- 糸井
-
これからは、ぼくも宮本さんも、
若い人たちを困らせるほうにいかないと。
いままでよりも、さらに。
- 宮本
- (笑)
- 糸井
-
そうじゃないと、もう、ぜんぶが、
できることの範囲に収まってしまうから。
- 宮本
-
同時に、ぼくらも、若い人たちに
言えるだけのなにかをちゃんと持ってないとね。
こう、なんかひと言、言ったときにね、
「ああ、そうくると思ってました」
みたいなことを言われたりするんですよ。
「それも考えたんですが」とかね。
そういう予想を超えるようなことを言わないと。
- 糸井
- もっと、自由で乱暴なことをね。
- 宮本
-
そう、「あ、そうきますか!」っていうことを。
で、「そうきますか!」っていう反応が出ると、
やっぱり、プロジェクトは
いい方向に進んでいくんですよね。
- 糸井
-
そうですね。
だって、「アイディア」って、
いままでなかったものについて
しゃべってるわけだから、
言われたほうは、絶対迷惑なはずなんですよ。
- 宮本
- うん、うん。
- 糸井
-
「せっかくいま落ち着いてるのに‥‥」
っていうところに、
その「アイディア」が降ってくるので。
まぁ、迷惑がる気持ちもわかりますけどね。
その意味では、言うほうも簡単じゃないですよ。
でも言わなきゃな、って、
大人の覚悟をして言うんですけどね。
- 宮本
-
ほんと、そうです。
ズレから新しいものが生まれますよね。
- 糸井
-
いちばんよくないパターンは、
いいことを思いついたんだけど、
言う相手が忙しそうなんで
遠慮して言えなかった、っていうときですね。
- 宮本
- わかります(笑)。
- 糸井
-
おそらく、岩田さんと宮本さんは、
お互いにそれをぶつけ合ってたと思うんですよ。
ふたりとも、まだ誰にも言えないようなことで、
「こういうの考えたんだけど、
おもしろくないですか?」って、
平気で言い合えたわけでしょう?
- 宮本
-
そうですね。それを今度は、
若い人たちとやっていくことになるんですね。
- 糸井
-
岩田さんとぶつけ合ってたものを
小さくちぎって、
若い人たちにばらまくんでしょうね。
その、多少、迷惑がられても(笑)。
- 宮本
- ぼくらも、そうされてきたわけですし。
- 糸井
- うん。
- 宮本
-
歳をとってくると、ほんとによくわかりますよね。
若いころは、ひどい目に遭ったなあ、
って思ってたけど、
「ああ言われなかったら、
あんなこと絶対せえへんかったよね」
ということばっかりなんですよ。
50歳を過ぎたら謙虚になるっていうのは
そういうことなんやなって思うんですけど、
「ああいう人がいたから
自分はこれができたんやな」って思えることが
どんどん増えていくんですよね。
だから、ひどい目に遭ってるということを
若い人は武勇伝を語るようにしゃべるけど、
そういう場にいたことがラッキーなんだ、
って思うほうが、つぎにつながるんですよね。
なんか説教みたいになってしまうけど(笑)。
- 糸井
-
だから、ぎりぎりの外野フライに飛びついて、
ファインプレーで捕ったシーンとかって、
新聞の一面飾るじゃないですか。
あれのことだよね。
- 宮本
-
ああ、はい(笑)、
「こんなところに打ちやがって」って、
捕った人は言わないですよね。
- 糸井
-
「こんなところ打たないでくださいよ」
って言っちゃダメだよね。
まぁ、後逸すれば怒られることもあるよ。
でも、ほんとにそこは飛びつくべきだ、
っていう場面で全力で飛び込んだときは、
後逸したって誰も怒らないよね。
- 宮本
-
そうですね。
あと、逆のこともありますよね。
自分ひとりでつくっていると、
それはそれで、どうしても、
自分の常識的なところで収めていくけど、
若い子とやってると、
冗談半分に言ったようなネタが
「いいですね」って真顔で言われたりして、
「あ、いい? じゃ、やってみようか」って
いい方向に転がったりしますから。
- 糸井
- あーー、はい、はい。
- 宮本
-
あと、モニターしてもらって、
ひどいこと言われたりね。
ぼく、そういう途中のテストで
ぼろぼろに言われるのって、
わりと好きなんですよ。
- 糸井
- あ、そうですか(笑)。
- 宮本
-
ぼろぼろに言われることって、
新しいネタが出るチャンスなんです。
ようするに、ただ非難してるわけじゃなくて、
なにか気に入らないことがあったから
言ってるわけで、そこをうまく解いてやれば、
逆に、コロッとよくなることもあるんです。
でも、自分ひとりでつくっているときに、
自分が自分のつくってるものを
ぼろぼろに言うのは‥‥。
- 糸井
- なかなかできないですよね。
- 宮本
-
できないじゃないですか。
だからね、そのあたりが
人とやってるおもしろさで。
若い子とやっても、社外の人とやっても、
大事なのは、そこですよね。
子どものころ、マンガ描いてるときは
ひとりで最後までつくれたけど、
いまは、絶対にひとりでは
つくれないものをつくってるし、
ひとりではつくれないものを
つくりたいじゃないですか。
- 糸井
- はい。
- 宮本
-
ひとりでつくれないものを
つくってるということは、
人とのそのやり取りや関係がおもしろいので。
- 糸井
-
まったくそうですね。
思いついた瞬間に
「あいつがこう言うだろうな」っていうのを
想像したりしながらね。
その複雑さをたのしむ、みたいなこと。
で、どこかで、できないことはできないって
はっきり告げる場面もあったり。
- 宮本
-
それも大事ですね。
そこは、若い人たちよりぼくらのほうが
経験を重ねているぶんだけ、
「やめよう」って言える立場にある。
リスクを負うことに関しては
しっかり判断をくだして、
これはあきらめようって言えるんですよね。
ムダになっても、ぜんぶ捨てよう、とかね。
- 糸井
- そうなんです。
- 宮本
-
「もったいないから、
なんとか捨てずにがんばりましょう」
みたいなことは、みんなわりとできるんですよ。
でも、スパッと捨てる判断は、
なかなか現場ではできない。
- 糸井
-
「もったいない」っていう気持ちが、
大きいんですよね。
当然、ぼくのなかにもあるんですけど、
なんでしょうねぇ、あれは。
- 宮本
-
要するに、
「捨てたその先」の覚悟ができてないから、
捨てられないんですよね。
- 糸井
- そうそうそう。
- 宮本
-
なんとかならないかって待ってるより、
いま捨てとくほうがいい、っていう判断は、
結果を優先しないとできないので。
そのあたりは、
年長者のほうが役に立てるのかなと。
- 糸井
-
でも、できたものを捨てさせたりすると、
ますます煙たい存在になっちゃうね。
- 宮本
- ああ(笑)。
(つづきます)
2015-12-08-TUE