最終回 あたりまえに、ふつうに。

糸井
だんだんとさ、
宮本さんもそうなんじゃないかと思うんだけど、
じぶんが褒められるかどうかとかは、
もう、ぜんぜん気にならなくなってきていて。
宮本
ああ(笑)。
糸井
褒められた瞬間くらいはうれしいけど、
それより、ちょっと離れたところで
仲間がいい仕事をしたときのほうがうれしい。
だから、もう、「我こそは!」という部分は
なくなってきてるじゃないですか。
宮本
そうですね。
まぁ、けなされるのはいやですけどね。
糸井
でも、ケンカなんかしたくないし。
その意味では、どんどん、もう、
「南無阿弥陀仏」と言うだけ、みたいな、
そんな感じになってる。
で、たぶんみんなも、いずれそっちに行くんですよ。
無理にケンカもしたくないし。
それはもう、山内さんのなかに芽がありましたよね。
「うちはケンカは弱いから
しなくてもいいようなことをするんや」って

おっしゃってたじゃないですか。
宮本
たしかに(笑)。
仕事をしていると、
自然とそういう境地に進んでいきますよね。
けっきょく、どんな業務でも、
敬意を持って仕事しないとだめだなぁ、とか。
糸井
敬意ね。
宮本
組織の基本的なこととして、
お互いが敬意を持ってたらいいと思うんですよね。
組織って、直接お金を生んでる人たちもいるし、
管理とか手続きをしてる人たちもいて、
働き方や常識がそれぞれで違いますよね。
でも、そのギャップで対立するような
組織にはしたくないから、違う立場の人たちが
それぞれに敬意を持ったらいいなぁと。
それって、ちょっと仏教的ですよね(笑)。
糸井
ですね。
もう、聖徳太子に戻っちゃいますよ。
やっぱり、「和をもって尊しとなす」ですから。
宮本
(笑)
糸井
たまによその組織の話とか聞いて、
ものをつくっている部署と
管理しているところがあんまり仲よくない、
みたいな話を聞くと、
そうならないようにしたいなぁと思うもの。
だから、うちの会社は年に何回か
「席とっかえ」してるんだけど。
宮本
うちの会社も、そのへんのことは、
ちゃんとできてるんじゃないかなぁ。
部門ごとの上下みたいなものが
できないようにしているというか。
糸井
岩田さんの中に、そういう気持ちって、
すごくありましたよね。
宮本
そうですね。
糸井
同じ組織なのに変な上下ができるのは
すごくいやだって言ってましたよね。
ああいう考えは、うつってますね、みんなに。
宮本
はい。
糸井
だから、山内さん、岩田さんと
受け継がれているともいえる‥‥。
やっぱり、山内さんの銅像を立てよう。
宮本
銅像に行き着きますね(笑)。
糸井
銅像と、
そこに添える「ことば」をどうするか。
宮本
考えないといけなくなってきた(笑)。
糸井
「わしらはケンカは弱いんや」って
台座に彫ってある。
宮本
ははははは。
「失意泰然」というのもありますね。
「失意泰然 得意淡然」。
糸井
ああ、それはそうとう山内さんらしい。
宮本
うん。
糸井
「ダメなときに平気にしてなさい。
いいときも平然と落ち着いていなさい」。

いいなぁ、それ。
宮本
「自転車は一所懸命こいだらあかんねん」
っていうのもあったなぁ。
糸井
あ、そういうのもあるんだ。
宮本
自転車をね、上り坂でこぎ続けたら、
それは褒められるかもわからんけど、
「いつか、力尽きる」って。
糸井
ほーー。
宮本
ゆるい下り坂を自転車に乗ってるだけで
行くほうが「楽やろう?」っていう(笑)。
糸井
いいなぁ(笑)。
「楽に、楽しく」っていうのは、
山内さんからつながってるのかもね。
宮本
ああ、そうかもしれないですね。
楽しく、気持ちよく仕事をして、
前向きな気持で日々暮らしてて、
ちゃんと給料ももらえれば、それがいちばん。
糸井
いちばんいいですね。
で、その「前向き」の解釈が、
「もっと前向きにならなきゃ」っていう
プレッシャーにならないくらいの
前向きだったら理想的。
宮本
うん。
糸井
「ふつうの前向き」でいいんだよ。
だって、みんな生きてるし、
おいしいもん食べてるときうれしいじゃない。
そういうふうにしたいねぇって、
岩田さんと、そういう話、ずっとしてましたよね。
宮本
してましたねぇ(笑)。
糸井
そんなにがんばらないんだけど、
自然にがんばってる、みたいな。
そうなるのがいちばんいいですよね。
あたりまえに、ですよ、やっぱり、理想は。
宮本
あたりまえに、ふつうにしてるのに、
うまく回ってるというのは、いいですよね。
糸井
いい。
宮本
ねぇ。
糸井
今日は、長く話しましたけど。
宮本
いや、久しぶりに話ができてよかったです。
糸井
ちょっと、気持ちが楽になった(笑)?
宮本
だいぶ、バランスがよくなりました。
整体師に診てもらったような(笑)。
糸井
ああ、うれしい(笑)。
やっぱり、まぁ、
岩田さんのことって、大きすぎるから。
代わりって、ないからね。
宮本
そうですね。
糸井
また、こういう場を、続けましょうよ。
宮本
よろしくお願いします。
糸井
その、こうして毎回記事にしなくていいから。
ふつうに、会ったり、ごはん食べたり。
ある種の定例会みたいにすると、
ぼくも助かるから。
宮本
そうですね。
糸井
もうちょっと、宮本さんを連れ出して、
気軽に誰かに会わせたりしよう。
宮本
ああ、お願いします。
糸井
今日は、よかった。
宮本
よかったです。
ぼくも、どこから動きはじめていいか、
わからなかったので。
糸井
うん。今日は、会ってよかった。

(宮本茂さんと糸井重里の対談は、これで終わりです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。)

2015-12-18-FRI