- 糸井
-
宮本さんの「筋がいい、悪い」の話は
ぼくにとってもテーマで、
これからもずっとしていくと思うけど、
若い人たちに教えてあげたいんですよね。
「筋がいい」ほうが、おもしろいから。
- 宮本
- ありがとうございます。
- 糸井
-
「筋がいい」ほうが、人がよろこぶ。
会社も、きちんと儲かる。
なんというか、同じ「いいもの」でも、
よくある「立派でいいもの」みたいな感じだとね、
よろこぶ人には限りがあるんですよ。
そのあたりを、きちんと伝えておきたいなぁ‥‥。
- 宮本
- 「筋がいい」と、広がりがあるんですよね。
- 糸井
-
そう、そう。
永田くん(この対談の担当編集者)、
なんか質問してもいいよ?
- ──
-
じゃあ、「筋がいい、悪い」を判断しているお二人に
判断される立場から、ということで、お訊きします。
- 糸井
- うん(笑)。
- ──
-
「筋がいい、悪い」が、
まったく見当もつかないわけじゃなくて、
だいぶ、いいところまで、わかってるとします。
しかし、ぎりぎりのところで、
「あ、違ったか」ということがしばしばあって、
端的なところをひとつ挙げると、
「ここは大事だぞ」って
前々から言われているようなところがあって
そこを一生懸命守りながら考えていると、
「そこは別にいいんだよ」って言われたりもします。
- 宮本
- (笑)
- ──
-
不条理だ、と言うつもりはないです。
言われて納得もします。
ただ、「そこは守らなきゃダメよ」というときと、
「気にしなくていいんだよ」というときがあって、
たぶん、判断される立場の人たちは、
そういうところで迷うことが
多いんじゃないかなぁ、と思うんです。
- 糸井
- いやぁ、具体的だねぇー。
- 宮本
- ははははは。
- ──
-
たまには、そういう実践的なヒントを
訊いてもおもしろいかな、と。
- 糸井
- まぁ、大いに矛盾してるといえるんだよね。
- 宮本
-
そうですね。
だから、「ゴールをどこに見てるか」
ということだと思んですけどね。
- 糸井
- そうだ。そうです、その言い方だ。
- 宮本
-
ぼくらは、先にあるゴールを見て
しゃべってるんですよ、たぶん。
ゴールをどこにするかも変わっていくときもある。
ところが、言われるほうは、
いまある問題のところだけをじっと見てる。
すると、間違いやすい。
- 糸井
-
あの、あれに似てるんじゃない?
ドラッカーの「利益は手段である」っていうこと。
- 宮本
- ああ。
- 糸井
-
利益が目的だったら、
一見、利益が目的のように動いてるんだけど、
利益は手段にすぎなくて、
その向こう側にほんとの目的があるわけで。
- ──
-
たとえば、ケースによって、
「利益をしっかり考えよう」というときと、
「利益から先に考えなくていいよ」
というときがあって
どっちもほんとに思えるんですよ。
実際、どちらかが明らかに間違いではないので。
でも、どっちにウェイトを置くかということが、
言われる前はよくわからなくて、
言われると、「そうか」と思うんです。
つまり、どっちに軸足を置くべきか、ということです。
- 糸井
-
そこではさ、「大した利益」と、
「大したことない利益」があってさ。
- ──
- あーー。
- 糸井
-
「大したことない利益」で、
そんなに足突っ張って
こらえてなくてもいいんだよ。
「大した利益」のときには、
もうそこで、鼻血出してでも、なんでも、
守るし、攻めるし、全力を尽くせよ、みたいな。
- 宮本
-
そうですね。
すごく雑に言うと、やっぱり、
「バケたらでかいよ」っていうことで。
- 糸井
- そう、それ(笑)。
- 宮本
-
逆に「これ、バケたらでかいですよ!」って
言われるようなこともあるけど、そのなかに
「バケたとしても、そんなにでかくないよ?」
っていうものがたくさんあるんです。
- ──
- わぁ(笑)。
- 宮本
-
そういうもので熱く語られたりしてもね、
「ま、どっちでもいいんやない?」って。
- ──
- そういうこと、あります(笑)。
- 糸井
- ふふふふ。
- 宮本
- そういうことですよねぇ。
- 糸井
-
だから、利益の話になると、
うちみたいな小さい会社と
任天堂は比べられないんだけど、
たとえば「1万人がよろこぶ」っていうものが
「2万人よろこぶかもしれない」ってなっても、
そこでそんなにつっぱらなくても、と思う。
それが「100万人よろこぶかも?」ってなったら、
じゃ、息止めてやってみるか、ってなる。
- ──
-
それは、あれですかね?
宮本さんも糸井さんも
「大きくバケた」という経験が豊富だから、
その経験が乏しい人は、
覚悟を決めてアクセルが踏むことができない、
というようなところがあるんですかね?
- 糸井
-
うーん、でも、小さい規模のことでも
同じことが起こりうるんだよ。
- 宮本
-
そうですね。
あの、よく言うことなんですが、
川が淀んでいるのと、川が流れてるのって、
川の大きさは関係ないんですよ。
流れる水の量の話をしたいわけなので。
- 糸井
- ああーー。
- ──
- はーー。
- 宮本
-
基本的に、どんな川であっても、
深くても浅くても広くても汚くても
「流れているほうがいい」と思う。
だいたいダメなときって、
「流れてない」んですよ。
そういう川をいくつもいくつも見てると、
「あ、これは流れる可能性あるよ?」とか、
そういうことがわかってくるんです。
- 糸井
- いいこと言うねぇ。
- ──
- いいこと言うなぁ。
- 宮本
-
でも、そうですよね?
流れてたら、そこからこぼれたものが
薄くても、濃くても、利益になるんです。
そういう意味で、その企画が「流れてる」なら、
「利益薄くてもいいん違うの?」
という話ができるんです。
逆に、いろんなビジョンが描けたとしても、
まず「流れてない」となにも起こらないので、
利益の話をするまえに、そっちなんですよ。
「ずっと後で、これだけ回収して帳尻が合います」
って言われても、ねぇ‥‥。
- 糸井
- そういうことじゃない。
- 宮本
-
そういうことじゃないんです。
そういうことをくり返すために
みんなで会社をやってるわけじゃない。
そのへんができる人は、
いい距離感で収支をちゃんと言える。
だから、バケないもの、流れてないものは、
もう、すぐにでも、たたんだほうがよくて、
だとしたら、もうそこにそれ以上、
お金をかける意味ってまったくない。
けど、バケるものは、倍つかってもいい。
- 糸井
- コスト感覚ですよね、いってみれば。
- 宮本
- そうですね。
- 糸井
-
だから、数字のわかる、
信頼できる人がそばにいて、
「これ、いくら損していい?」って訊いたときに、
「いくらまでだったら大丈夫です」って
言ってくれるだけで、すごく動きやすくなる。
その意味では、数字ってすごくありがたくて、
「責任を持った無責任」ができるわけ。
「これ以上コストをかけちゃダメ」っていうのと、
「コストをかけちゃダメ」っていうのは
ぜんぜん違うから。
- 宮本
- うん。
- 糸井
-
しかも、「筋がいい」ものは、
「バケた」あとでずっと転がっていくからね。
儲けが何倍にもなります、
そのときの利益だけじゃなく。
転がって、またぶつかって、動き続けて、
ちがうおもしろいものを生みだしたりする。
それが「筋」ですよね。
- 宮本
- そうそうそう。
- ──
- ああ、なるほど。
- 宮本
-
そのいみでは「楽(らく)」なんです。
一回、仕掛けたら、放っといても
勝手に動き続けてくれる。
そういうものがいくつもあるのが
理想といえば理想ですよね。
- 糸井
-
根っこの根っこの思いでいえば、
「楽に、楽しく」やりたいんだよね。
そう思って、いまの苦労は我慢するんだよ。
- 宮本
- そうそうそう。
- 糸井
-
そう言いつつ、ぼくも宮本さんも
じつは苦労しちゃうタイプなんだよ。
だから、もう、お守りに触るみたいに、
「楽して」「楽しく」って思ってる。
- 宮本
-
「楽しく」がいいんですよね。
何年か前からぼくは
「楽せず、楽しく」って言ってます。
「楽して、楽しく」が理想なんですけど、
それはなかなかないことなので、
だったら「楽せず、楽しく」はいいかな、って。
- 糸井
- ああ、なるほどね。
- 宮本
- 「楽しく」がいいですよね。
- 糸井
- そりゃぁ、そうです。
- ──
- はい。
(つづきます)
2015-12-17-THU