第9回 筋がいいもの、転がるもの、バケるもの。

糸井
全体の2割の商品の利益が
残りの8割を支えているとして、
その「2割のもの」が
宮本さんの言う「筋がいいもの」ですよね。
宮本
はい。
糸井
「筋がいい」という話は
宮本さん、ずっとしてますよね。
もう、30歳代のころから。
宮本
前からしてますよね、ずっとね。
糸井
で、その都度、
「まぁ、わかんないんですけどね」
って言いながら、ちょっとずつ、
ことばになってきているというか。
宮本
わからないので、デカの勘とか言ってます(笑)。
ここ数年でわかったことでいうと、
「筋がいいね」って言ったときに
「うん」って言う人と言わない人がいて、
それは、趣味の問題ではなくて、
「同じ問題意識を持ってるかどうか」なんです。
糸井
あーー、うん、うん。
宮本
そこの共有ができている人だと、
「筋がいい」の意見が合う。
まったく合わない人は
そもそも「問題意識」が合ってない。
糸井
それは、そうかもしれない。
問題意識って、意外に、
近くにいる人どうしでも
ちょっとずれてたりしますからね。
宮本
ああ、そうかもしれません。
糸井
近くの人と話すと、意外に
「惜しい、ちょっと違う」ということが多くて、
逆に、あんまり会ってなかった誰かと
久々に会うと同じような
問題意識を抱えてたりして。
宮本
問題意識の精度を上げると
アイデアもよくなるのかも‥‥。
糸井
その意味では、
人と問題意識をすり合わせるのは、
アイデアを出しやすくする道ですね。
宮本
はい。
糸井
あと、宮本さんの言う
「筋がいい」に当たるものって、
ぼくにとっては、
「転がる」かなぁ、という気がするんです。
宮本
「転がる」ね。
糸井
「転がる」とか、「広がる」とか「伸びる」とか。
つまり、その先で、どうなるか。
自分が見えなくなったところでも
「まだ転がって音がしてる」感じ。
宮本
はい、はい。
糸井
最初の印象としては
ちょっとさえないかもしれないけど、
このアイデアは、ずっと遠くまで行って、
まだガチャガチャやってくれそうだな、
っていうのを、ぼくは、
「筋がいい」って思うんですよね。
こう、ビリヤードの球みたいに、
さんざんぶつかって、台から落ちても
まださかんに動いてます、みたいな。
逆に、2回くらい見事に当たって
ストンと落ちて止まるようなものは、
「それはみんなやってるよ」って思う。
宮本
ああ、それはよくわかります。
「伸びしろ」がないというか。
糸井
そうですね。
その「伸びしろ」を超えて、
自分にわかんないところまで転がって
「わっはっはっ!」って笑えるようなところまで
辿りついてほしいっていうのが、
ぼくの言う、なんだろう、「筋」なんですよね。
宮本
なるほど‥‥
いや、ついていけてるのかな(笑)。
糸井
重なってると思うんだけどね。
宮本
だから、目標をなにに置いてるか、
っていうことが重要ですよね。
狙ったものにピタッと行くのもいいけど、
狙ってなかった大物が釣れるなら、
本来の計画とは違うかもしれないけど、
そっちのほうがいいじゃない、というか。
糸井
あ、うん、そうかもしれない。
宮本
ちからがあるというか、放っといて、
後からまだ広がる可能性のあるもの。
「じぶんには完全には理解できないんだけど、
なんとなく、おもしろそう」って思えるもの。

そういうものが混ざってこないと、
ぜんぶじぶんの計算の上で成り立つものになるので、
そういうものばかりくり返しつくってても
ちっともおもしろくないっていう。
糸井
まったくそうですね。
宮本
そうですよね。
糸井
予想しない方向に転がったものを
じぶんで笑える、というようなこと。
「名人芸」とか「職人」みたいなところで
完成形を持ちすぎてしまうと、
品質は上がるかもしれないけど、
案外、つまらないんですよ。
その意味では、宮本さんは「兼ねて」ますよね。
つまり、職人としてのすごい芸を持ちながらも、
これだけだとおもしろくない、ってわかってる。
宮本
そういう話でいうと、
まさに、今回の『スーパーマリオメーカー』は、
手塚さんが行こうとする方向を
ぼくはあんまり止めてなくて、
そこが「こうなったんや」っていう
じぶんが予想してないおもしろさに
つながってると思いますね。
糸井
ほーー。
宮本
これ、素材としてはおもしろいので、
離れたところで見てると心配もあるんですね。
だから、つい、補完したくなるんですけど、
手塚さんがやりたいことがあったから、
そこはそのままにして、
ぼくがじぶんだけでは行けない
おもしろいところに行ってほしいな、
って期待しながら見てたんです。
結果的に、それが、すごくよかったと思う。
糸井
それは、宮本さんの、
大きい意味での進化ですよね。
宮本
ああ、そうなんですかね。
たしかに、やったことのない方法ではある(笑)。
糸井
つまり、これまでだと、問題を抱えて、
「これだとぜんぶうまく行く!」って思いついて、
夜中に電話かけるのが宮本さんだったわけでしょ。
それが、電話かけたいのに‥‥。
宮本
うん。かけない。
糸井
あえて、そのままにしてる。
結果、じぶんの知らないおもしろさが生まれてる。
違う言い方をすると、たとえ失敗したとしても、
「いい失敗ができるんだったら、
思い切りやったほうがいいよ」

ということですよね。
宮本
うん。そのやりかたは、おもしろかったです。
自分の仕事としてやってると
そこまで開き直れなかったりするので。
糸井
そっちはそっちで違う魅力がありますけどね。
つまり、じぶんだけの世界で、
偶然までぜんぶ飲みこんで消化して
隅々まで磨き込んでいく、というか。
宮本
はい(笑)。
糸井
そうすると、
ぜんぶに職人の目が行き届いているという
「美」みたいなほうへいくんですよね、きっと。
宮本
ぼくはそっちへ行きがちなので。
糸井
いや、そういう「職人」は、ぼくのなかにもある。
宮本
じぶんがそうなりがちだからこそ、
そうじゃないことを求めますよね。
糸井
岩田さんって、
「どうなるかわからないこと」に対する興味が
ものすごくありましたよね。
宮本
はい、はい。
糸井
「ここまでは読めてるんですけど、
ここから先はわかんないんですよね」

みたいなことを、うれしそうに、
にこにこしながら言ってましたよね。
あんなに理路整然とした人が
「実際にお客さんが遊んだら変わりますから」
みたいなことに、すごく興味を持ってた。
宮本
たぶん、予想を超えて「バケるもの」を、
何度も見てきたからじゃないですかね。
糸井
あーー、そうですねぇ。
『ティンクルポポ』からはじまってるからね。
(※『ティンクルポポ』は
『星のカービィ』のもとになったソフト。
『ティンクルポポ』として宣伝され、
すでに注文も入っていたが、
『星のカービィ』として再調整され、
結果的に大ヒットシリーズとなった)
宮本
『ポケモン』も予想を超えましたし、
『MOTHER』もそうですよ。
糸井
ああ、そうですね。
30年近く経って、まだ喜ばれてるなんて
思わなかったものなぁ。
宮本
そういう経験をしているかしてないかは、
大きいと思います。
糸井
つまり、まず、
ロジックとして通ってるか通ってないかを
きちんと見極められるちからがあって、
それをわかっている人が、
「わからないこと」に委ねることができたら、
違う歴史がはじまるんだね。
宮本
はい。
糸井
だとすると、もしかしたら、
宮本さんは、いまそっちのほうを
鍛えられている最中なのかもしれない。
岩田さんがいなくなったおかげでね。
宮本
ほんと、ひどい目に遭ってます(笑)。

(つづきます)

2015-12-16-WED