2024年、ほぼ日の「老いと死」特集
満を持してスタートしました。
そのかたすみで、
ひっそりと生まれた企画がひとつ。
「正直、老いや死のことを、
まだあまりイメージできない」という
2、30代の乗組員が、ざっくばらんに話し合う
「老いと死の歌座談会」です。
おそらく私たちの手に負えるテーマではないけれど、
いま考えていることを、気張らずに話してみます。

‥‥タイトルの「歌う」が気になっている方も
いらっしゃるかもしれません。
よくぞ気づいてくださりました。
そうなんです、座談会の最後は、
毎回のおしゃべりから誕生した歌を
みんなで歌います。
どんな歌が生まれるのか、少しだけ、ご期待ください。
担当は、ほぼ日の20代、松本です。

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第5回〈その5〉闇があってよかった。

菅野
新井さんは、感情が大きく動くことが減って
人生ってこんなものなのかな」
と思うようになったと話していましたが、
悪い状況になって、
それからずっとそのままということはないと
思うんです。
新井
そうなんでしょうか。
菅野
一方でね、いい状況もずっとは続かないです。
松本
その怖さは一生ついてまわるんでしょうね。
菅野
うん。一寸先は闇だと思っています。
松本
そうか‥‥‥‥。
菅野
でも、別に闇が悪いわけじゃなくて、
闇だからおもしろい。
松本
ああー、 なるほど。 
菅野
闇がないと、おもしろくなくないですか? 
私が、30代で「なんだか先が見えてきちゃった」
と悩んでいたときはものすごくいやだったから、
そのあといろんな闇が出てきて、ほんとによかった。
闇ウエルカム! 
全員
笑)
菅野
何があるかわからないほうが、おもしろいです。
松本
昔から、ずっとそう考えていたんですか。
菅野
たぶんそうだったと思います。
ほんとうに深刻な闇が来たときは、
寝たほうがいいと思うけれど。
松本
ほんとうの闇のときは、寝る。
菅野
寝て、一回舞台を暗転させて、世界を変える。
松本
寝ると変わるんですね。
菅野
うん。深刻なときはそうしたほうがいいけど、
元気なときは、闇がないとおもしろくない。
松本
そうかぁ。ちなみに「死」は闇なんでしょうか。
菅野
死は‥‥どうなんでしょうね。
みなさんは死について、ネガティブかポジティブか、
どちらのイメージがありますか。
向江
私は、そんなにネガティブなイメージはないです。
全員に平等なものだから。
菅野
そうですね。
向江
それから、スタッズ・ターケルの書いた
『死について!』という本が好きなんです。
あらゆる職業の人が
死について語るという内容で。
松本
へえ、おもしろそうです。
向江
その本の影響もあって、いままではわりと
フラットに死をとらえていました。
でも、社会人になって、
ある程度生活が安定してくると、
逆に怖くなってきたんです。
松本
へえ。
向江
漠然と死について考えているときが一番怖いです。
想像がつかなすぎて、
無」について考えることと似ている感じです。
きょうみたいに、人と話したりしていると、
少し怖さは軽くなります。
死について!』には、
看護師さんや消防士さんのような、
死を目にすることの多い職業の人の
死生観が載っているので、
読むと少し落ち着くんですよ。
だから、死って、自分ひとりで考えるには、
限度があるものなのかもしれないですね。

菅野
そうだね。限度、あると思う。
千野
死に対して、「恐怖」のイメージが、
僕はあまりなくて。
菅野
ええ、ほんと? 
千野
いつ死ぬかわからない、とは思っているんですが、
死はどうしても遠い印象があるんです。
怖い」とも感じられないくらい。
菅野
新井さんがすごく頷いてます。
全員
笑)
新井
現実味が感じられないんです。
千野
恐怖感はありますか? 
新井
たぶん、いまのところはないです。
そもそも、死ぬことを具体的に考えられなくて。
‥‥ただ、最近飼い始めた猫があくびをして、
歯が見えたときに、
以前見た、亡くなった猫の骨の写真を
思い出したんです。
それで「あ、こいつもいつか死ぬんや」と思って。

松本
ああ‥‥。
新井
そう考えたことがありました。
でも、死を具体的にイメージできるのは
まだ先かなという感じです。
松本
死ぬのがいいことか悪いことかって、
死ぬ瞬間になってもわからないですもんね、きっと。
だけど、新井さんの猫のお話を聞いて、
ひとつ思い出したことがあります。
生きてる意味はない」という話が出ましたよね。
それと同じように
自分に大切なものなんてないんじゃないか」
と思ったできごとがあって、
ショックを受けたときがあったんです。
でも、その時期に友だちがちょっと病気になって。
それがすごく、ものすごく悲しかったんです。

菅野
うん、うん。
松本
不謹慎かもしれないですが、
こんなに悲しいということは、私、
この友だちのことがほんとに大切なんだな、
と気づいて。
そう考えたら「大切なものいっぱいあるな、私」
と思いました。
普段はあまり考えないけれど、
もしこの人がいなくなっちゃったら」
これがなくなっちゃったら」と想像したときに、
その大切さを身に沁みて感じます。
私は、
そういうときに死を実感するかもしれないです。
菅野
うん、それはあるかもね。
松本
‥‥と、そういう話で、1時間経ってしまいました。
そろそろ最後の歌に行きましょう。
菅野
なんだかんだで若者にまじり、
自由に話させてもらったけど、
この座談会、ほかではあまり読めない、
正直なものになったように思えます。
とてもたのしかったです。
松本
私もたのしかったです。
自分の経験が未熟だからだと思いますが、
これまで、老いや死の話題は
タブー視するか、ちょっとふざけるか」の
極端な扱い方しかできない気がしていました。
ですが、座談会をやってみて、これからも、
希望も不安もみんなで話し合っていけたら
いいなと思いました。
では、菅野さん、お願いします。
 
できあがった歌がこちら。

♫老いと死を、語っていたら、
悩み相談になっちゃった
生きるよろこびってなーに? 
生きるよろこびは自己満

終わります。おつきあいいただき、ありがとうございました。)

2024-12-28-SAT

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