──

あと、もうひとつは、光の方向性。
自分の背後に窓があるところで撮ったでしょ？

篠田

はい、まったく気にしていませんでした。

大江

これは、窓に向いてお弁当を置いて、
向こう側か、斜め横からの光で撮ったほうが
よかったんじゃないかなと思います。
そして、これはスマホで調整できますが、
もうちょっと明るめでもいいかな。
というのは、ちょっと料理がつぶれてる。
「つぶれ」というのは
暗くなってディテールがわからないということです。
‥‥って、こういう細かいことはいっぱい言えるけど、
言った方がいいかな？　

篠田

ぜひ教えてください。

大江

えっとね、この場合だと、
シャドウ（影）がかなり濃いでしょう。
これがもうちょっと明るくなると、
このお弁当の場合は雰囲気が良くなると思います。
シャドウがあったほうがいいケースも
もちろんあるんだけど、この場合はね。
そうすると、もうちょっとおいしそうになるかな。

篠田

へええ！

──

影を濃くしないためには、
その影を消すような、
手前から向こうにいく光が必要ですか？

大江

そうですね、手前に白、
たとえばコピー用紙で反射させるとか、
そういうふうに影を明るくすることもできますね。
そうそう、白いシャツを着ていると、
手前にさす影が明るくなりますよ。
それはレフ板（光を反射するカメラの道具）の
効果が出るからなんです。
赤い服を着ていたら、被写体に赤がのるんですよ。
しかも、色はシャドウにのるから困っちゃう。

▲「撮影時には白を着る」大江さん。

篠田

ええー。

大江

まああとで補正をかければいい、
ということもあるけれど、
基本的にはそういうことなんです。
ちなみにグレーとか黒、
無彩色だったら影響は少ないです。
でもまあ、スマホでお弁当を撮る時に
そこまでする必要はないかもしれないですけどね。

──

レストランで手前が影になって困ったら‥‥。

大江

あはは、ぼくはそういう時は、
そのへんにあるものを利用して、
たとえばメニューで反射させたりします。
メニューの内側ってたいてい白地でしょ？　
あとね、レストランだと、
料理にぴったり合うようにスポットライトが
強く入っている場合があるので、
それをメニューで遮るとまた変わりますよ。

──

へえ！　それはやったことがなかったです。
たしかに強すぎて影がばっちり
出ちゃうことがありますね。

大江

考え方は幾通りかあって、
もちろんそれを臨場感として活かしてもいいんですよ。

──

その場の雰囲気込みで写真を撮ればいい、
ということですね。

大江

篠田さんについては、そんな感じでしょうか。

篠田

ありがとうございました。

大江

次は、宮野さん。

宮野

はい、わたしも何枚か撮りました。

大江

同じ部屋で何枚か撮ったんですね。
同じ部屋だけど位置を変えて、
照明はオフで窓からの自然光で。
ちょっとだけシャドウが柔らかいですね。

大江

真上から撮ったんですね。
だから形にパースがつかず、正確に出ています。

宮野

でも、蓋を開けて撮ったものは、
なんだかグレーっぽくて、
おいしそうにならなかったんです。

大江

なんだか不安定ですよね。
これはね、光が回らなかったんです。

宮野

「光が回らない」……。

大江

広い窓からフラットな光が入ってきて、
部屋のいろんな壁に当たり跳ね返って、
被写体にじゅうぶんな光が届いている状態を指して
「光がよく回っている」という言いかたをするんです。
そうなると、そこそこ色がきれいに出るはずなんだけれど、
この写真で光が回りきらず、
おいしそうな色にならなかったのは、
窓からの光を反射する側の壁との距離が長く、
反射光が届かなかったからでしょうね。
光が回らないと黒が目立ち、
その黒が手前にあるからより気になってしまう。
それをずらすために、
ちょっと光を回転させてあげるといいですよ。
そうすると不自然な影にならないんです。
これは、手前の底辺のほうだけでも
カットすれば、ずいぶん違ってきますよ。
撮ったあとにトリミングをしてもいい。

宮野

ああ、なるほど。
そういうことだったんですね。
こちらの写真は部屋を変えて
撮ってみました。
シウマイ弁当だから、
シウマイに寄せて撮ってみようと思って
撮ったものです。

大江

ちょっとおいしそうになりましたね。
これだと、ほら、ちゃんと手前の影が
つぶれていないでしょう。
ただ、パースがついたことで、
形に気持ち悪さが出てしまいました。
これだったら、最初の写真のように、
真上から撮ったほうがいいかな。

宮野

勉強になります。
ありがとうございました！

大江

はい。じゃあ、畑さん。

──

よろしくお願いします。
わたし、１枚しかないんですけど。

大江

あ、１枚？　厳選したんですね。あはは。

畑

いっぱい撮ったんですけど‥‥。
いやいやいや。あのほんとはあるんですけど。
これです。

大江

あ、これは、ありだよね。
おはしを使ってシウマイを持ち上げておいて、真上から。
これは、それぞれの具がよくわかるし、
蒲鉾とシウマイの大きさの比較もわかる。
けれども、真上から撮るときに失われるのは、
遠近感なんです。
遠近感を出したほうが立体感が出ます。
だからこれを撮りつつも、
斜めからの写真も撮ってほしいな。
その時も、シウマイをおはしで
もうちょっと浮かしてもいいかもしれません。

畑

はい、ありがとうございました。

大江

おはしを使ったところはとてもいいと思います。
武井さんだったらどうしますか、シウマイ弁当。

──

自分だったら、からしをつけて撮る、
おしょうゆをさす瞬間を撮るなどするかもしれません。
動作と込みで。

大江

みんなが撮影している間にその話をしていたんだけれど、
いわゆるシズル感を出すためには、
からしとかしょうゆとかをつけるのもいいんですよ。
醤油の一滴の、光が入ったところが、
ハイライトで光るでしょ？　
そういうのがシズル感につながります。
世の中の「プロが撮ったおいしそうな写真」って、
たいてい、そういうものが入っていると思います。
もちろんなかにはフラットに撮る人もいるんだけど、
見た目の雰囲気そのままっていうか、
生々しさ、臨場感っていうか、
その場のストーリーみたいなところを強めに出すんです。
でもそれをつきつめていくと、
照明は自然光じゃなくてしっかり組んで、
というようなことになるので、
ここでは割愛しますね。
‥‥って、そんな感じでいいでしょうか？

三人

ありがとうございました！

大江

せっかくなので、食べる前に、
もう一回撮ってみたらどうでしょう。
今のアドバイス、少しでいいので気にしてみて。
完璧は求めなくていいですから。

三人

ハイ！
（席を外し、少しして撮影から戻ってくる）

大江

どうでしたか？

篠田

失敗しました‥‥。

大江

失敗しちゃったの？　
あらま。

篠田

からしをのせてみようと思ったら、
不細工なのせ方をしちゃったんです。

大江

ああ、なるほど、そっちか。
からしの形もあるものね。
でもね、とってもいいですよ！

篠田

ありがとうございます！

畑

私は、ちょっと望遠にして、
遠くから撮ってみました。

大江

うん。このほうが違和感がないです。
周りのさ、天板の面積を大きくして撮るんだね。
こういう撮り方もある。
トリミングをしてもいいけれど、
こんなふうにあえて余白を残してもいいですね。

畑

からしをのせて、
もうちょっと寄ったものも撮りました。

大江

あ、いいじゃないですか！　
さっきより全然、よくなった。

畑

よかったです。先生のおかげです。

宮野

わたしは、お弁当を横位置にして、
シャドウと角度に注意してみました。

大江

あ、きれいですね！

宮野

お弁当の蓋の裏側が真っ白だったので、
レフ板になりそうだと思い、
それで反射させました。

大江

すごい。
全然、ありです。

宮野

それから、シズル感を大事にしようと思って、
しょうゆをかけて、寄りにしました。

大江

なるほど。ぐっとおいしそうになったよね。
これだったら「食べたいな！」と思うものね。

宮野

よかったです！

大江

‥‥と、こんなところでしょうか。
大丈夫？　こんな話で。

──

とても楽しかったです。
大江さん、ありがとうございました。
引き続き「ほぼ日」の写真、
いろいろとよろしくお願いします。

三人

ありがとうございました！

大江

いえいえ、また呼んでください。
それじゃ、食べましょう！

全員

いただきまーす。