──

さて、きょう、あらためて大江さんに
教えていただきたいことがあるんです。
今はInstagramなどでも
料理の写真をたくさん見るようになりました。
そこで「ほんとうにおいしそうだね！」
という写真が撮りたくって、
プロの大江さんに
料理をおいしそうに撮るレッスンを
していただきたいなと思いました。

大江

おいしそうな写真ね。
まずはたくさん食べることです！　
アハハ。

──

たしかに！　機会の多さは
関心の高さにつながりますからね。
でも今日は、もうちょっと具体的なことを‥‥
お昼用に崎陽軒のシウマイ弁当を用意しているので、
「ほぼ日」の『LIFE』チームのふたり、
と、
それから食品チームのに、
じっさいに自分のスマホで撮ってもらおうと思います。

大江

シウマイ弁当を撮るんだ。おお。
それじゃあね、まず、
自分で勝手に撮ってみてください。
時間は10分くらいでいいかな。
そのあとに撮ったものについてお話ししましょう。
社内で撮る場所も含めて考えてみてください。
連作でもいいし、１枚でもいいですよ。
あとは‥‥Instagramは正方形が多いけれど、
タテ長でもヨコ長でもかまいません。
アドバイスはそれくらいで、
ほかはノーヒントで行きましょうか。

畑

はい、撮ってみます！

篠田

行ってきます。

宮野

がんばります！

（３人、撮影へ）

──

今から撮るのはスマホで、ですけれど、
カメラだとまた違うんですよね。
もちろんカメラにも一眼やレンジファインダーなど
いろいろなものがあります。
レンズの性能にもよるでしょうし、
カメラの撮像素子（イメージセンサ）の
大きさによって解像度も違いますし、
プロが使うような機材だとまた格段に違いがありますよね。

大江

そう。たとえば、
昔４×５（しのご：大型フイルム）で
撮ったのも、そういうことですよね。
35ミリフイルムで撮ったのとは
面積が違うぶん、明らかに情報量が違うわけで、
現像したポジフイルムを見て
「うわ、すごいシズルだ！」と思ったものです。

──

シズルという言葉、前回も出ましたが、
「シズル（sizzle）」は
食欲をそそるような料理写真に使われる言葉ですね。

大江

そうです。
ステーキの写真を見た時に
音がジュージューってしそうな感じが写真からするとき、
「シズル感がある」って言いますね。
お肉にかぎらず、
料理のみずみずしさ全般に使います。
それは「照り感」とも違うし、
日本語でピッタリの言い方がないかもしれないです。

▲『LIFE３』より「ご家庭ステーキ。（まんぷく厚切り牛ももステーキとポークソテー。）」。

──

スマホでは写りにくいものなんでしょうか。

大江

いやいや、そんなこともないと思います。
フイルムカメラ、スマホ、デジタルカメラなりで、
それぞれの個性があるということですね。
プロは、ときに大きく引き延ばして使ったりするから、
そんな「納品する仕事としての写真」のために
カメラの性能、解像度や撮像素子の大きさ、
また、使うレンズの特性などで選ぶわけですけれど、
「おいしそうな写真」を考える時、
それはまた別のことですよね。
今はほんとうに幸せな時代で、
フイルムカメラしかなかった時代には、
感材費（かんざいひ）といって、
フイルムにも現像にもお金がかかったわけです。

──

そうでしたね。
フイルムカメラで撮影する仕事には、
その経費がつきものでした。
だから趣味でカメラをというのも、
お金がかかることだったんですよね。

大江

一般的な１本36枚撮りで
フイルム代と現像代を合わせて1600円、
ポジフイルムで１枚ずつマウント加工をすると
さらに1000円くらいかかっていましたね。
それって大変なことですよね。
今のようなデジタルカメラで
撮り放題の時代が来るなんて
考えられなかった。
でも逆に言うと、１枚の写真、
１回のシャッターに対する重さが違いました。
つまりデジタルの時代になって、
もう撮影スタイルそのものが
変わっちゃったのかもしれないなと思います。
今の人は幸せです、自分でテストして
すぐその場で見られるし。
フイルムはそれもできなかった。
プロはポラロイドを使って確認をしていましたけれど。

──

ぼくはフイルムカメラで、
マニュアルフォーカスの頃から
一眼レフカメラを使ってきたんですが、
お金がかかったことはともかく、
よかったなと思うことがあるんです。
それはマニュアルフォーカスだから、
ビューファインダーを覗いて
ピントを合わせなくちゃいけなかったこと。
結果として撮るものをしっかり見ていたんじゃないかな、
と思うんです。
「見つめる」ことをやらざるを得なかったのは、
よかったんじゃないかなって。

大江

そうだと思います。
実はね、今も、撮るものによるけれど、
マニュアルフォーカスのほうが早いことがあります。
「自分が思ったところに合わせるのが早い」というか。

──

たしかに、オートフォーカスだと、
「そこに合わせたいんじゃないんだよな」
というところをカメラが選ぶ場合があるし、
手前に障害物があってその向こうを撮りたいときに、
うまくピントが合わないこともありますよね。

大江

どんどん、カメラやレンズの性能が
よくなってはいるけれどね。
自分たちは、マニュアルの時代があったおかげで、
フォーカスだけじゃなく、
設定（絞り、シャッタースピードなど）も含め、
その瞬間、瞬間で判断をするクセがつきましたね。
けれども、オートフォーカスも
日進月歩でよくなってるでしょ。
例えば、その機能の一つの「瞳フォーカス」とか
便利な機能もたくさん増えた。

──

被写体の目に合わせて
ピントを調整してくれる機能ですね。

大江

そう。人を撮るときは、
ピントをそれに任せることで、
フレームに集中できるようになりました。
いままでだったら、ピントを合わせながら
フレームも考えなきゃいけないので、
２つのことをいっぺんにやっていた。
それ以外にも光とかいろいろあるけど、
とりあえず大ざっぱに言えば、
その２つを考えていたわけです。
その時にちょっとだけ
タイミングが遅れることがありました。
でも瞳オートフォーカスなら、
フレームに集中できる。

──

スマホにはビューファインダーがありませんが、
デジタルカメラには背面の液晶モニターとともに
目を当てて覗くビューファインダーがありますよね。
どちらでもピントやフレームの確認はできるんですが、
大江さんは、モニターだけを見て
撮ることってあるんですか。

大江

ぼくは圧倒的にファインダーを覗きます。
それはぼくがそれに慣れているからです。
ファインダー越しのほうが、フレームの全体を見つつ、
どこにピントを合わせるかを見られる気がします。
感覚的に画角を判断して撮っている。
それが、モニターで見ると、ちょっとおろそかになる。
モニターって全体の構図は見えてるけど、
肝心なものをよく見ていない、みたいな感覚なんです。
ただ、液晶モニターにもいい点があって、
チルト式（可動式）モニターが採用されている場合、
うんとローアングルで撮るとか、
手持ちで俯瞰撮影をする（真上から撮る）とか、
手を伸ばしてカメラを上に掲げて撮るとか、
そういうことができるようになったんです。
こういういい点はどんどん利用したほうが、
おもしろい写真が撮れますよ。
ぼくがカメラに飽きないのは、
そういうこともあるんだと思います。

──

どんどんカメラが進化するから、
楽しいんですね。

大江

飽きさせてくれない。
どんどん撮影スタイルに取り入れたほうがいいですね。
そうしないと、楽しさをスポイルしてる気がします。
せっかくの最新型デジタル一眼ミラーレスなのに、って。

（３人が戻ってくる）

大江

おかえりなさい。
どうでしたか。

宮野

うーん！？

篠田

どうなんでしょう‥‥。

畑

自信はありません‥‥。

大江

じゃあ、順番に見せてください。
篠田さんから、いいかな。

篠田

ハイ先生。
これはまず外箱、パッケージを撮りました。
そしてふたを開けたところを撮って。

大江

いいですねえ。

篠田

ありがとうございます。
最後はおかずにちょっと寄ったものを撮りました。
以上の３枚です。

大江

なるほど、いろいろあって、いいですね。
まずそこは褒めたいです。
個々の写真について言うと‥‥、
えっと、まずこれは難しい撮影のひとつなんだけれど、
このお弁当って長方形でしょう？　
それを、スマホのレンズで近づいて撮ると、
パースがつくんです。
そうすると、見た時に、
ちょっと不安定な感じがしちゃう。

篠田

なるほど！　たしかに不安定な感じがしますね。
これはどうしたらいいんでしょう。

大江

たとえば、お弁当を斜めから撮る。
さらに、ちょっと広角になりすぎているので、
ちょっと離れて、ズームして撮るといいですよ。
「ちょっと望遠気味に」と言いますか、
アップにして撮りたいとき、
寄らないで、離れたところからズームするんです。
そうするとパースがここまでつきません。
ただ、あんまりズームをかけすぎると、
画像が荒れるので、軽く、ですね。
そうするとね、もっと迫力が出てきます。
これ迫力がないでしょ？

篠田

ええ、まるでないです。

大江

うん。
ちなみに、円形のお皿だったらパースがついても
そんなに妙な感じにはならないんですけれど、
長方形のお弁当だとこうなっちゃうんですね。
ちょっと斜めに振ったのはよかったけれどね。
ちなみに、トリミングで周辺を切る方法もあります。
このくらいに。

篠田

ほんとだ！

大江

ははは。違うでしょ？　
「なんだかちょっと気持ち悪いな」と思ったら。
こうしてみるのもいいですよ。

篠田

学びました！

大江

よかった、こういう失敗してくれて。アハハ。
みんなうまかったら、どうしようかと思ってました。