ネスのソフビ(※)を作るプロジェクトが
スタートしたのは2020年1月のこと。
それから月日が経ち、2024年、
私たちが目指した「ネスのおもちゃの決定版」は、
M1号さん、チャイルド工芸さん、オビツ製作所さんの
3社の協力を得て、ついに完成しました。
その制作の過程、つまりメイキングの一部始終は、
しっかりと記録しておきたい。
そんな強い思いから、
これまでのすべての打ち合わせで
ボイスレコーダーを回していました。
そのため、手元にはたくさんの音声データが残っています。
これは、ネスのソフビの完成後に
あらためて録ったインタビュー記事ではありません。
4年半にわたる制作の記録の中から
とくに重要な箇所だけを抜き出した
制作日記のようなものです。
題して「ネスのソフビができるまで。」。
制作に携わった3社との主要なやり取りの様子を、
当時の空気感とともにお届けしていきます。
※ソフビ:PVC(ポリ塩化ビニル、通称ソフトビニール)を
金型に流し込んで成型する人形の通称。
前回の取材からさらに約1年が経過。
ソフビで作る「ネスのおもちゃの決定版」は、
その後、成型、彩色、組み上げといった作業を経て、
ついに初回ロット分が完成しました。
そこで、最後の手作業となった
彩色と組み上げについて、後日お話を伺いました。
お相手は、オビツ製作所の専務取締役、松井静雄さん、
彩色担当スタッフさん、
組み上げ担当スタッフさんです。
- ──
- 本日は、彩色と組み上げというふたつの工程について
お話を聞かせてください。
まずソフビに色を塗る「彩色」ですが、
これはどういった手順で行うんですか?
- 松井
- 前にM1号の西村さんに
「彩色サンプル(量産前の彩色の見本)を作ってって、
お願いしていたでしょ?
まずそれができあがってきたんですよ。
私たちは、その西村さんが彩色してくれたサンプルを
お手本にして、まったく同じ色になるように、
1体ずつ彩色していきました。
- ──
- 彩色するときは、どんな道具を使うんですか?
- 彩色担当スタッフ
- ソフビ用の塗料を吹くスプレーガンと、
あとはマスク(色を塗り分けるために使う型)ですね。
- 松井
- スプレーガンのことを、
マニアの人はエアブラシって言うね。
- ──
- たしかに、エアブラシのほうが馴染み深いです。
「マスク」というのは‥‥?
- 彩色担当スタッフ
- ここに並べてあるのがそれです。
- ──
- すごい数。金属製ですよね?
- 彩色担当スタッフ
- はい。ソフビの各部位を彩色するときは、
まずこれをソフビに被せて、
その上からスプレーするんです。
そうすると塗りたい箇所にだけ
スプレーの塗料が届くので、はみ出さないんですよ。
- 松井
- たとえばこれは、
目と前髪を塗るときに使うマスク。
ソフビの頭のパーツをこう、ぐっとはめるでしょ。
- ──
- あ、前髪と目以外の箇所が、
完全にカバーされて隠れましたね。
- 松井
- これで黒く塗りたい箇所だけを、彩色できるわけ。
この金属の型は、本当にそれぞれのパーツに
ぴったりの形で作ってあるからね。
でもぴったりすぎて、成型したばかりのソフビだと
マスクに入らないんですよ。
- ──
- え、そうなんですか?
- 松井
- ソフビは金型から抜いた途端に、収縮が始まるんです。
だから、だいたい1週間から10日のあいだはだめ。
それ以上経つと、
だんだんマスクが合うようになってくるんです。
- ──
- じゃあ成型したあと、ある程度の時間が経ってから
彩色に取り掛かるわけですね。
- 松井
- そう。でも逆に1ヵ月くらい経ってから
ソフビをマスクにはめると、
こんどは小さくなりすぎて、
振るとカタカタ音がしちゃうんです。
だから彩色するときは、
成型してから何日経ったソフビなのかがすごく重要なの。
- ──
- なるほど、奥が深いんですね。
それで、この道具がスプレーガンですか?
- 彩色担当スタッフ
- はい。空気圧と塗料を吹き付ける量を、
それぞれ調整しながら使います。
たとえばグラデーションをかけたいときなどは、
塗料を吹き付ける量を少なくすると薄めになります。
- ──
- 距離感も重要そうですね。
- 彩色担当スタッフ
- そうですね。吹き付ける量が少なければ、
距離が近くてもそこまでベチャッとなりません。
その辺りのさじ加減は、
職人の腕の見せどころです。
- ──
- ちなみに、塗る順番というのは?
- 彩色担当スタッフ
- 基本的には、薄い色から塗っていきます。
ボーダーのTシャツの場合、
まず黄色を全体に塗ってからマスクをして、
つぎに青い部分を塗っています。
今回は4人の塗装職人で、
それぞれがどのパーツを担当するのかを決めて、
順番に彩色していきました。
- ──
- 彩色が終わったあとは‥‥。
- 松井
- ソフビの関節部分にある
余分なバリをカッターで切って、
きれいにしたら組み上げていきます。
彼女が実演しますからね。
- 組み上げ担当スタッフ
- よろしくお願いします。
- ──
- よろしくお願いします。
この組み上げの作業は、
ひとりでやるものなんですか?
- 組み上げ担当スタッフ
- 今日はひとりでやりますが、
2人で分担して組み立てました。
私の担当は、腕と脚。
隣にいたもう1人の方が、頭とリュックでした。
- ──
- それらを胴のパーツに組んでいくという。
- 組み上げ担当スタッフ
- そうです。まず、胴のパーツはこのまま、
つまり硬いままで、
そのほかのパーツは少し温めてやわらかくします。
指でつまんだときに、ぐにゃっとするくらい。
- ──
- この箱の中に入れておくと、温まるんですね。
- 組み上げ担当スタッフ
- はい。ネスの場合は彩色されているので、
温めすぎると塗料がベタっとしたり、はげたり、
テカってしまったりするんです。
だから、どれくらい温めるかは感覚で。
- ──
- 感覚で。
なぜ胴は硬いままがいいんですか?
- 組み上げ担当スタッフ
- 首や手脚についているかん着(ジョイント)は、
やわらかくしたほうが組みやすいんです。
でも受け側の胴まで温めちゃうと、
どっちもぐにゃっとなりますし、
かん着が変形したままになりやすいんですよ。
それがそのまま冷えて硬くなると、取れやすくなります。
- ──
- なるほど。それで、どこから組み始めるんですか?
- 組み上げ担当スタッフ
- まず脚ですね。こうやって‥‥。
- ──
- あ、もう組めてしまった?
- 組み上げ担当スタッフ
- はい(笑)。温まっていれば、早いですよ。
ネスは肉厚で、ふつうのソフビより頑丈なので
組むのにちょっとコツがいりますけど‥‥
こういう感じで。
- ──
- あ、腕はペンチも使うんですね。
- 組み上げ担当スタッフ
- はい。でも腕と脚を組んだ段階で、
胴のパーツに熱が伝わっちゃうんですよ。
だからリュックと頭を組むのは、
一度完全に冷ましてから。
ここでちゃんと冷やさないと、さっき言った
変形や塗装のはがれが起きてしまいますので。
- ──
- あっという間に組み上がりましたね。
これまでにさまざまなソフビを
組み上げてきたと思うんですけど、
それらと比べてネスはどうでしたか?
- 組み上げ担当スタッフ
- 組みやすかったですよ。
でも組んだときに彩色欠けが起こることもあったので、
その場合は組みながら直したりもしました。
- ──
- 組み上げをしながら修正もしていくんですね。
- 組み上げ担当スタッフ
- はい。私、じつは『MOTHER2』が大好きなんです。
この腕のぷっくり具合を
最初に見たときに「ネスだ!」と思いました。
だからうれしくて(笑)。
- ──
- 職人さんの中にもそんな方がいらっしゃったなんて。
ありがとうございます。これで、全行程が終了ですね。
- 松井
- はい。このあとM1号さんが全商品を検品して、
チェックを通ったものがみなさんの手に届きます。
- ——
- 長い期間、本当にありがとうございました。
最後に、ネスのソフビで
長く遊ぶための秘訣があれば教えてください。
- 松井
- ソフビっていうのはね、
どうしてもいじっているうちに
関節がやわらかくなってきちゃう。
それに、擦れて関節付近の
塗装がはげてきちゃうこともあります。
だから、本当はあまり動かさないほうがいいんだけど、
それじゃ本末転倒でしょ(笑)。
遊ぶときは、腕や脚を少しだけ外側に
ぐっと持ち上げて開くような感じで、
関節部分を浮かせながら回すといいですよ。
そうすると、擦れる部分が少なくなって、
塗装もはげにくくなりますからね。
- ──
- なるほど。アドバイスありがとうございました。
(最後までお読みいただきありがとうございました)
2024-09-25-WED