ほぼ日でデザイナーをしている土屋が
子どもの頃に、表紙の絵に惹かれて
夢中で読んでいた本は
挿絵画家・三木由記子さんが描いたものでした。
その頃から、何十年も時が経って、
あの絵を描いていた三木さんにお会いしたい、
お会いしてどんな気持ちで描いていたかを知りたい、
という思いからスタートした、このインタビュー。
2024年の初夏、土屋が三木さんの仕事場に伺い、
じっくりお話を聞きました。
文章の担当はほぼ日のかごしまです。

>三木由記子さんのプロフィール

三木由記子 プロフィール画像

三木由記子(みきゆきこ)

1952年広島生まれ。
東京芸術大学美術学部工芸科卒業。
デザイン会社勤務を経て、1978年に独立。
児童図書の仕事に専念する。

福永令三氏の青い鳥文庫「クレヨン王国」シリーズの装画を手がけるほか、「魔法のベッド」、「アンデルセン童話集」(講談社)、絵本に「宮沢賢治どうわえほん3・6」、「詩画集・クレヨン王国ファンタジーランド」(いずれも講談社)などがある。1992年から2000年まで光村図書の小学校6年生の国語の教科書に掲載された作品「赤い実はじけた」(名木田恵子・作)の挿絵も担当した。

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第3回

──
『クレヨン王国』の絵の仕事は
どんなやり方だったんですか? 
福永さんから原稿が届いて、
それに基づいて絵を描くという流れですか?
三木
福永さんは手書きの原稿を書いて、
それを講談社の担当者に渡して、編集、校正して
決定稿をプリントします。
わたしはそのプリントされた原稿を
担当者さんからもらいます。
だから、福永さんと直接のやりとりはほとんどなくて。
イベントや会合ではお会いするけれど、
仕事の過程で直にお会いすることはなかったです。
意外と思われるでしょうが、
二人で面と向かって熱く論じ合う
ようなことは一度もありませんでした。
福永さんは絵について
特に注文などされませんでした。
いつも静かに微笑んでおられて優しい方という印象。
それでも、わたしなりに福永さんの内に秘められた
児童文学への情熱は感じ取っていました。
クレヨン王国の絵に福永さんには
よく登場してもらっています。
王様は福永さんですし、
クレヨンたちに囲まれてお話をしている人物も
モデルは福永さんなので、
本の中でいつもお会いしているような感覚でした。

──
じゃあ編集者の方から
細かいオーダーはあったんですか?
この場面を描いてほしいとか。
三木
あまりなかったですね。
──
そのあたりは一任されていたんですね。
三木
編集者さんもどこの場面とは
あまり言われなかったですね。
というのは、原稿の文章の間に空白があるんですよ。
ここのページが空白だから、
このあたりの場面を描いてね、という感じで、
挿絵を入れる場所は指定されているんです。
──
となると、必然的にその前後のシーンから描くものを
選んでいくっていう流れってことですね。
ここのシーンが描きたいというよりは、
ここが空いているからこの流れで
この絵にしようみたいな。
三木
そう、だいたい。選んでくれているところも、
ハイライトなところを選んでくれているので。
──
空白に編集者さんの意図が反映されているんですね。
三木
ここに描いたら面白いなという場所を
開けてくれているので、
あえて反対することもなく描いていました。
──
そこからはわりと自由に描かれていたわけですよね。
三木
はい、そうです。
絵の内容の注文はなかったです。
ほったらかしというわけではなかった
とは思うんですが‥‥
──
描き直しもあんまりなかったんですか?
三木
ないです、ほぼほぼ。
──
クレヨン王国の挿絵って
年代によって絵のタッチが変わっていると思うんです。
三木
そうでしょう、絵が違ってくるんです。
描き方が変わっても、出版社や福永さんからは
何も言われませんでした。
好きに描かせてもらってましたね。
振り返ると文句を言われてもいいですよね。
前の絵と違うじゃないですかって。
──
ファンタジーのお話っていうのもあると思うのですが‥‥
きれいだけど、ちょっと不思議な絵も多かったですね。
イラストの変化も、楽しんで読んでいました。
そこも含めて、魅力的に感じたのかもしれません。
子ども心に素敵な絵だなと思っていました。
三木
そうですか。うれしいです。
わたしも今回並べて見てみたら、
我ながらいろいろな描き方をしてきたなあと。
最初の頃はね、絵本の挿絵はこういうふうに描くんだ
という思い込みがあって、
典型的な描き方をしたりしてました。
子供の絵なんだからほんわり可愛く描こうって。
だんだん自由に描いていいんだなって思ってきて、
デザイン的な要素が強くなってきました。
デザイナーの発想だと思うような絵もたくさんあって。
──
ちなみに「デザイナーの絵」というのは
どんなところですか?
三木
うーん、そうですね、
直接的なものを描くとただの説明の絵になってしまうので、
ちょっと離れるか、
あるいはお話にはないものを入れたり。
ん~子供の目になって考えることが効果的かもしれません。
一番大切なポイントは何かと。
子供の絵のように、無駄なく的確に表現することが
デザインと言えるかしら!?
感覚的なことなのでうまく言えません‥‥。
──
確かに。
そのほうが読者の想像を
膨らませてくれるんでしょうね。
三木
例えばこれとか。
これはシリーズの最後のほうの作品で
『ナイショでヒミツのクレヨン王国』の絵ですが、
タンポポ1本ずつ実写みたいに描いても
つまらないので、工夫しました。
──
なるほど。
タンポポをグラフィカルに、
パターンのように描かれていますね。

エッセイ集『ナイショでヒミツのクレヨン王国』の表紙絵 エッセイ集『ナイショでヒミツのクレヨン王国』の表紙絵

三木
そういえば、編集者の大平さんに、
「あなたのこういう描き方の絵は、
これからあなたの魅力になる」って
言われたことがあるんです。
──
それはどういうところですか?
三木
カットみたいなものを描くときに、
絵の具をランダムに塗って、
その上にペンやクレヨンで描いてみることを
いいと思ってやっていたんですけど、
それを見て
「これいいよ、絶対いけるから」って言われました。
──
それは三木さんのオリジナルの描き方ですか?
三木
うん、まあどうでしょう?
それはわかりませんが、
わたしもそれが楽しいと思ってやっていたんです。
国語の教科書に掲載された初恋を描いた作品
『赤い実はじけた』の絵も
ほんのちょっとだけ近いように思います。
色鉛筆でちょっと変わった描き方に目覚めたころで、
カラフルな色鉛筆の線で
絵画的に表現するというのにはまっていました。
──
このミックスされた色とか、おしゃれですね。
三木
そう、色鉛筆の効果というか、色鉛筆が面白いなと思って。
あと、水彩画でも似たようなことができるので、
水彩で同じように描いていましたね。

──
若干ズレみたいなのができて。
三木
そうそう、で、わざとずらすみたいな。
この絵の描き方は
自分で言葉にしたことが一度もなかった。
──
感覚で描いていらっしゃったんですかね。
三木さんの絵は、
静的というよりは動的なイメージがあるので、
ちょっとずらしているところが、
絵がいまにも動きだしそうな感覚に
なるのかもしれないですね。
三木
なるほど、そうかも。
そういう効果はありそうですね。
きっちり描くよりも、
自由な感じがするフリーハンドで描くのが好きなので。
でも、そういう変化を
福永さんはとがめることもなく受け入れてくださって、
心の大きな方だと思っていました。
──
想像ですけど、きっと、福永さんの考えと
三木さんの作り出すものは
重なっている部分が
いっぱいあったのだろうって思いますね。
三木
そうであってほしいですね、いまからではお聞きできないけど。
でも、とにかく自由に遊ばせてもらったのは確かですね。
──
『クレヨン王国』シリーズは30年も、続いたんですよね。
三木
全部で40、50冊ぐらいあるんですよ。
青い鳥文庫は48冊かな。
その間に『クレヨン王国 12カ月おくりもの』とか
『クレヨン王国 ようこそ ゆうれいひめ』の
クレヨン王国の絵本が出たりしていましたね。
──
どんどんお仕事が来るという状態だったんですか?
三木
そうじゃないです。
わたしは描くのが遅くて、
締め切りを待ってもらうこともしばしば。
わたしは描くときものすごく入り込むんですよ。
もっと早く描ければ良かったんですけど。
‥‥人には、心の中に聖域みたいなものが
あるんじゃないでしょうか?
お城とか、洞窟とか、単に部屋とか。 
わたしには森です。
森があってそこに入っていくんです。
最初は楽しいんですよ。
でも、深く深くどんどん入っていって。
いくら行ってもその聖域までいけないこともあるんですが、
そこまでたどり着いたら、
やがて集中できて絵が進んでいくんです。
例えば会社にいながら絵を描くようなことは、
絶対できなかったですね。
1人きりで、
寝食忘れるみたいな状態でしか描けないんです。
結婚していたんですけど、集中できなくて
他に部屋を借りて描いたことがありましたね。
深い深い森。
楽しくもあり、苦しくもあり。

──
それは、そのラフの段階というよりは、
もう何を描くか決めた後の集中なんですか。
三木
そうそう。本格的に描くとき。
ラフを考えているときは楽しいんですよ。
本格的に描きだすと苦しくなってきますね。
締め切りは何回も待ってもらいました。
編集の大平さんに「すいません」って頼んで。
──
その感覚はわからなくはないです。
小さな子がいるなかで集中するのは大変ですね。
三木
すべて忘れて集中しないとだめでした。
──
お子さんが小さいときは、
ご主人とかにお子さん見てもらったんですか?
三木
主人は主人で宝石の学校で教えながら
自分のジュエリーの創作をしていたし、
ほとんど自宅にいる私の役割だと思ってました。
だからどっち取らずみたいな、
絵にも子どもにも悪かったなあと反省してます。
反省してももう遅いですよね。
──
絵を描くっていうことは、
三木さんの中では特別なんでしょうね。
デザインももちろん楽しいし広がりはあるけれども、
絵っていうのは特別な何かがあったんですよね。
三木
そうですね。
小学生のころは漫画家いいなって思っていたし、
中学では絵本いいなと、
高校のときに美術部で、絵描きもいいかもって。
まわりの友人たちが藝大を受けるって言うから、
わたしも油絵とかも描いてたし
絵が好きだから受けてみようかなって、
それであまり考えないで、受験して
デザイン科に受かってこんどはデザイナーもいいなって。
ただ、今ではわたしにとっては
「絵」と「デザイン」は分けるものではなく
ほとんど同義語になっているみたいです。

(つづきます)

2024-10-30-WED

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  • クレヨン王国ワールド2024展示会開催のお知らせ

    「クレヨン王国ワールド2024展示会」にて

    三木さんの原画が見られます!

    『熱海芸術祭』にて“クレヨン王国ワールド2024展示会”が開催されます。中国での刊行を記念して中国語版原本や表紙絵、挿絵の原画、アニメ「夢のクレヨン王国」関連グッズなどの資料を展示します。

    クレヨン王国ワールド2024展示会
    日 時  2024年11月13日(水)〜 25日(月)*火曜休催
    会 場 熱海の癒 新かどや 熱海市小嵐町 14-8
    入場料 100円(未就学児無料)