第3回 ひとりではつくれないものをつくってる。

糸井
これからは、ぼくも宮本さんも、
若い人たちを困らせるほうにいかないと。
いままでよりも、さらに。
宮本
(笑)
糸井
そうじゃないと、もう、ぜんぶが、
できることの範囲に収まってしまうから。
宮本
同時に、ぼくらも、若い人たちに
言えるだけのなにかをちゃんと持ってないとね。
こう、なんかひと言、言ったときにね、
「ああ、そうくると思ってました」
みたいなことを言われたりするんですよ。
「それも考えたんですが」とかね。
そういう予想を超えるようなことを言わないと。
糸井
もっと、自由で乱暴なことをね。
宮本
そう、「あ、そうきますか!」っていうことを。
で、「そうきますか!」っていう反応が出ると、
やっぱり、プロジェクトは
いい方向に進んでいくんですよね。
糸井
そうですね。
だって、「アイディア」って、
いままでなかったものについて
しゃべってるわけだから、
言われたほうは、絶対迷惑なはずなんですよ。
宮本
うん、うん。
糸井
「せっかくいま落ち着いてるのに‥‥」
っていうところに、
その「アイディア」が降ってくるので。
まぁ、迷惑がる気持ちもわかりますけどね。
その意味では、言うほうも簡単じゃないですよ。
でも言わなきゃな、って、
大人の覚悟をして言うんですけどね。
宮本
ほんと、そうです。
ズレから新しいものが生まれますよね。
糸井
いちばんよくないパターンは、
いいことを思いついたんだけど、
言う相手が忙しそうなんで
遠慮して言えなかった、っていうときですね。
宮本
わかります(笑)。
糸井
おそらく、岩田さんと宮本さんは、
お互いにそれをぶつけ合ってたと思うんですよ。
ふたりとも、まだ誰にも言えないようなことで、
「こういうの考えたんだけど、
おもしろくないですか?」って、

平気で言い合えたわけでしょう?
宮本
そうですね。それを今度は、
若い人たちとやっていくことになるんですね。
糸井
岩田さんとぶつけ合ってたものを
小さくちぎって、
若い人たちにばらまくんでしょうね。
その、多少、迷惑がられても(笑)。
宮本
ぼくらも、そうされてきたわけですし。
糸井
うん。
宮本
歳をとってくると、ほんとによくわかりますよね。
若いころは、ひどい目に遭ったなあ、
って思ってたけど、
「ああ言われなかったら、
あんなこと絶対せえへんかったよね」

ということばっかりなんですよ。
50歳を過ぎたら謙虚になるっていうのは
そういうことなんやなって思うんですけど、
「ああいう人がいたから
自分はこれができたんやな」って思えることが

どんどん増えていくんですよね。
だから、ひどい目に遭ってるということを
若い人は武勇伝を語るようにしゃべるけど、
そういう場にいたことがラッキーなんだ、
って思うほうが、つぎにつながるんですよね。
なんか説教みたいになってしまうけど(笑)。
糸井
だから、ぎりぎりの外野フライに飛びついて、
ファインプレーで捕ったシーンとかって、
新聞の一面飾るじゃないですか。
あれのことだよね。
宮本
ああ、はい(笑)、
「こんなところに打ちやがって」って、
捕った人は言わないですよね。
糸井
「こんなところ打たないでくださいよ」
って言っちゃダメだよね。
まぁ、後逸すれば怒られることもあるよ。
でも、ほんとにそこは飛びつくべきだ、
っていう場面で全力で飛び込んだときは、
後逸したって誰も怒らないよね。
宮本
そうですね。
あと、逆のこともありますよね。
自分ひとりでつくっていると、
それはそれで、どうしても、
自分の常識的なところで収めていくけど、
若い子とやってると、
冗談半分に言ったようなネタが
「いいですね」って真顔で言われたりして、
「あ、いい? じゃ、やってみようか」って
いい方向に転がったりしますから。
糸井
あーー、はい、はい。
宮本
あと、モニターしてもらって、
ひどいこと言われたりね。
ぼく、そういう途中のテストで
ぼろぼろに言われるのって、
わりと好きなんですよ。
糸井
あ、そうですか(笑)。
宮本
ぼろぼろに言われることって、
新しいネタが出るチャンスなんです。
ようするに、ただ非難してるわけじゃなくて、
なにか気に入らないことがあったから
言ってるわけで、そこをうまく解いてやれば、
逆に、コロッとよくなることもあるんです。
でも、自分ひとりでつくっているときに、
自分が自分のつくってるものを
ぼろぼろに言うのは‥‥。
糸井
なかなかできないですよね。
宮本
できないじゃないですか。
だからね、そのあたりが
人とやってるおもしろさで。
若い子とやっても、社外の人とやっても、
大事なのは、そこですよね。
子どものころ、マンガ描いてるときは
ひとりで最後までつくれたけど、
いまは、絶対にひとりでは
つくれないものをつくってるし、
ひとりではつくれないものを
つくりたいじゃないですか。
糸井
はい。
宮本
ひとりでつくれないものを
つくってるということは、
人とのそのやり取りや関係がおもしろいので。
糸井
まったくそうですね。
思いついた瞬間に
「あいつがこう言うだろうな」っていうのを
想像したりしながらね。
その複雑さをたのしむ、みたいなこと。
で、どこかで、できないことはできないって
はっきり告げる場面もあったり。
宮本
それも大事ですね。
そこは、若い人たちよりぼくらのほうが
経験を重ねているぶんだけ、
「やめよう」って言える立場にある。
リスクを負うことに関しては
しっかり判断をくだして、
これはあきらめようって言えるんですよね。
ムダになっても、ぜんぶ捨てよう、とかね。
糸井
そうなんです。
宮本
「もったいないから、
なんとか捨てずにがんばりましょう」

みたいなことは、みんなわりとできるんですよ。
でも、スパッと捨てる判断は、
なかなか現場ではできない。
糸井
「もったいない」っていう気持ちが、
大きいんですよね。
当然、ぼくのなかにもあるんですけど、
なんでしょうねぇ、あれは。
宮本
要するに、
「捨てたその先」の覚悟ができてないから、
捨てられないんですよね。
糸井
そうそうそう。
宮本
なんとかならないかって待ってるより、
いま捨てとくほうがいい、っていう判断は、
結果を優先しないとできないので。
そのあたりは、
年長者のほうが役に立てるのかなと。
糸井
でも、できたものを捨てさせたりすると、
ますます煙たい存在になっちゃうね。
宮本
ああ(笑)。

(つづきます)

2015-12-08-TUE