第10回 流れているほうがいい。

糸井
宮本さんの「筋がいい、悪い」の話は
ぼくにとってもテーマで、
これからもずっとしていくと思うけど、
若い人たちに教えてあげたいんですよね。
「筋がいい」ほうが、おもしろいから。
宮本
ありがとうございます。
糸井
「筋がいい」ほうが、人がよろこぶ。
会社も、きちんと儲かる。
なんというか、同じ「いいもの」でも、
よくある「立派でいいもの」みたいな感じだとね、
よろこぶ人には限りがあるんですよ。
そのあたりを、きちんと伝えておきたいなぁ‥‥。
宮本
「筋がいい」と、広がりがあるんですよね。
糸井
そう、そう。
永田くん(この対談の担当編集者)、
なんか質問してもいいよ?
──
じゃあ、「筋がいい、悪い」を判断しているお二人に
判断される立場から、ということで、お訊きします。
糸井
うん(笑)。
──
「筋がいい、悪い」が、
まったく見当もつかないわけじゃなくて、
だいぶ、いいところまで、わかってるとします。
しかし、ぎりぎりのところで、
「あ、違ったか」ということがしばしばあって、
端的なところをひとつ挙げると、
「ここは大事だぞ」って
前々から言われているようなところがあって
そこを一生懸命守りながら考えていると、
「そこは別にいいんだよ」って言われたりもします。
宮本
(笑)
──
不条理だ、と言うつもりはないです。
言われて納得もします。
ただ、「そこは守らなきゃダメよ」というときと、
「気にしなくていいんだよ」というときがあって、
たぶん、判断される立場の人たちは、
そういうところで迷うことが
多いんじゃないかなぁ、と思うんです。
糸井
いやぁ、具体的だねぇー。
宮本
ははははは。
──
たまには、そういう実践的なヒントを
訊いてもおもしろいかな、と。
糸井
まぁ、大いに矛盾してるといえるんだよね。
宮本
そうですね。
だから、「ゴールをどこに見てるか」
ということだと思んですけどね。
糸井
そうだ。そうです、その言い方だ。
宮本
ぼくらは、先にあるゴールを見て
しゃべってるんですよ、たぶん。
ゴールをどこにするかも変わっていくときもある。
ところが、言われるほうは、
いまある問題のところだけをじっと見てる。
すると、間違いやすい。
糸井
あの、あれに似てるんじゃない?
ドラッカーの「利益は手段である」っていうこと。
宮本
ああ。
糸井
利益が目的だったら、
一見、利益が目的のように動いてるんだけど、
利益は手段にすぎなくて、
その向こう側にほんとの目的があるわけで。
──
たとえば、ケースによって、
「利益をしっかり考えよう」というときと、
「利益から先に考えなくていいよ」
というときがあって
どっちもほんとに思えるんですよ。
実際、どちらかが明らかに間違いではないので。
でも、どっちにウェイトを置くかということが、
言われる前はよくわからなくて、
言われると、「そうか」と思うんです。
つまり、どっちに軸足を置くべきか、ということです。
糸井
そこではさ、「大した利益」と、
「大したことない利益」があってさ。
──
あーー。
糸井
「大したことない利益」で、
そんなに足突っ張って
こらえてなくてもいいんだよ。
「大した利益」のときには、
もうそこで、鼻血出してでも、なんでも、
守るし、攻めるし、全力を尽くせよ、みたいな。
宮本
そうですね。
すごく雑に言うと、やっぱり、
「バケたらでかいよ」っていうことで。
糸井
そう、それ(笑)。
宮本
逆に「これ、バケたらでかいですよ!」って
言われるようなこともあるけど、そのなかに
「バケたとしても、そんなにでかくないよ?」
っていうものがたくさんあるんです。
──
わぁ(笑)。
宮本
そういうもので熱く語られたりしてもね、
「ま、どっちでもいいんやない?」って。
──
そういうこと、あります(笑)。
糸井
ふふふふ。
宮本
そういうことですよねぇ。
糸井
だから、利益の話になると、
うちみたいな小さい会社と
任天堂は比べられないんだけど、
たとえば「1万人がよろこぶ」っていうものが
「2万人よろこぶかもしれない」ってなっても、
そこでそんなにつっぱらなくても、と思う。
それが「100万人よろこぶかも?」ってなったら、
じゃ、息止めてやってみるか、ってなる。
──
それは、あれですかね?
宮本さんも糸井さんも
「大きくバケた」という経験が豊富だから、
その経験が乏しい人は、
覚悟を決めてアクセルが踏むことができない、
というようなところがあるんですかね?
糸井
うーん、でも、小さい規模のことでも
同じことが起こりうるんだよ。
宮本
そうですね。
あの、よく言うことなんですが、
川が淀んでいるのと、川が流れてるのって、
川の大きさは関係ないんですよ。
流れる水の量の話をしたいわけなので。
糸井
ああーー。
──
はーー。
宮本
基本的に、どんな川であっても、
深くても浅くても広くても汚くても
「流れているほうがいい」と思う。
だいたいダメなときって、
「流れてない」んですよ。
そういう川をいくつもいくつも見てると、
「あ、これは流れる可能性あるよ?」とか、
そういうことがわかってくるんです。
糸井
いいこと言うねぇ。
──
いいこと言うなぁ。
宮本
でも、そうですよね?
流れてたら、そこからこぼれたものが
薄くても、濃くても、利益になるんです。
そういう意味で、その企画が「流れてる」なら、
「利益薄くてもいいん違うの?」
という話ができるんです。
逆に、いろんなビジョンが描けたとしても、
まず「流れてない」となにも起こらないので、
利益の話をするまえに、そっちなんですよ。
「ずっと後で、これだけ回収して帳尻が合います」
って言われても、ねぇ‥‥。
糸井
そういうことじゃない。
宮本
そういうことじゃないんです。
そういうことをくり返すために
みんなで会社をやってるわけじゃない。
そのへんができる人は、
いい距離感で収支をちゃんと言える。
だから、バケないもの、流れてないものは、
もう、すぐにでも、たたんだほうがよくて、
だとしたら、もうそこにそれ以上、
お金をかける意味ってまったくない。
けど、バケるものは、倍つかってもいい。
糸井
コスト感覚ですよね、いってみれば。
宮本
そうですね。
糸井
だから、数字のわかる、
信頼できる人がそばにいて、
「これ、いくら損していい?」って訊いたときに、
「いくらまでだったら大丈夫です」って
言ってくれるだけで、すごく動きやすくなる。
その意味では、数字ってすごくありがたくて、
「責任を持った無責任」ができるわけ。
「これ以上コストをかけちゃダメ」っていうのと、
「コストをかけちゃダメ」っていうのは
ぜんぜん違うから。
宮本
うん。
糸井
しかも、「筋がいい」ものは、
「バケた」あとでずっと転がっていくからね。
儲けが何倍にもなります、
そのときの利益だけじゃなく。
転がって、またぶつかって、動き続けて、
ちがうおもしろいものを生みだしたりする。
それが「筋」ですよね。
宮本
そうそうそう。
──
ああ、なるほど。
宮本
そのいみでは「楽(らく)」なんです。
一回、仕掛けたら、放っといても
勝手に動き続けてくれる。
そういうものがいくつもあるのが
理想といえば理想ですよね。
糸井
根っこの根っこの思いでいえば、
「楽に、楽しく」やりたいんだよね。
そう思って、いまの苦労は我慢するんだよ。
宮本
そうそうそう。
糸井
そう言いつつ、ぼくも宮本さんも
じつは苦労しちゃうタイプなんだよ。
だから、もう、お守りに触るみたいに、
「楽して」「楽しく」って思ってる。
宮本
「楽しく」がいいんですよね。
何年か前からぼくは
「楽せず、楽しく」って言ってます。
「楽して、楽しく」が理想なんですけど、
それはなかなかないことなので、
だったら「楽せず、楽しく」はいいかな、って。
糸井
ああ、なるほどね。
宮本
「楽しく」がいいですよね。
糸井
そりゃぁ、そうです。
──
はい。

(つづきます)

2015-12-17-THU