「ママチャリ」と呼ばれる自転車は、
子育てを助けてくれる、すばらしい乗り物です。
その自転車に「子ども用座席」や
「電動アシスト」がついていれば、
助かり具合は、なおさらといえるでしょう。

でも、
子どもがじぶんの自転車に乗るようになったら‥‥
お母さんは、「わたしだけの自転車」に
乗りかえてもいいのかもしれません。

現役ママチャリユーザーの
編集者の深井佐和子さんと
ママチャリから卒業して間もない、
写真家の中川正子さんをお招きして、
このテーマでの座談会をひらきました。
同じくママチャリ卒業者で
「わたしの自転車。」の発起人、
ほぼ日の(さくら)も参加しています。

子育ての当事者ではない方も、お読みください。
「はじめて自転車に乗れたあの日」を思い出す、
なつかしくてたのしい、おしゃべりの記録です。

この座談会は、tokyobikeとほぼ日のコラボ、
「わたしの自転車。」の発売記念企画です。

>深井佐和子さん

深井佐和子 プロフィール画像

深井佐和子(ふかい さわこ)

フリーランス・編集者。
東京生まれ。
二児の母。
上智大学卒業後、
東京でギャラリーディレクター及び編集者として勤務。
2018年まで5年間ロンドン及びアムステルダムに在住し、
現地の美術館、アートフェア、出版社とともに
アートや編集のプロジェクトを行なってきた。
独立後、現在は東京に拠点を置き、
編集、翻訳、執筆、コーディネートなど。
様々なアート企画に関わっている。

深井佐和子さんのウェブサイトはこちら

>中川正子さん

中川正子 プロフィール画像

中川正子(なかがわ まさこ)

写真家。
神奈川県生まれ。岡山県在住。
一児の母。
大学時代に留学したカリフォルニアで写真と出合う。
美しい光を生かしたポートレートや
ランドスケープ写真を得意とし、
雑誌、広告、アーティスト写真や書籍など
多ジャンルで活動中。
『Rippling』(WONDER FULL LIFE)、
『ダレオド』(BOOK MARUTE/Pilgrim)、
『新世界』(PLANCTON刊)、
『IMMIGRANTS』(Octavus刊)など写真集は多数。
今年、初めてのエッセイ集を発表予定。

中川正子さんのインスタグラムはこちら

>さくら

さくら プロフィール画像

さくら

株式会社ほぼ日・乗組員。
二児の母。
「わたしの自転車。」発起人。
ほぼ日では、主に商品企画を担当している。

後部座席に6歳男子、前の席には2歳男子。
保育園の荷物と、日々の買い物もなかなか重い。
さらに、背中には仕事のリュックが。
これらを運ぶママチャリに乗って、
坂の多い街で暮らしていた。

子どもの成長のタイミングと、
車体+自重で全体が100キロ近くになったころに、
ママチャリ卒業を決意。
じぶんだけの自転車を購入して、現在に至る。

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第2回 無目的の尊さ。

───
中川さんの、
「じぶんの自転車がある生活」について
もうすこしくわしく聞かせてください。
中川
自転車がある生活‥‥。
あの、わたしは仕事柄、
2ヵ月に1回くらい
海外に行く生活をしていたんですね。
それがコロナ禍でできなくなって、
なんだか岡山に閉じ込められたような
気持ちになってしまったんです。
わたし、動いていないとダメなんですよ。

深井
中川さんはきっとそうよね(笑)。
中川
「とにかく動きたい!」
という思いがピークに達したタイミングで、
先ほど話した
夫からの自転車のプレゼントがありました。
それにはじめて乗ったときの
羽が生えたような感覚がほんとうにすごくて‥‥。
「わたしに必要だったのはこれだ」
と思いました。
どこかに行くための「道具」ではなくて、
自転車に乗る「行為」が必要なんだと。
さくら
うんうん。
中川
近所をぐるぐる走ってみると、
岡山に移住して10年も経つのに
知らないものがたくさんあることに気付きました。
「この道通ったことなかったな」とか
「こんな大きいお屋敷があったんだ」とか。
近所を冒険するのに、
すごくピッタリの乗り物なんです。
深井
「近所を冒険」、たのしそう。
中川
あと単純に、風を切るのが気持ちいい。
さくら
そう、疾走感。
中川
というふうに、
わたしの生活にとって自転車は、
「乗る」という行為そのもののために
あるような感じです。
ただただ、乗るのがたのしいんですよ。
さくら
「この無目的の尊さよ」っていう感じ。
中川
無目的の尊さ。まさしくそれです。

さくら
ママチャリには子どもを乗せて移動するという、
大きな目的があったから。
中川
ほんとうに大活躍してくれました。
ママチャリとお別れするときは、
がんばってくれてありがとうねって感じで。
さくら
何度も言いますけど、
感謝、感謝です。感謝のかたまり。
中川
ねー。
そうやって、かつては目的のために
大活躍してくれた道具だったのに、
いまはなんと! なんの用事もないのに、
「ちょっと自転車でも乗ってくるわ」
みたいなことができるんですよ。
さくら
うんうん。
中川
自転車に乗るのに意味なんていらない。
乗りたいときに乗ればいい。
さくら
そう! 
───
‥‥なんだか、
ママチャリに乗ってなかった
男性のぼくまで、
じぶんの自転車がほしくなってきました。
深井さんは、
ふたりの話を聞いていて、どうですか? 
深井
ねぇ、うらやましくなりますよね(笑)。
たのしそうに話すふたりを見ていて、
はじめて自転車に乗れた日のことを
思い出しました。
6歳くらいのころ、
井の頭公園あたりの坂を
ピューっとくだって、
お父さんが途中で手を放して、
「あ、乗れてるっ!」と思った瞬間の感覚を
いまでもはっきりと思い出せるんですよ。

中川
ああ、覚えてる‥‥。 
深井
歩くスピードでもない、
自動車や電車でもない、
その中間の独特な感覚というか。
車輪とつながった足でこいで、
からだぜんたいで風をあびて‥‥。
あれって、そのときだけの、
唯一の体感だと思うんです。
さくら
そうですよね、
きっとみんなそうだったと思います。
中川
ちょっと大げさかもしれないけど、
世界の見え方が変わったような。
───
帰り時間のことを考えないで、
どこまでも走り続けたりしませんでした? 
さくら
しました。
とっぷり日が暮れちゃって親に怒られた(笑)。
中川
ありましたねー。
あれっていま思うと、
自立の第一歩なのかも。
親の手を離れてじぶんの力で遠くまで行く。
深井
そう。
だからいま、ふたりの話を聞いていて、
ママチャリを卒業して
ひとりで自転車に乗ることって、
「第二の自立」なんじゃないかなって。
中川
ああー、たしかに。
さくら
そうなのかもしれない。
家族からの自立。
中川
「わたし」が帰ってくる。
さくら
そっかー、そうですねー。
「わたしの自転車。」っていう名前にして、
やっぱりよかったと、いま感じています。

(つづきます)

2023-05-29-MON

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