ずるい、ひどい、よすぎる、ええーーっ! 
‥‥そんな悲鳴が聞こえてくるのは当然です。
だって、いまどき、どういうわけか、
ロサンゼルスで大谷翔平選手の試合を
観られることになったのです! ほんとごめん! 
もともとは、糸井重里がロサンゼルスに
お住まいの方とSNSを通じて知り合い、
「いらっしゃいませんか?」というお誘いに
応えて渡米することになったわけです。
で、糸井さんひとりで行くのもあれだし‥‥
という非常にぼんやりとした理由で
突然、この超幸運な任務に抜擢された
ラッキークルーが俺、ほぼ日の永田泰大です! 
ごめん、ほんとごめん! でも超うれしい! 
せめて現地で毎日書くよ、レポートを。
どうぞよろしくお願いします。ほんとごめん。

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#05

野球を好きでよかった。

めくるめく、夢のような時間が過ぎて、
ぼくは日本に帰ってきた。
ああ、なんだったんだろう、と、
時差ボケ気味の頭でぼんやり考えている。

ロサンゼルスに行って、
ドジャースタジアムのすごくいい席に座って、
大谷翔平を観てきた。
ドジャースの地区優勝を観てきた。

いやあ、ほんとになんだったんだろう。
自分がいま日本にいるものだから、
数十時間前のことがほんとうに不思議だ。

ひとつ、はっきりしていることがある。
こんな言い方はどうかと思うけど、
何度思い返してみても、やっぱりそうなのだ。

大谷翔平には、リアリティがなかった。
はっきりと現場で、近くで、しっかり観たんだけど、
テレビで観ているときと同じ感じがした。
そう感じる自分が不思議だ。
あんなにしっかり見つめたのに。
同じ空間にいたのに。

たとえばパドレスのタティスJr.は、
近くで観て「うわ、かっこいい!」と感じた。
タティスJr.の太ももはめっちゃ太くて、
ドレッドヘアの編み込みの
ひとつひとつがきらきらしていた。

タティスJr.が打席に入るたび、
ドジャースタジアムの観客たちは
盛大に「Booooo!!」とブーイングし、
現場で聞いてみるとそれは
ある種の賛辞なのだなとわかった。

だから、本場のブーイングを
ぼくも見様見真似でやってみた。
「Boooooo!!」

日本人には、この、憎いんだけど、
どこかに敬意を込めたブーイングは
なかなか難しいだろうなあとぼくは思った。

と、いうような、細かい発見や、
現場に居合わせたからこそわかるような詳細が、
つまり、リアリティが、大谷翔平にはなかった。
あくまでもぼくにとって。
なんでだろう。ずっと考えている。
いたのかな? 大谷翔平? 
ぼくは観たのかな? 大谷翔平を? 

映像として観すぎていたからだろうか。
当たり前のようにヒットを打つからだろうか。
身体的な均整がとれすぎているからだろうか。
いや、ほんとにいたのかな? 大谷翔平? 

日本に帰ると、ニュースになっていたのは
大谷翔平の勝ち越しタイムリーでも3安打でもなく、
優勝決定後にグラウンドで撮影された、
奥さんとデコピンとの記念写真だった。

ああ、ここにはリアリティがある、
とぼくは思った。
現場にぼくはいたのに、
ニュースで観る大谷翔平と奥さんと
デコピンの写真のほうが
大谷翔平のディテールが感じられる。

しかし、そういう考え方の枠をひとまわり大きくすれば、
それこそが大谷翔平なのだということもできるだろう。
大谷翔平のプレイは、近づいても近づいても、
大谷翔平としてのかたちを崩さない。
かっこつけていえば、そういう完全なかたちをしている。
富士山が、どういう距離感から観ても富士山であるように。

そんなことを実感できたのも、
現地で大谷翔平を観たおかげだと思う。
2024年の大谷翔平はリアリティがない、
ということがリアルだった。

こんな人は、もう出てこないだろうなあ、と思う。
記録とか数字だけじゃなくて、
存在のしかたとして。きれいさとして。
ぼくは、そういうふうに、大谷翔平を観た。

最後にもうひとつ、今回の旅を通じて、
しみじみとシンプルに感じたことを書いておく。

それは、野球を好きでよかったなぁ、ということだ。

野球が好きだったおかげで、
ロサンゼルスに来ることができた。
大谷翔平の3安打も、ムーキー・ベッツの
タイムリーも観ることができた。
当たり前だけど、ぼくが
「野球? よくわかりません」という人だったら、
ドジャースタジアムに来ることもなかった。

たぶん、野球に限らない。
なにかを「好き」であることが重要なのだ。
ひょっとしたら、自分がやっていることは
ぜんぶそうなのかもしれないなとも思う。

「好き」がいろいろ連れてくる。
「好き」がさまざまなものをつなげる。
「好き」がいろんなことをどんどん巻き込み、
「好き」がものごとを進める推進力となる。

いやあ、ほんとうに、野球が好きでよかったなあ。
日米ふたつの優勝を目撃し、
またしても、ごめん、という気持ちです。
ばたばたと書き散らかすレポートを
最後まで読んでいただき、
ありがとうございました。

最後に、糸井重里とSNSを通じて知り合い、
今回の重要なセッティングをしてくださった、
アイリーンさん、ほんとうにありがとうございました。

SNSでしか見たことのなかった
アイリーンさんの家の犬たちにかこまれて、
とても幸せそうな糸井の写真を乗せておきます。

いろいろ、ほんとうにありがとうございました! 
それでは、また遊びましょう!

(終わります)

2024-09-29-SUN

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