──

『クレヨン王国』のお仕事はどんなきっかけで
始めたんですか？

三木

講談社の編集者で
大平洋（おおひらひろし）さんという方がいて、
その方が声をかけてくれたんです。
太平洋みたいなお名前の、
有名な児童書の編集者さんでした。

大学のときに、
講談社とおつき合いのある編集プロダクションで
百科事典の制作のアルバイトをしていたんです。
大平さんが、わたしの卒業制作かなにかを見て、
その編集プロダクションに来られたんですよ。
それで児童書の挿絵をやってみない？
って言われました。
それが青い鳥文庫の『クレヨン王国』のことだったんです。

その方が長い間担当として
アドバイスをくださることになって、
わたしにとっては心強い味方でした。
大平さんのおかげで30年も挿絵を描いてこられたと
思っているんです。

──

『クレヨン王国』の挿絵をやってみない？　って。

三木

そうそう、一冊やってみない？って。

──

学生に一冊やってみないっていうのは
めずらしいことでしょうね。

三木

そのときは、たぶんシリーズ化するなんて
思ってもみなかったんですよ、きっと。

──

その卒業制作はどういった作品だったんですか？

三木

A１ぐらいの絵をイラストかな７、８枚ぐらい並べて。
リキテックスとかドクターマーチンとかの
インクを使って描いたんです。
大学の時の卒業制作だったかな？
大学院のほうだったかも？

──

藝大の展示をご覧になって来られたんですか？

三木

うん、それははっきり聞かなかったですけど、
どうだったかなあ？
わたしね、ほんとうに忘れるんですよ。
年代とか数字は特に。
間違ってたらごめんなさい。

アトリエに大切に飾られていた卒業制作の一つ

──

ここは想像になってしまいますけど、
その編集者の大平さんが仕事につながる
原石を探しにきて、
三木さんを発掘したっていうことでしょうか。

三木

わぉ、その表現いいですね！　
でも磨けば光るダイヤモンドかと思って
磨いてみたけど、やっぱり河原の小石だったって
思われたかもしれないですね。

大平さんは初めてお会いしたとき
月光仮面のようなメガネをかけてらしたんです。
月光仮面って知ってます？
メガネのフレームが黒縁ではなくて、
白くて太いメガネだったんですよ。
個性的でびっくりしたの。

──

あまり月光仮面のような方っていないですよね。
性格は温厚な方だったのですか？

三木

温厚だけど、
わたしみたいにのんびりしているわけじゃなくて、
編集者だから行動的で積極的で、
生き生きと動いている人でしたね。
アドバイスは的確でしたし。

──

絵画とかデザインにも
かなり造詣が深かったから
三木さんにアドバイスもできたんでしょうね。

三木

そうですよね、
わたしが20代のときに30代ぐらいだったかな。

わたしが途中で結婚しちゃったから、
「結婚するのが早い！」って言われましたね。

──

結婚せずに、
もっと絵の仕事をしてほしかったということですかね。

三木

そうかも。
早いというのは他の人にも言われましたし、
まだ形になってないのにということだったかと。
とくにわたしが若い時代は、
結婚したら家事は女の人がやるものだったので、
仕事に集中するのは難しかったですね。
時間がいろんなことに取られるし‥‥
でも、しちゃったものは仕方ないし。

──

そのときは、昼は勤めていた会社のデザイン室に行き、
帰宅してから家事、
夜に『クレヨン王国』の挿絵を描いていたんですよね。

三木

そうです、
『クレヨン王国』だけじゃないですよ、いろいろな絵を。

『クレヨン王国新十二か月の旅』の原画をしみじみと‥‥

──

大学院を卒業したのが24歳くらいだとすると
ご結婚されたのは何歳くらいのときだったんですか？

三木

24歳かな。

──

じゃあ、大学院を卒業してすぐにご結婚されたんですね。
大平さんから声をかけられて、
挿絵の仕事をはじめてわりとすぐに。

三木

それがね、どんな順番かあまり覚えていないんですよ。
若かったので、なんていうのかな‥‥
なんの考えもなく流れのまま。
計画性がなかったので、どんどん大変になっていったんです。

──

三木さんにとって大平さんは絵本の仕事を
はじめたキーマンなんですね。

三木

そうですね。そのあとクレヨン王国の仕事を
約30年していく中で、
担当の方は何人も替わったけれど、
大平さんは一番印象的。

──

福永さん、三木さん、大平さんの出会いが
あったからこそ、素敵な作品が生まれて、
それを読者として触れることができたと思うと、
とても感慨深いです。

三木

本当ですね。
なんだか運命的な感じがします。
わたしもこうして取材というかたちでお話をしていって、
振り返ってみるとなんという幸運だったかと感慨深いです。