第2回 めんどくさがられるような人になりたい。

糸井
宮本さんは「クリエイティブフェロー」という
役職になったんですよね。
宮本
そうです。
といっても、仕事がまったく変わったわけではなくて、
まずは、じぶんのやりたいことをやって、
あとは、ひとつひとつの現場を見るというよりも、
うまくいってないところを見つける、という感じで。
糸井
いままでやってたことと似てはいますよね、きっと。
宮本
似てますね。
じつは、この新しい組織の体制というのは、
急にできたわけではなくて、
ここ何年か取り組んでたことなんですよ。
もともとは、
岩田さんといっしょにつくったものなんです。
まぁ、その中軸に岩田さんがいましたから、
そこは大きく考え直しにはなったんですが、
全体の切り替えというのは、
わりとすっきりと進みました。
糸井
簡単にいうと、若いチームが
のびのびとつくっていくかたちになるのかな。
宮本
そうなるといいと思ってます。
やっぱり、30代とか40代の人が
自分で責任を持って取り組むようにしよう、
というときに、あまり古い人たちがいると、
なかなか思い通りにできなかったりするので。
だからもう、組織から改めて。
ここに来て、Wii Uの
『Splatoon(スプラトゥーン)』とか、
若いチームが成果を上げてきているので、
そこは順調に行ってますね。
ぼくが中心にやってる
『スターフォックス ゼロ』のほうが
遅れているような状態で(笑)。
糸井
『スーパーマリオメーカー』は、
どっちなんですか?
宮本さんが直接現場を見てたもの?
宮本
手塚(卓志)さんが全面的にまとめています。
ぼくは「裏のプロデューサー」として
あれこれ言ってた感じですね。
糸井
(笑)
宮本
まぁ、もともと、
「コンストラクション」というジャンルのゲーム、
つまり、プレイヤーがステージや
システムをつくっていくタイプの遊びが
これからはテーマになるだろうというのは、
もう、10年以上前から言って
つくったりしてたんです。
そういうものがソフトのラインナップとして
いずれ必要になるよ、と。
で、だんだんコンピューターの
処理能力が上がってきて、
けっこう自由にプレイヤーが
いろんなものをつくれるようになってきた。
そこにこの『スーパーマリオメーカー』の話が
技術陣から出てきて、こういうものは放っておくと
なかなか前へ転がれないので、
けっこう強く押し出したんです。
それが、このゲームにおけるぼくの最大の仕事。
糸井
そういう判断がやっぱり大事ですよね。
宮本
うん。だから、そういうことを誰か、
つぎの人たちがやってくれると、
どんどんぼくがらくになるんですよね。
糸井
成功するか、失敗するか、ということは
完全に読めるわけじゃないので、
「失敗してもこれはやるべきだと思う」
というようなジャッジが必要なんですよね。
で、フェローという役職の人は、
これからもそういう判断は
していくんでしょうね、やっぱり。
宮本
まぁ、フェローの役割としては、
「自分の好きなことをする」
ということもあるんですけど、
それとは別に、全体を見て
大きくプロデュースしていくということが
今後、ますます大事になっていくと思います。
やっぱり、ゲームの業界というのは、
ビジネスでいうと浮き沈みの連続じゃないですか。
糸井
そうですね。
宮本
そういうときに、
「沈まないように」ということだけやってたら、
絶対新しいことは起こらないので、
「多少沈んでもいいんやない?」という
チャレンジをしていくというか、
そこの判断をしていく。
「筋がいいか、悪いか」を見るんですよね。
「筋がいいか、悪いか」というのを見極めるのは、
経験もあるし、勘もあるんですけども、
それができる人がたくさん出てきたら、
うちはかなり安泰で。
糸井
うん、うん。
宮本
だから、自分の好きなことと、
ほかの人たちのやってることの見極め。
当分、そのふたつを並行して
やっていくんじゃないかと思ってます。
じぶんが世の中と
ずれていないと思えるあいだは‥‥。
糸井
それは、ぼくの立場とも、似てるなぁ。
ぼくは最近よく言ってるんだけど、
「めんどくさいおじいちゃん」になりたいんです。
もう、社長の立場とかはすっかり譲っちゃって、
たまにやって来て、会議とかに顔出して、
あれこれ言って、若い人たちから
めんどくさがられるような人になりたい。
宮本
ああ(笑)、なりたい。
糸井
「せっかくうまくやってたのに、
あいつが来たおかげで、
なんかもうわやくちゃになっちゃったよ」

というような役になれるように、
いまからもう、仕組んでるわけ。
宮本
ああ。いい話や‥‥。
糸井
あ、そうですか(笑)。
宮本
ぼくは最近、どっちかというと、
そういう「めんどくさい人」に
なってしまうんではないかということを、
すごく心配してて。
このまま行くとそういう人になってしまうよなぁ、
と思って。
糸井
俺は、それは、狙ってる。
宮本
だからいま、すごく勇気づけられた。
狙うんなら、らくですよ。
だってもう、そうなりそうなので(笑)。
一同
(笑)
宮本
でも、そういう役割って、簡単じゃないですよね。
結果につながらないと、なれない。
糸井
そうですよ。
だって、迷惑かけたいわけじゃないからね。
さっき宮本さんが言ったみたいに
なにもしないと、沈んでいくだけだから。
宮本
うん。
糸井
つまり、「もの」ってやっぱり、
どんどん落ち着くように、落ち着くように、
そっちへ向かっていくじゃないですか。
生き物が死ぬっていうのは、
「最終的に落ち着く」ってことでもあるわけだし。
宮本
うん、うん。
糸井
若いときとか、成熟しつつあるときって、
活気があって、のびのびと力を発揮できる。
だけど、それも、老化していくというか、
だんだん「落ち着いていく」わけで。
周囲やじぶんがそれをしかたがないことと
認めてくれているとしても、
それはやっぱり「死に向かってる」。
そういうときに、なんか、
意味もなく誰かに叩かれたんでコブができて、
そのおかげでフォームが変わっちゃったとか、
事故みたいなことでも、なにかがないと、
ほんとに「死に体」になっちゃうと思うんですよ。
自分も、若いときに、そういうことで
思いがけずできることが増えたりしたし。
つまり、山内(溥)さんだって、
「もっとおもしろくしろよ」って、
ぼくらに乱暴に言ってたわけでさ。
宮本
そう、そう(笑)。
糸井
で、岩田さんはそれを理屈で言ってたわけですよ。
「この機械はもっと薄くならないですか?」
みたいな。
それは、宮本さんも、きっとやってるでしょう?
宮本
そうですね。やりたいですね。
糸井
つまり、組織にとって必要なんですよ、
そういう役割の人が。
だとしたら、さっさとそこを
目指しちゃっていいんじゃないかなと思って。
ほら、ぼくは、年齢からすると、
たぶん、宮本さんより
先に引退しなきゃならないんで。
宮本
ふふふふ。
糸井
だから、先にそういう人になるよ。
「今日、糸井さん来てる?」
「来てるよ」「うわー」みたいな(笑)。
一同
(笑)
糸井
「あいつが言い出すとうるさいから、
もうちょっときちんとやっとこうよ」

とかなんとか言って。
宮本
ははははは。

(つづきます)

2015-12-07-MON