どうでもよくない?」
って途中から思い始めたんです。
- ──
- 心から、そう思えることはすごいですね。
- 黒栁
- うーん、そうなんですかね。
出所する直前に「なんだったの?」って
聞くことはありますけれど。
一緒に働いてる間は正直、関係ないなって思いますね。
- ──
- 今は受刑者のことをどんな風に思っていますか?
- 黒栁
- 彼らが社会でどういう生活をしてきたか、
私には分からないんですが、
自分の仕事がきちんと評価を受けて、
それがやりがいにつながるという経験を
おそらくしてこなかった人たちなのかなと
思っています。
- ──
- さきほどのお話にあった、
デザート作りのときに得られるような
やりがいですね。
- 黒栁
- はい。
だから自分の仕事について
ちゃんと周りから評価されてほしいし、
私も評価しようと思っています。
それに彼らは褒めると、
すごく喜んでくれるんです。
褒められるとうれしいのは私もおなじなので、
逆に「私のことも褒めてほしい!」
って伝えています(笑)。
- ──
- なんだかいい関係性ですね。
- 黒栁
- そうですね。
受刑者はやっぱり刑務官から厳しいことを
言われることがあるので、
私が彼らを指導するときは、
たのしい雰囲気で仕事ができるような
指導をしようと思っているんです。
- ──
- たとえばどんな指導を?
- 黒栁
- デザートのクッキーに、
チョコペンでスマイルマークを描いてもらったとき、
「どうせ描くんだったら、ちゃんと顔に個性を出しなさいよ」
って無茶なことを言ったんです。
そうすると、離れ目にしてみたりとか、
寄り目にしてみたりとか、工夫して描くんですね。 - いかにも悪そうな大男が、
小さなチョコペンを持ちながら
背中を丸めていたんですけど、
その彼には幼い娘さんがいるんです。
たぶん娘さんのことを
思いながら描いたんじゃないかな。
背中がいかにもウキウキしていましたから。
- ──
- そうでしたか。
- 黒栁
- わざわざデザートに顔なんて描く必要は
ないんですけれども、配られた受刑者たちから、
「今日のデザート、顔がついとるぞー!」って
歓声があがることもあるみたいなんですよ。
そういう話を聞くと、わたしも「よっしゃ!」
という気持ちになりますよね。
- ──
- 黒栁さんが先生のようにも、
お母さんのようにも思えてきました。
- 黒栁
- あー、なんかうれしいですね、それ。
受刑者にも言われたことがあるんですよ。
「先生、俺らのお母さんみたいな存在です」って。
ただし、それを言ったのは、
私と5歳も違わない人だったんですけど(笑)。
- ──
- オチが完璧です(笑)。
- 黒栁
- まあ、褒め言葉で言ってくれてるわけだから、
「素直に受け取っておくか!」って思っています。
- 黒栁
- 彼らと調理をしてるときに、とてもいいなあと思うのが、
作業するときに自然と横並びになることです。
これはあとから知ったんですけど、
横並びになると信頼感や親近感が増す
「スティンザー効果」というものがあるんですって。
- ──
- たしかに、その効果は分かる気がします。
- 黒栁
- 横並びで作業をしていると、
私が質問するわけじゃないのに、
自然と自分の家族のことを話してくれるんですよ。
「俺に好き嫌いがないのは、母ちゃんがそうやって
育ててくれたからですね」とか、
「小さい頃にお母さんと一緒に
ハンバーグをこねたことを思い出しました」とか。
家族のことを思い出して
私に言ってくるということは、
たぶん家族のために真面目に罪を償って
早く出ていこうって思ってくれてるんだろうなーって、
思うんです。
- ──
- 料理で家庭を思い出すのは、
黒栁さんがおいしいものを
作ろうとしているからなのではないでしょうか。
- 黒栁
- でも私が勤め始めた頃は、
食事をおいしく作ろうという概念がなかった気がします。
おいしいかどうかは二の次で、
決められた材料を決められたように
扱えばいい、という雰囲気があったんですよ。
でも、「それはちがうでしょ」って思いました。
- ──
- 黒栁さんが自ら献立を考えるようになって、
変わっていったんですね。
- 黒栁
- はい。
既存の作業工程を見直すと、
「こうしたらもっとおいしくなるのに」
というポイントがたくさん見つかりました。
今までやってきたことを変えるのは、
なかなか難しかったのですが、
給食がおいしくなれば受刑者の不平不満が減って、
刑務所の治安も保たれる。
それは結局のところ、
刑務官の仕事にとっても、
いいということがだんだんと分かってもらえました。
- ──
- たしかに。
- 黒栁
- 刑務所の給食は「クサイ飯」とたとえられるし、
悪いことした人たちが食べるものだから、
おいしい必要はないって、
考えている人もいると思うんです。 - でもだからといって、
食事まで罰に使うのは、
私は食材に対しても失礼だと思います。
たとえば私が鶏肉だとして、
「刑務所のやつらに食べさせるものだから、
まずく作っても大丈夫」って扱われたら、
化けて出ますよ(笑)。
食べ物に罪はないし、
やっぱりおいしく作ってあげたいです。

『めざせ!ムショラン三つ星
刑務所栄養士、今日も受刑者とクサくないメシ作ります』
(作・黒栁桂子/朝日新聞出版)
刑務所での給食づくりについて、
黒栁さんのパワフルな語り口で教えてくれる本です。
現場のドタバタエピソードに笑ったり、
受刑者との交流にじーんとしたりと
心が忙しくなります。
黒栁さん考案のムショ飯が再現できる
レシピページもありますので、
この読み物に出てくるカスタードクリームや、
いかフライレモン風味が
作ってみたくなりましたら、ぜひ。
(担当・安木)
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◎ドラマ『ムショラン三つ星』がNHKで放送中
毎週土曜日22時スタート(全5回)
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(つづきます)
2026-06-17-WED
