- 糸井
-
ものをつくっていて、壁に当たって、
「なんとかしなきゃいけない」というときに、
手を変え品を変えやっていくと、
自分の力が自分で思ってもいない方向に、
発揮できるじゃないですか。
そこで、なんていうか、やっと、
「はじめてのこと」がはじまるんですよね。
- 宮本
-
そう、それがたのしいんですよ。
だいたいわかってることを
「予定どおり収める」ということだけに
苦労してても、つらいだけですからね。
なにがおもしろいのかな、っていうと、
あれこれやっているうちに
新しいことが生まれはじめて、
あ、これをやってるのがおもしろいんや、と。
- 糸井
-
わかってること、
できることだけをやってると、
「処理」になっちゃうから。
- 宮本
-
やっぱり、処理じゃなくて、
「あれをしよう」「これをやろう」
ということをエネルギーにして、
進んでいくしかないと思うんですよね。
あの、たとえば、ものをつくっていると、
批判されたり、悪く言われたりして、
どうしても落ち込むじゃないですか。
こう、腹にドーンと来るというか。
- 糸井
- はい。
- 宮本
-
これは絶対、軽くはできないんですよ。
ダメージそのものをなくすことはできない。
- 糸井
- うん、そうだと思う。
- 宮本
-
そういうときに、唯一、自分を軽くできるのは、
なにか「あれをしよう」「これをしよう」
ということを考えはじめることなんです。
そうすると、自分が軽くなる。
だから、けっきょく、
「なにをしよう」ということで
打ち返していくのが
身体には、いちばんいいと思っていて。
- 糸井
- いや、その通りだと思います。
- 宮本
-
そうですよね。
で、こういう感覚がね、やっぱり、
40歳ぐらいだと、まだわかりきっていない。
- 糸井
-
あと、若いころは、どうしても、
自分ひとりの手柄にしたいんですよね。
俺ひとりでこんないいこと考えた、
っていうのが、いちばん自慢なんですよ。
- 宮本
- うん、うん、うん。
- 糸井
-
誰の手伝いもなく、ぼくひとりでやりました、
フリーのコピーライターです、
って言ってると、稼ぎにはなるんですよ。
でも、そんなふうに「できること」だけを
くり返して天才ぶったって、
いつか自分で自分に飽きてくるよ。
それよりは、できないことに巻き込まれて、
登ったことない山に登らされているときに
ついた筋肉のほうが自分を活かしてくれる。
- 宮本
- つぎの新しいことにつながりますよね。
- 糸井
-
宮本さんって、じつは、そういうサイクルを
意識的に、そうとうやってきてますよね。
- 宮本
-
なんか、振り返ってみると、そうですねぇ。
だから、なんというか、
苦労してないときのほうが心配になる。
- 糸井
- わかる(笑)。
- 宮本
-
そうすると、60を過ぎても、
まだまだ苦労するのか、っていうところで、
家族に言わせると「ほどほどにしたら?」
ということになるんですが(笑)。
- 糸井
- (笑)
- 宮本
-
でも、そういうことで、
自分というものが維持できているような、
そんな気がするんですよね。
- 糸井
-
そうですね。
60を過ぎてそういう面を持ってる人と、
持ってない人に分かれると思うんですが、
やっぱり持ってる人でいたほうが、
たいへんかもしれないけど、たのしい。
- 宮本
- たのしくいたいですよね。
- 糸井
-
そういう60歳が会社にいるのは、
絶対、いいことだと思いますよ。
宮本さんは最近新しく「フェロー」っていう
肩書きが役職に加わったけど、
あの「フェロー」っていう言葉はさ、
偉さとか権威じゃなくて、
そういうことを目指してる人を
表す言葉なんじゃないかなと思えたんですよ。
なんか、会長とか相談役とかっていう以上に、
実際のものを動かす人、つくっていく人
なんじゃないかと思って。
- 宮本
- そういう部分はあると思います。
- 糸井
-
あと、組織として上手だなあ、と思ったのは、
竹田さんとふたりで違うフェローになったでしょ。
(2015年9月16日付で、
君島達己さんが取締役社長に就任し、
宮本茂さんはクリエイティブフェローに、
竹田玄洋さんが技術フェローに就任した)
- 宮本
-
そう、ふたりでっていうのがよかったんですよ。
じつは、この「フェロー」という役職については、
岩田さんとずっと相談してたんですが、
どうも落ち着きが悪いなぁと思ってたんですね。
でも、「相談役」っていうともっといやだし、
「顧問」っていうのも違うなぁ、と。
- 糸井
- ああ、違いますね。
- 宮本
-
ところが、竹田さんに
技術面での「フェロー」っていう役割で
立ってもらったおかげで、すごく落ち着いたんです。
右大臣、左大臣ではないけど、
収まりがいいんですよね。
ぼくがひとりで「フェロー」とか言ってるとね、
「なにをいちびって」みたいな感じになるので。
- 一同
- (笑)
- 糸井
-
「いちびって」(笑)。
まぁ、たしかに、
ふたりがそうやって並んだほうが、
より、組織としての意思を感じますよね。
- 宮本
- そう、なんか、すごく、説得力が出たんです。
- 糸井
-
それはね、会社って、純粋に、
きちんと仕事ができる仕組みをつくりたいのに、
なんか、まわりのみんながそこに同時に
「偉さ」を込めようとするんですよ。
- 宮本
- あーー、はいはいはい。
- 糸井
-
まわりも込めようとするし、
人によっては、自分でも込めようとする。
だから、収まりが悪くなって、
対象がひとりだと「いちびってる」みたいになる。
- 宮本
- そう(笑)。
- 糸井
-
だから、やっぱり、宮本さんの隣に、
竹田さんが技術の人として
いっしょに並ぶのはいいですね。
- 宮本
-
そう。
竹田さんがフェローと名乗ることは
ものすごく大事なことだと思ってます。
- 糸井
-
副社長がふたりになるとかじゃなく、
この形になったのはすごくいいと思うなぁ。
- 宮本
-
ありがとうございます。
体裁よりは、実際に機能するように、
と思ったので。
- 糸井
-
いや、見事だと思います。
たぶん、岩田さんがいても、
こうするんじゃないかなぁ。
(つづきます)
2015-12-09-WED