ネスのソフビ(※)を作るプロジェクトが
スタートしたのは2020年1月のこと。
それから月日が経ち、2024年、
私たちが目指した「ネスのおもちゃの決定版」は、
M1号さん、チャイルド工芸さん、オビツ製作所さんの
3社の協力を得て、ついに完成しました。

その制作の過程、つまりメイキングの一部始終は、
しっかりと記録しておきたい。

そんな強い思いから、
これまでのすべての打ち合わせで
ボイスレコーダーを回していました。
そのため、手元にはたくさんの音声データが残っています。

これは、ネスのソフビの完成後に
あらためて録ったインタビュー記事ではありません。
4年半にわたる制作の記録の中から
とくに重要な箇所だけを抜き出した
制作日記のようなものです。

題して「ネスのソフビができるまで。」。
制作に携わった3社との主要なやり取りの様子を、
当時の空気感とともにお届けしていきます。

※ソフビ:PVC(ポリ塩化ビニル、通称ソフトビニール)を
金型に流し込んで成型する人形の通称。

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第5回 焼いて「抜く」作業。(2023年3月31日 オビツ製作所にて)

M1号の西村さんから受けたアドバイスを
チャイルド工芸の勢村さんにお伝えし、
ソフビで作る「ネスのおもちゃの決定版」の原型が完成しました。
その原型を元に金型を作っていただき、
量産するために東京都葛飾区にあるオビツ製作所へ。
ここに辿り着くまで、とても長い月日がかかりました。
オビツ製作所は、あらゆる成型方法や彩色など、
ソフビ生産のすべてに精通した業界のトップランナー。
お相手は、量産を担当してくださった
オビツ製作所の専務取締役、松井静雄さんと、
成型職人のリーダーを務めているモハメド・ウラ・ワヒドさんです。


プロフィール
オビツ製作所 松井静雄
1966年の創業以来、あらゆるソフビ製品を手掛けてきた
業界のトップランナー・オビツ製作所の専務取締役。
長年の経験から、さまざまな成型方法・生産方法に精通している。
公式サイト:https://obitsu.co.jp/


左:松井静雄さん 右:モハメド・ウラ・ワヒドさん 左:松井静雄さん 右:モハメド・ウラ・ワヒドさん

──
本日はよろしくお願いします。
松井
よろしくお願いします。
もう金型もできましたから、
今日は実際に成型していきますよ。
金型職人さんたちがね、チャイルド工芸さんの原型は
いつもトラブルがないって、ほめていました。
──
そう聞いて、私たちも安心です。

△修正された最終的な原型。姿勢が正され、Tシャツのボーダー柄も入りました。 △修正された最終的な原型。姿勢が正され、Tシャツのボーダー柄も入りました。

△足の裏には、糸井重里が書いた「ネス」の文字。 △足の裏には、糸井重里が書いた「ネス」の文字。

△完成したバットとヨーヨー。
ヨーヨーはうまく手に持たせることができなかったため、製品化を断念することに。 △完成したバットとヨーヨー。 ヨーヨーはうまく手に持たせることができなかったため、製品化を断念することに。

松井
じゃあ、工場のほうに移動しましょうか。
──
はい。
松井
工場に着いて今回やるのは、
スラッシュ成型という成型方法です。
まず、これが金型ですね。

──
パーツごとに分かれているんですね。
それぞれに持ち手がついていて、フライパンみたいです。
松井
これを使って、人形を作っていきますね。
今日はワヒドくんが作業をします。
彼はね、うちの成型職人のリーダー。
──
よろしくお願いします。
ワヒド
よろしくお願いします。
松井
まず最初に、金型に
材料のソフトビニールを注いでいきます。

──
ドロドロしているんですね。
これは常温の状態なんですか?
松井
常温ですよ。金型にこの材料が入ったら、
つぎは遠心機(遠心脱泡機)にかけます。

──
材料が入った金型を機械の真ん中にセットして、
回転させるんですね。
これは、遠心力で金型に材料を行き渡らせる、
ということですか?
松井
というよりは、材料の中にもともと混ざっている
気泡を抜くの。
これをしないと、
ソフビの表面に気泡の痕跡がたくさん残っちゃうんですよ。
でも形状によっては、
これをやっても気泡が抜けない場合もあって、
そのときは別の機械を使います。
でも、今回の場合は大丈夫そうだね。
これが終わったら、ソフビを焼きます。

──
「焼く」と言っても、
液体の中に金型を浸ける作業なんですね。
松井
そうです。これ、200度くらいある油なんですよ。
──
油なんですね。
あ、いまダンボールの紙で金型にフタをしましたけど、
これはなぜですか?
ワヒド
こうすると、早く焼けるんです。
だいたい1分40秒くらいあれば焼けますね。
──
料理をするときの、
鍋のフタみたいな役割なんですね。
ワヒド
そうそう、同じですね(笑)。
松井
焼き上がったら、
余計な材料を金型から落として(捨てて)、
こんどは水に浸けて冷却します。
そうすると、金型の通りの形に
ソフトビニールが固まるんです。

──
なるほど、これが金型の中で
ソフトビニールが固まった状態。
松井
ワヒドくん、いまバットって、
68グラムだっけ?
ワヒド
68グラムです。
松井
こないだ作ったサンプルでは70グラムだったけど、
68グラムでもちょっと重そうだから、
65グラムにしようか?
ワヒド
はい。
──
厳密なんですね。
松井
でもね、これは重さを測りながら
やっているわけじゃないんですよ。
材料は、最初金型の中に入るだけ、
満タンに入れちゃうんです。
それを焼いたあと、
余分な材料を落とす(捨てる)までの時間を
何秒にするかによって、
ソフビの厚みや重さが決まる。
数字はその目安なんです。
たとえば50グラムの場合は、
だいたい30秒くらい、とかね。
──
職人さんが感覚で、
重さを時間に置き換えるんですか?
松井
そう。経過した秒数によって、
何グラムぐらいのソフトビニールが
金型に付いて残るのかが、
職人さんには感覚でわかるんですよ。
でも油の温度が同じでも、
ソフビの温度や室内の気温によって、
やるたびに条件が変わっちゃうんです。
だから職人さんは、
毎日その感覚を掴み直してから
作業を始めるわけ。
──
まさに、職人技ですね。
その感覚というのは、どれくらい熟練すれば
掴めるようになるものなのでしょうか?
ワヒド
人にもよりますけど‥‥
とにかく毎回違う商品が来ますからね。
いろんなパターンでくり返し経験を積んで、
ようやく、という感じですよ。
松井
こればっかりは、経験だね(笑)。
つぎに、ペンチ(やっとこ)を使って
金型から人形を抜きますよ。

──
ああ、これがいわゆる「抜く」という作業。
松井
そう。だからソフビ人形っていうのは、
「抜く」ために、パーツのどこかに
「抜け(空いている箇所)」がないといけないわけです。
──
なるほど、ソフビの関節部分が、
ちょうど「抜け」になっているという。
(抜いたソフビを触って)
あ、この段階ではまだ温かいんですね。
松井
できたては熱々だし、やわらかいね。
冷えたら硬くなって、成型は完了です。
この作業をくり返して、量産していきますからね。
──
ありがとうございました。

(つづきます)

2024-09-24-TUE

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