今年『ナイン』は大当たりする! 去年は知らなかったくせに、応援します。 |
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 第三回 『ナイン』の稽古が始まった! ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
さあ、大阪公演初日まで4週間。 稽古場に演出家デヴィッド・ルヴォーが合流し、 いよいよ本格的な稽古の始まりです。 ブロードウェイのオリジナル演出家本人が、 日本版の稽古に何週間もかけること自体、 じつは、ほとんど例のない貴重なことです。 (デヴィッドはもともとtptの芸術監督なので、 ぼくたちはついついこのことを忘れがちなんですが。) しかも、オリジナルヴァージョンにこだわらず、 俳優の個性をどんどん取り入れて、 新しくつくり直していくなんて‥‥ さっそく稽古初日。 レポーターたちが、妻ルイザにマイクを突きつけ、 夫グイドの女性関係を追及する場面──。 稽古を止めて、デヴィッドが言います。 「レポーターたちって、 そんなに行儀よく仕事をしてないと思うんだ」 そして、いたずらっぽく、 レポーター役のひとり、宮さんに近づいて。 「ミヤ、きょうはガム噛んでないの?」 そうそう、たしかに彼女は、 ウォーミングアップ中もガムを噛んでいます。 「噛んでていいよ、いつもどおりに」 デヴィッドにそう言われ、口にガムを放り込む宮さん。 稽古再開。すると──、 たしかに意地悪そうで生き生きとした、 放送局の芸能レポーターが! 稽古場のいたるところで湧きでてくる、 ウフフという柔らかな笑い声。 デヴィッドが魔法をかけ始めたように見えます。 去年の秋もそうでした。 稽古開始から2日目のこと、 リナ役を演じる高塚さんを見たデヴィッドは、 彼女の重要な小道具であるピストルを、 「ピンク色」にしようと言い出しました。 「リナの持ち物は絶対ピンクだと思う」って。 なにを隠そう高塚さんのテーマカラーは、 本人の「大好きな色!」という声を待つまでもなく、 お姿を拝見すれば一目瞭然“ピンク”です。 そうして日本版『ナイン』限定の、 リナの「ピンクのピストル」が生まれました。
けれど、ちゃんと演出上の狙いだったことが、 本番になってわかったのです。遅ればせながら。 モノトーンを基調とした衣装やセットのなかで、 ピンク色はじつに効果的に使われていくのです。 そしてもちろん、高塚さんに抜群に似合って。 画期的なことが次々と、じつにさりげなく、 あたりまえのように起きていきます。 デヴィッドの、いえ、この稽古場の、 なにより素敵なところです。 こういう稽古ができる理由は、 演出家や俳優たちの力量以外にも、 tptが大切にしてきた、ある前提があるからです。 (この話はまたあらためてしますね。)
デヴィッド・ルヴォーはtptの芸術監督です。 門井プロデューサーと一緒にtptを立ち上げて11年。 数々の現代劇を演出し、日本のスタッフに影響を与え、 とくに女優の魅力を最大限に引き出してきました。 デヴィッドは、「女性」をテーマにした作品に、 真骨頂をみせてくれました。 tptで演出しはじめて間もないうちに、 もしかするとそれよりもっと前から、 デヴィッドは『ナイン』を手がけることを、 決めていたようです。 1996年、ロンドンで、 デヴィッドの『ナイン』は初演となります。 それが今もなお色あせずにいるのは、すごいことです。 ああ、色あせないというのは、 少し違うかもしれません。 『ナイン THE MUSICAL』の魅力は、 演じる女性の文化や個性によって、 作品が変わっていくことにあるんだと思います。 ロンドン、ブエノスアイレス、ブロードウェイ、東京と、 世界を旅してきた『ナイン THE MUSICAL』。 それぞれの都市に生きる女性たちが、 自分の文化に自信をもって演じることで、 客席にいる女性たちへ“勇気”を届けてきました。 いろんな国の女優をみてきた感想を、 デヴィッドにたずねるとこんな言葉が返ってきました。 「『ナイン』をつくるときいつも感じるのは、 ダイヤモンドをゆっくり回転させて、 カット面に反射するいろんなきらめきを ながめているような気持ちなんだ」って。 2003年、ブロードウェイ版『ナイン THE MUSICAL』は、 カルラ役のジェーン・クラコフスキーが、 ブロードウェイのアカデミー賞と言われるトニー賞の、 助演女優賞を受賞しました。 彼女はTVドラマ『アリーmyラブ』に出ていた人です。 ぼくは授賞式のスピーチをビデオで観ました。 彼女は胸を張ってこう言ったのです。 「みんな、デヴィッド・ルヴォーと仕事をしてみて。 絶対にトクするから!」 女優にそこまで言わせてしまう演出家って‥‥ でも、たしかにそうなんです。きっと。 このミュージカルは、デヴィッドに演出されるのを、 いつも待っている宝石のような、そんな作品です。
(あすに、つづきます!)
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2005-04-18-MON
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