Sponsored by Nintendo.

3ふたつの「Mii」

糸井
さて、『Miitomo』の話に移りますが、
まずは環境が大きく違いますよね。
専用のゲーム機ではないもので
ゲームを動かすということが、
任天堂にとっては、
ほぼはじめてのことだと思うんですけど、
そのチームをどういうものにして、
誰を参加させるか、
というようなことについては、
おそらく、岩田さんのいたころから
はじまっていましたよね。
坂本
そうですね。
スマートデバイス向けのソフトを
開発するという動き自体は
ずっと前から立ち上がっていました。
そこに『トモダチコレクション』チームから
ぼくとディレクターが呼ばれました。
メンバーに関しては岩田と
高橋(伸也、企画制作本部長)とで、
つねに話し合っていたと思います。
糸井
坂本さんが呼ばれたのは、いつごろですか?
坂本
2年くらい前ですかね。
糸井
そのころって、世の中の人たちは
「任天堂はどうして
スマホのゲームをつくらないんだ?」

とひっきりなしに言ってましたよね。
「なにもやらないと
決めているわけではありません」

というふうに岩田さんが答えていた時期には
当然、研究はしていたわけですよね。
坂本
そうですね。
糸井
その研究のチームに、
坂本さんはいたわけですね。
坂本
研究のチームが、ある程度、
アイディアを形にしはじめたころに合流した、
という感じですね。
ちょうどそのころ、ぼくは、
『トモダチコレクション』のディレクターと
「Mii」を使ったコミュニケーションに
なにか新たな可能性がないか考えていたんです。
具体的には、
『いつの間に交換日記』のような、
子どもたちがたのしく使える通信のようなものが
3DSでできたらいいなあと思っていました。
それを周囲に見せていたので、
チームに加わることになったんでしょうね。
糸井
これまでの任天堂って、
基本的には、子どもが遊ばないものを
つくったことはないと思うんです。
子ども向けのゲームというわけではなくて、
大人も子どもも遊べるものをつくっていた。
ところが、スマホというものは、
基本的には小学生が持っているものではない。
その発想の転換については、
なにか話し合いがありましたか?
坂本
「Mii」を介したコミュニケーションの
可能性を探るなかで、「Mii」なら、
プラットフォームの垣根を超えて
どこへ行っても活躍できるんじゃないか、
それならばスマートデバイスでやってみよう、
ということは話していました。
おっしゃったように、スマホ用となることで
子どもたちは対象から
少しずれてしまうかもしれないけれど、
これまで以上に広い場所で
できることがあるんじゃないか、
という流れになったんですね。
糸井
ああ、なるほど。
坂本
たとえば、
『トモダチコレクション』の「Mii」は、
3DSのなかで自由に振る舞っていたけれど、
スマートフォンではもっと違うことが
できるんじゃないかと。
つまり、「Mii」って、
「場所を選ばない」という可能性がある。
糸井
そうか。
「Mii」そのものがコンテンツの核なんですね。
坂本
そうなんです。
糸井
「Wii」と「Mii」って、
「We」と「Me」と韻をふんで登場したわけで、
これは無意識に「私」というものを
間接話法にするという、
すごく大事なことをしたなんじゃないか
という気がぼくはするんです。
たとえば「写真の私」が
「私は桜餅が好きです」って言ったら、
もうこれはそれ以上でもそれ以下でもなく、
嘘いつわりのないことでなきゃいけないけど、
一回「Mii」になったものが
同じことを言った場合は、
そのあとに「‥‥誰か、くれないかな?」って
つけ足しても大丈夫ですよね。
坂本
ああ、はい、そうですね。
糸井
その、間接話法にできる感じと、
「これは本人なんだ」というリアル。
それがなんというか、
いい中途半端さで混ざっていて、
すばらしいんですよね。
坂本
ありがとうございます。
糸井さんのおっしゃった意味でいうと、
じつは「Mii」は2種類いるんですよ。
3DSの『Miiスタジオ』の中にいたり、
ゲームのプレイヤーキャラクターに
なったりする「Mii」は、
プレイヤーの分身、いわゆるアバター的な存在。
一方、我々が手がけている
『トモダチコレクション』や『Miitomo』に
登場する「Mii」は、本人とは違う存在で、
勝手にしゃべったりするんです。
糸井
ああ、そうですね。
坂本
言葉を発する、それぞれに性格がある、
いきものとしての「Mii」。
そう言うとちょっとややこしいんですが、
同じように見えて種類の異なる「Mii」が
ふたつある、という感じなんです。
糸井
そうか、本当だ。
ぼくはロールプレイングゲームで
主人公がしゃべるのは
個人的にしっくりこないんです。
『MOTHER』も、主人公は一言も発さないのに
ゲームを進めるとその性格がわかっていく、
というふうにつくりたかったから、
しゃべっていないんです。
『ドラゴンクエスト』が出たばかりのころって
そういう主人公が主流だったんですけど、
時代が進むに連れて、ゲームのなかで
しゃべる主人公がどんどん出てきた。
それを見ているうちにぼくも
「そっちはそっちであるんだな」
という意識になっていったんですけど、
「Mii」は、両方の役割があるんですね。
坂本
そうなんです。
糸井
それは遊ぶ人の方向性としてもふたつありますよね。
『Miitomo』のなかでも
やたらに仮装をさせたがる人と、
あんまりおかしなことはさせないで
「本当の俺」っぽくする人と、分かれますね。
坂本
あ、たしかに。
糸井
アバターに近い発想で使っている人もいると思うし、
ぼくなんかはもう、
変になればなるほど快感が‥‥。
坂本
わかります。ぼくもそっちなんで。
一同
(笑)
糸井
どうしてもそうしちゃいますよねぇ‥‥。
ぼくは、『どうぶつの森』をやっていたとき、
赤ん坊の格好をして、おしゃぶりをくわえて、
斧を持って村じゅうで暴れまわったんですよ。
坂本
怖いですね(笑)。
糸井
実際、怖がられてました。
木の陰に隠れてて、
ぼくの村を訪ねてくる人がいたら、
飛び出してガンガン木を切ったりして。
それをやってて、ぼくはすっごく楽しくて。
坂本
ハハハハハ。
糸井
もう、かなり非日常的な状態で。
『Miitomo』では、そこまでできないけど、
質問に対して平気でウソをついたり、
意図と違った答え方をすることはできますね。
坂本
まぁ、そうですね。
そのあたりは自由です(笑)。

(つづきます)

2016-07-04-MON