話を聞く「場所」は大事です。
会議室なのか、カフェなのか、スタジオなのか。
きっと、その場所に流れる雰囲気によって、
話す内容は変わっていくことでしょう。
ラジオパーソナリティーとして活躍する
クリス智子さんをホストに迎え、
毎回ひと組のゲストをお招きして
インタビューを行います。
その場所は「キッチン」です。

ゲストの方にとっておきのレシピを披露してもらい、
一緒にキッチンに立ち、手を動かしながら、
その料理にまつわる思い出や、最近面白かったこと、
興味があるカルチャーなど、あれやこれやを聞きます。
料理の「レシピ」と、人生を豊かにする「レシピ」を、
勝手に“いただいてしまう”から
この連載企画を『レシピ泥棒』と名付けました。

第1回のゲストは、お弁当やケータリングが人気の
「chioben /チオベン」を主宰する山本千織さん。
以前からお付き合いのあるふたりが、
「春巻き」を作りながら何を話すのか。
会議室では決して聞けない“うまみ”たっぷりの
トーク内容をご覧ください。

ほぼ日の學校で、ご覧いただけます。

 

>クリス智子さん プロフィール

クリス智子(クリス・ともこ)

東京のFMラジオ局 J-WAVEの
ナビゲーターとしての活動を中心に、
MC、ナレーション、トークイベント出演のほか、
エッセイ執筆や朗読、
本の企画・制作など幅広く活動している。
言葉と声の仕事を軸に、
居心地のいい空間や日々の生活のあり方にも関心を持つ。

>山本千織さん プロフィール

山本千織(やまもと・ちおり)

北海道山越郡長万部町に、
5人姉弟の長女として生まれる。
1998年から妹と共に定食屋「ごはんやはるや」を経営。
2009年に上京し、
2011年から代々木上原にある
知り合いのバーを間借りして、
手作り弁当「chioben /チオベン」をスタートさせる。

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3)料理の現場なら、“テトリスの長い棒”が待てる。

山本
さて、すべて揚げ上がりましたね!
クリス
あれこれ包むのが楽しいからたくさんできました。
切ってみます?
山本
そうですね、パン切り包丁だと切りやすいですよ。

クリス
あ、これは何だろう? ローストビーフ?
山本
これはベビーコーンとエビだ。私が巻いた1本ですね。

クリス
“断面萌え”も味わえるからこれまた楽しいですね。
食べながらお話ししましょうか。
千織さんの作るお料理は味にパンチがあると思って、
力強さにマッチするナチュールのワインを
近くの酒屋さんで選んでもらいました。
山本
いいですね。乾杯しましょう。

クリス
乾杯! 今日はありがとうございました。
今回、春巻きのバリエーションの多さに驚きました。
千織さんのレシピ本を見たりして、
その多さは知っていたのですが、
これほどまでにいろいろできるとは。
山本
そうですね。アレンジが効くメニューです。
揚げ物の中でも楽しいのが春巻きですね。
クリス
千織さんと知り合って結構な時間が経つと思うのですが、
「チオベン」が始まってから何年ですか?
山本
2011年スタートなので、15年くらいですかね。
クリス
何だか、もっと長いような気がしますね。
今、スタッフの方は何人いらっしゃるんですか?
山本
総勢8名で、一緒にキッチンに立つのは5人くらいかな。
クリス
チーム戦だ。
お料理が好きということはあると思うのですが、
好きを仕事にするとその意味合いが違ってくる場合が
出てくると思います。
改めて今、お料理を仕事にしていることに対して、
どう思っていますか?
山本
自覚していることとしては、
自分に合っていることをやっているな、と思います。
好きなことをやっているというよりは、
合っていることを仕事にしているイメージです。
クリス
例えば、どんなときにそう思うのですか?
山本
2手3手先が読めるんです。
今これをすれば、この後どうなって、最後はこうなる。
料理に関してはそれがすぐに分かります。
お料理の最中にもお話ししましたけど、
私は美大を出たこともあって、知人に誘われて
こどもの絵画教室の先生をやったことがありました。
そのときはダメなんです。先が分からない。
本当なら、こどもの気持ちを先読みし、
適切なガイドをして待つべきなのですが、
それができないから自分でやっちゃったり、
誘導する言葉をかけてしまったりして
最後は落ち込んじゃう。
クリス
自分でやって教えるほうが早いですよね。
でも確かに絵画教室だと待つのも大事ですね。
山本
一方で定食屋をやっていたときは、
このお客様のオーダーを今準備しておけば、
向こうのお客様のものと一緒に出せるな、
なんてことが分かる。
それで最終的に、すべてがうまくまとまる感じ。
焦ることなく、余裕を持って
“テトリスの長い棒”を待てるイメージです(笑)。
クリス
お弁当の場合だと、いろいろなおかずを前に、
日々その先読みをしないといけないですよね。
山本
そうですね。
それができているから自分に合っているのだと思う。
例えば、「にんにくの芽をどうする」っていう
ひとつの課題に集中して向き合うことも好きですが、
テトリスの長い棒を待つべく広い視野で全体を見ることも
ストレスなくできているような気がします。
私は決して手際が良いほうではありません。
スタッフのほうが、幾分か手際が良いんです。
私は、どちらかというと「理由」を求めがち。
これを作る理由は何だとか、
理由がないならやるべきじゃないとか考えちゃう。
そうやって考える部分も含めて
料理は自分に合っているということかも知れませんが。
クリス
そうですよね、お弁当も、
わたしがやっているラジオもそうですけど
どうしても提供したら流れたり消えていくもの。
“私が今これをやっている理由”を考えるのは
大事な作業かも知れませんね。
山本
今はSNSを見たら「おいしそう!行ってみたい!」と
思えるような料理やレストランの情報って
たくさん入ってくると思うんです。
でも、同じ料理のカテゴリーなのに
「これは私と地続きの世界ではないな」と思うことがある。
一方で、まったく別の分野のことなのに
「すごく分かる!」と共感できるものやこともあります。
だから、私がやりたいと思うことを手がけるよりは
シンパシーがある場所に身を置きたいという想いは
私の中では強いかも知れませんね。

山本
クリスさんも、どちらかというとチームの真ん中に
いる方ですけど、どういう思いがありますか?
クリス
先ほど千織さんが、物事の2手3手先が読めると
おっしゃってましたけど、私も俯瞰して先を読むタイプ。
「自分でこれを言いたい!」という思いは強くありません。
それよりも、この場所に身を置いて、どんな楽しみ方が
できるのかとか、どうしたら目の前にある状況が
良い方向に向かうのかを考えていくのが好きだし、
やっていきたいと思っています。
そう考えたときに、自分の中に地続きのものだったり、
シンパシーが感じられる人がいる環境の中に
いるほうが幸せですよね。
自分の満足度が高くなりますもんね。
山本
今でもたくさん好きなことはありますし、
好きだと思うことを受け入れる姿勢もあるのですが、
好きなものが共通する人と一緒にいるよりも、
私は許せないとか嫌いと思うことにシンパシーを
感じられる人たちの中にいたいんです。
人の悪口や貶めるようなこと、やってはいけないこと、
ネガティブなことが共通している人のほうがいい。
クリス
なるほど。確かにそうかも。
ただ、そのためにはたくさん話し合う必要がありますね。
言葉を交わすうちに、その人の癖がわかったり、
私自身のキャラクターを理解してもらえる。
そのうえで、うまくいくような方法を探れば、
よいもの、よい時間が作り出せると思います。
山本
さっき一緒に料理していてバタバタしたときに
クリスさんが少し乱暴な言葉遣いになった瞬間があって
何だか「この人かわいらしいな」って思いました(笑)。
クリス
あはは、そうでしたか(笑)。
だから千織さんと波長が合うのかも知れませんね。

今回、泥棒した「春巻き」のレシピ

材料:

●春巻きの皮(薄いものがおすすめ)

●米油(他の油でも代用可。

米油は軽く揚がるのでおすすめ)

●冷蔵庫にあるもの

(今回使った具材:タケノコ、アボカド、エビ、イカ、
タイの昆布締め、ローストビーフ、ハーブチキン、
ホワイトアスパラ、生ハム、餅、ひげつきベビーコーン、
大根、にんにくの芽、うるい、バジル、花わさび、
エゴマの葉、菜の花、しらす、ブルーチーズ、
カマンベールチーズ、自家製エビ醬、
ふきのとうを味噌と炒めてブルーチーズを和えたもの、
など)

作り方:

1.

前日の夕食の残り、お弁当に詰めきれなかった具材、
冷蔵庫にあるものを並べる。
春巻きの具材としてどのような組み合わせだと
おいしいか思いを巡らせる
(2〜3種類の組み合わせがおすすめ)。
使いたい素材を包みやすい大きさに切っておく。

2.

春巻きの皮を小さめに切る。

3.

2の上に、1の組み合わせを載せる。

4.

空気がなるべく入らないように巻く。
皮の端に水(分量外)を付けて、具材を皮で包み込む。

5.

4の薄い部分、破れてしまった部分を上にして、
もう1枚の2で2度巻きをする。

6.

2度巻きをしたら間を置かずに
170〜180度くらいの油で揚げていく。

今回、泥棒した「人生を楽しむ」レシピ
●失敗は次への足掛かり。発注ミスも活かし切る。

●仕事に「好き」は大事。「合っている」はもっと大事。

●嫌いが一緒の人とはうまくいく(可能性が高い)。

(おわります)

阿部太一:企画、構成

2026-08-22-SAT

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