|
糸井 |
中沢くんが
『チベットのモーツァルト』
のころからやってきたことは、
やっぱり
無意識の伝承の歴史が、
「体」で知ることができる、
ということなんだよね?
|
中沢 |
チベットのは、
旧石器時代からの記憶だから。
インドのヨガのやりかたは
ものすごく古いですよ。
洞窟時代までは確実にいく。
それだけ古いの。
ぼくも最初からは
わかっていなかったんですが、
あそこに飛びこんでいったのは、
勘があたっていたと思うんです。
チベットで見たり
チベット人から実際に習うと、
想像や常識を超えるぐらいに
すごく古かったですね。
考古学を勉強しはじめるようになると、
旧石器時代の人がラスコーの洞窟とか
アルタミラの洞窟の中で
絵を描きながら
何をやっていたかの研究が出はじめて、
「あ、チベットでやっている
あれの時代はここなんだな」
とわかるようになったんです。
|
糸井 |
宗教という名前なんてない時代ですね。
|
中沢 |
宗教なんていう
ものではないですよね。
宗教というのは
国家ができてからものだから、
それまでのものは宗教ではない。
ただ、
人間を超えているものが
人間の中にあるらしいというのは
すでにわかっているのね。
人間を超えたものを見るために
いろんなことをやるわけですよ。
それを表現すると、絵になったりして、
インドならそれがヨガになったりしてたので。
だから、吉本さんが
アフリカ的段階というのを書いているのを
読んだとき、あぁ、正確なことを
つかんでいるなぁと思ったんです。
|
糸井 |
中沢くんが
ネイティブアメリカンのことを
書きだすのはいつぐらいのころ?
|
中沢 |
ずいぶんあとですね。
南アメリカ神話と
北アメリカ神話は
だいたいおなじ神話のバリエーションで、
何万という変形のようだと言われてるんですね。
ルーツはふたつあるでしょうと。
ひとつはバイカル湖。
もうひとつは
直接アメリカに渡ったんだけど
インドネシアなんです。
インドネシアの神話に
そっくりなんですよね。
これが不思議なんです。
また、インドネシア神話に
いちばんよく似てる神話は、
日本の神武天皇の
おじいさんぐらいまでの神話。
どうやら環太平洋神話は
みんなおなじで、
ただ、発生源がふたつあるらしいと。
『熊から王へ』の
神話のもとになっているのは
アメリカ大陸の
バンクーバーのあたりで、
そこにいた連中は
六〇〇〇年ぐらい前に渡ったらしいんですね。
もうベーリング海峡は溶けてしまってるから、
船でアリューシャン列島沿いにいっていて……
つまり北海道と樺太からいったというわけだけど。
実際、文化、そっくりなんです。
アメリカインディアン神話そのものは
もっと古いものなんですよね。
一万年前ぐらいのとき、
ベーリング海峡が凍っている時に渡っているんですね。
|
糸井 |
インドネシアから
人はどうやって渡ってきたの?
|
中沢 |
インドネシアからは島づたいですね。
一万年前ぐらいに
鹿児島にきているんですけど……。
|
糸井 |
あ、それ、きいたことがある!
インドネシア側から
鹿児島に来る人たちは、
ものすごい失敗の歴史なんだよね。
むずかしい航海らしいんです。
|
中沢 |
そうそうそう。
フィリピンからね。
当時、
南の島はひとつだったんです。
ボルネオから
すべてひとつの島だったのね。
ところが、
日本の縄文地図に
海水が入りこんでいる時期、
あるじゃない。
その時に
沈んじゃったんですよね。
|
糸井 |
うん。
日本人はどこから来たか、
という
NHKのドキュメンタリーが
そのへんのことを取りあげていて
すごくいいんだよね。
シベリアに渡って
マンモスを食いながらの人が
日本に来たりするんですよね。
ヨーロッパからきた人と、
フィリピンからきた人が、
日本で合流するんですよ。
|
中沢 |
うん。
|
糸井 |
縄文の人たちというのは
基本的には北からきた人ですよね?
|
中沢 |
うん。
ただ、縄文土器は
どうも南からみたいです。
鹿児島の土器が
圧倒的に古いみたいです。
|
糸井 |
ということは、
さんざん失敗した連中が持ってきたの?
|
中沢 |
そうみたい。
おもしろいよねえ。
四〇〇〇年ぐらい前。
……なんてことを考えていると、
吉本隆明さんが、かつて
いろいろ言わんとしていたことが
ほんとに、肉づけできるんだよね。
(次回に、つづきます) |