4月9日(火)に発売を開始した、
シンクーの「portray me stick」。
6つの透け色は、ディレクターの岡田いずみさんが
かつて巡った美術館で目にした
“肖像画(ポートレイト)”から抽出しました。
幼いころ油絵を習っていたという岡田さんが、
今回つくった6色について、
そして透明感や陰影といった表現について
かねてから対談したいと考えていたのが
写実画家の永瀬武志さんです。
「永瀬さんの画からは、
平面でありながら体温を感じるような血色感、
やわらかな皮膚感覚、
みずみずしい生命感をリアルに感じた」
と岡田さんは言います。
キャンバスの中に生命を吹き込もうと
描き続ける永瀬さんと、
人の魅力を引き出すメーキャップの視点から
色を解釈する岡田さん。
絵画とメイクに共通する要素から、
「人の美しさとは?」という深いお話まで
たっぷりお届けします。
永瀬武志(ながせ・たけし)
画家。
油彩による写実絵画を得意とする。
作品のテーマは光、生命。
2004年3月、多摩美術大学大学院美術研究科絵画専攻修了。
2005年以降、個展やグループ展を多数開催。
2020年、第3回ホキ美術館大賞入選。
2022年、個展「光と人」開催。
2023年、美術雑誌『アートコレクターズ』にて巻頭特集「完売作家2023」に選出。
2025年 11/22~12/7 日本橋「みうらじろうギャラリー」で個展開催予定。
ほぼ日では「ある画家の記録。」で制作過程を紹介。
岡田いずみ(おかだ・いずみ)
大手化粧品メーカーの
ヘアメーキャップアーティストとして、
広告ビジュアル、商品開発、
コレクションなどに携わったのち、
2005年よりフリーランスに。
広告や音楽、美容誌のビジュアルなど幅広く活躍。
2011年に上梓した著書
『まいにちキレイをつくる手帖』では、
ヘアメイクにとどまらず、
構成・文章・イラストなどをすべて手がけ、
そのほか、広告ビジュアルのクリエイティブディレクター、
動画監修、バッグブランド『MAY TWELVE』の
ディレクターをつとめるなど、
新たなフィールドでも活動の場を広げている。
※美容師資格、化粧品検定1級
- 岡田
- 永瀬さん、今日はとてもたのしみに参りました。
どうぞよろしくお願いいたします。
- 永瀬
- こちらこそよろしくお願いします。
こんな機会、めったにないものですから、
緊張しています。
- 岡田
- 私もです。
実はずっとお話したいなと思っていました。
かなり前に「美人画」について
いろいろと調べていたことがあって。
というのも、価値観が多様化してきて、
白い肌をよしとする「美白」というような言葉が
だんだんと使えなくなったりする中で、
「これからの美しさって、
美人の定義って何だろう?」
みたいなことを考えていたんです。
そのときにはじめて永瀬さんの絵に出会いました。
- 永瀬
- そうだったんですね。
見てくださってうれしいです。
- 岡田
- 私はメイクという仕事をしていて、
肌はその人を一番雄弁に語ると思っているんですが、
永瀬さんの絵の中の肌には、目が釘付けになりました。
今日はその魅力的な「表現」についての
お話を伺えたらと思います。
- 永瀬
- ありがとうございます。
メイクのことはわからないので、
ちゃんと言語化できるかどうか。
- 岡田
- 絵画とメイクとの共通点はあると思うので、
きっと大丈夫ですよ。
まず最初にお聞きしたかったんですが、
永瀬さんにとって、肌色って何色ですか?
- 永瀬
- 肌色‥‥うーん。
すごく複雑で、一色では言えない感じです。
強いて言えば、赤かなぁ。
赤が、一番出していきたい色ではありますね。
でも、肌は透明度があるものだと思っています。
僕の絵でも実際に、
絵の具の層が薄い膜のように重なっているんです。
- 岡田
- 私もまさにそう思います。
肌の構造を顕微鏡レベルで見ると、
本当に何層にも重なっているんですよ。
しかもその細胞一つ一つが水分を含んでいる状態だと
透明感が増すのですが、
乾燥してしぼんでしまったり
細胞がダメージを受けると、
光を遮ることでくすんで見えたりします。
だから肌って実は一色ではなくて、
色の層になっているんですけど、
永瀬さんはこのことを技法として
実践されていることになりますね。
- 永瀬
- 薄い色の層を重ねていくという描き方は、
「グレーズ技法」といって
古典的な写実絵画の技法として存在するものなんです。
僕の場合はそこに現代の画材を掛け合わせたり、
工程をアレンジしたりして、
自分の中でも毎回挑戦を繰り返しています。
- 岡田
- 作業工程がすごく多そうですが、
詳しく聞かせていただけますか?
- 永瀬
- はい。
まず下描きですが、最初に白いキャンバスに
薄く茶色を塗っておきます。
これは、後のほうで頬などの立体感を出すために
ハイライトとして白い絵の具を盛り上げるように
描いていくんですけど、
白地に白を塗ってもあまり目立ってこないので、
一度全体のトーンを落としておくためです。
- 永瀬
- ここに鉛筆で下描きをするんですが、
鉛筆だけではグラデーションが出ないので、
セピア色のエアブラシで
筆の前の下描きの段階でもトーンを作っておきます。
- 岡田
- 肌の色のためだけではなくて、
立体感や透明感を出すために
一度トーンを下げるということですね。
- 永瀬
- そのとおりです。
そしてこの次の下描きの工程が、
コントラストをつくる作業です。
古典技法では「グリザイユ」と呼ばれる画法で、
先ほどの茶色の下描きの上に
モノトーンで光と影を描いて、立体感をつくります。
- 岡田
- この2枚の下描きは、
一方は穏やかな影、
もう一方は強烈なコントラストですよね。
この差はどんなふうに変化していくことを望んで
描かれているんでしょう?
- 永瀬
- 下描きのあとは
いよいよ絵の具をのせる工程に入るわけですが、
赤い絵の具なんかを分厚く塗ると、
下描きの淡いトーンはつぶれがちになります。
ですから、最初に最も強いコントラストを作っておいて、
徐々にその中間の色を重ねて仕上げていく
ということをしています。
- 岡田
- なるほど。
平面に立体を感じさせるためには、
これくらいの強さが必要ということですね。
- 永瀬
- ええ。
メイクの場合は人間に対して施されるので、
骨格という立体も皮膚の色も既にあると思うんですけど、
平面である絵の場合は
その前からつくるというイメージで、
最初はかなり強めにコントラストを作ります。
まずは“塊感”を出してるという感じですかね。
- 岡田
- よくわかります。
メイクの場合は順序はいろいろですが、
最初に立体感を出しすぎると
ニュアンスが失われてしまうので、
まずは穏やかな影であたりをつけてから
血色や光を足して、
そのあと濃い影で微調整をすることが多いです。
- 永瀬
- 順序は違いますが、
目指すものは似ているかもしれません。
僕もコントラストが強いままだと、
立体感は出ても表現にはならない気がして。
1枚の絵として魅力があるもの、
人が喜んでくれて、自分も満足できるという意味では、
最終的には穏やかな表現にたどり着きたい
と思っています。
ただ、最初からそれを目指すと
構造が足りないような、
ふにゃふにゃしたものになるので、
下描きで強めに描いているという感じですかね。
- 岡田
- やっぱり、目指そうとする表現の方向は
似ていますね。
穏やかな要素こそ、
すごく大切な気がしています。
(つづきます)
2024-04-10-WED