- 糸井
-
全体の2割の商品の利益が
残りの8割を支えているとして、
その「2割のもの」が
宮本さんの言う「筋がいいもの」ですよね。
- 宮本
- はい。
- 糸井
-
「筋がいい」という話は
宮本さん、ずっとしてますよね。
もう、30歳代のころから。
- 宮本
- 前からしてますよね、ずっとね。
- 糸井
-
で、その都度、
「まぁ、わかんないんですけどね」
って言いながら、ちょっとずつ、
ことばになってきているというか。
- 宮本
-
わからないので、デカの勘とか言ってます(笑)。
ここ数年でわかったことでいうと、
「筋がいいね」って言ったときに
「うん」って言う人と言わない人がいて、
それは、趣味の問題ではなくて、
「同じ問題意識を持ってるかどうか」なんです。
- 糸井
- あーー、うん、うん。
- 宮本
-
そこの共有ができている人だと、
「筋がいい」の意見が合う。
まったく合わない人は
そもそも「問題意識」が合ってない。
- 糸井
-
それは、そうかもしれない。
問題意識って、意外に、
近くにいる人どうしでも
ちょっとずれてたりしますからね。
- 宮本
- ああ、そうかもしれません。
- 糸井
-
近くの人と話すと、意外に
「惜しい、ちょっと違う」ということが多くて、
逆に、あんまり会ってなかった誰かと
久々に会うと同じような
問題意識を抱えてたりして。
- 宮本
-
問題意識の精度を上げると
アイデアもよくなるのかも‥‥。
- 糸井
-
その意味では、
人と問題意識をすり合わせるのは、
アイデアを出しやすくする道ですね。
- 宮本
- はい。
- 糸井
-
あと、宮本さんの言う
「筋がいい」に当たるものって、
ぼくにとっては、
「転がる」かなぁ、という気がするんです。
- 宮本
- 「転がる」ね。
- 糸井
-
「転がる」とか、「広がる」とか「伸びる」とか。
つまり、その先で、どうなるか。
自分が見えなくなったところでも
「まだ転がって音がしてる」感じ。
- 宮本
- はい、はい。
- 糸井
-
最初の印象としては
ちょっとさえないかもしれないけど、
このアイデアは、ずっと遠くまで行って、
まだガチャガチャやってくれそうだな、
っていうのを、ぼくは、
「筋がいい」って思うんですよね。
こう、ビリヤードの球みたいに、
さんざんぶつかって、台から落ちても
まださかんに動いてます、みたいな。
逆に、2回くらい見事に当たって
ストンと落ちて止まるようなものは、
「それはみんなやってるよ」って思う。
- 宮本
-
ああ、それはよくわかります。
「伸びしろ」がないというか。
- 糸井
-
そうですね。
その「伸びしろ」を超えて、
自分にわかんないところまで転がって
「わっはっはっ!」って笑えるようなところまで
辿りついてほしいっていうのが、
ぼくの言う、なんだろう、「筋」なんですよね。
- 宮本
-
なるほど‥‥
いや、ついていけてるのかな(笑)。
- 糸井
- 重なってると思うんだけどね。
- 宮本
-
だから、目標をなにに置いてるか、
っていうことが重要ですよね。
狙ったものにピタッと行くのもいいけど、
狙ってなかった大物が釣れるなら、
本来の計画とは違うかもしれないけど、
そっちのほうがいいじゃない、というか。
- 糸井
- あ、うん、そうかもしれない。
- 宮本
-
ちからがあるというか、放っといて、
後からまだ広がる可能性のあるもの。
「じぶんには完全には理解できないんだけど、
なんとなく、おもしろそう」って思えるもの。
そういうものが混ざってこないと、
ぜんぶじぶんの計算の上で成り立つものになるので、
そういうものばかりくり返しつくってても
ちっともおもしろくないっていう。
- 糸井
- まったくそうですね。
- 宮本
- そうですよね。
- 糸井
-
予想しない方向に転がったものを
じぶんで笑える、というようなこと。
「名人芸」とか「職人」みたいなところで
完成形を持ちすぎてしまうと、
品質は上がるかもしれないけど、
案外、つまらないんですよ。
その意味では、宮本さんは「兼ねて」ますよね。
つまり、職人としてのすごい芸を持ちながらも、
これだけだとおもしろくない、ってわかってる。
- 宮本
-
そういう話でいうと、
まさに、今回の『スーパーマリオメーカー』は、
手塚さんが行こうとする方向を
ぼくはあんまり止めてなくて、
そこが「こうなったんや」っていう
じぶんが予想してないおもしろさに
つながってると思いますね。
- 糸井
- ほーー。
- 宮本
-
これ、素材としてはおもしろいので、
離れたところで見てると心配もあるんですね。
だから、つい、補完したくなるんですけど、
手塚さんがやりたいことがあったから、
そこはそのままにして、
ぼくがじぶんだけでは行けない
おもしろいところに行ってほしいな、
って期待しながら見てたんです。
結果的に、それが、すごくよかったと思う。
- 糸井
-
それは、宮本さんの、
大きい意味での進化ですよね。
- 宮本
-
ああ、そうなんですかね。
たしかに、やったことのない方法ではある(笑)。
- 糸井
-
つまり、これまでだと、問題を抱えて、
「これだとぜんぶうまく行く!」って思いついて、
夜中に電話かけるのが宮本さんだったわけでしょ。
それが、電話かけたいのに‥‥。
- 宮本
- うん。かけない。
- 糸井
-
あえて、そのままにしてる。
結果、じぶんの知らないおもしろさが生まれてる。
違う言い方をすると、たとえ失敗したとしても、
「いい失敗ができるんだったら、
思い切りやったほうがいいよ」
ということですよね。
- 宮本
-
うん。そのやりかたは、おもしろかったです。
自分の仕事としてやってると
そこまで開き直れなかったりするので。
- 糸井
-
そっちはそっちで違う魅力がありますけどね。
つまり、じぶんだけの世界で、
偶然までぜんぶ飲みこんで消化して
隅々まで磨き込んでいく、というか。
- 宮本
- はい(笑)。
- 糸井
-
そうすると、
ぜんぶに職人の目が行き届いているという
「美」みたいなほうへいくんですよね、きっと。
- 宮本
- ぼくはそっちへ行きがちなので。
- 糸井
- いや、そういう「職人」は、ぼくのなかにもある。
- 宮本
-
じぶんがそうなりがちだからこそ、
そうじゃないことを求めますよね。
- 糸井
-
岩田さんって、
「どうなるかわからないこと」に対する興味が
ものすごくありましたよね。
- 宮本
- はい、はい。
- 糸井
-
「ここまでは読めてるんですけど、
ここから先はわかんないんですよね」
みたいなことを、うれしそうに、
にこにこしながら言ってましたよね。
あんなに理路整然とした人が
「実際にお客さんが遊んだら変わりますから」
みたいなことに、すごく興味を持ってた。
- 宮本
-
たぶん、予想を超えて「バケるもの」を、
何度も見てきたからじゃないですかね。
- 糸井
-
あーー、そうですねぇ。
『ティンクルポポ』からはじまってるからね。
(※『ティンクルポポ』は
『星のカービィ』のもとになったソフト。
『ティンクルポポ』として宣伝され、
すでに注文も入っていたが、
『星のカービィ』として再調整され、
結果的に大ヒットシリーズとなった)
- 宮本
-
『ポケモン』も予想を超えましたし、
『MOTHER』もそうですよ。
- 糸井
-
ああ、そうですね。
30年近く経って、まだ喜ばれてるなんて
思わなかったものなぁ。
- 宮本
-
そういう経験をしているかしてないかは、
大きいと思います。
- 糸井
-
つまり、まず、
ロジックとして通ってるか通ってないかを
きちんと見極められるちからがあって、
それをわかっている人が、
「わからないこと」に委ねることができたら、
違う歴史がはじまるんだね。
- 宮本
- はい。
- 糸井
-
だとすると、もしかしたら、
宮本さんは、いまそっちのほうを
鍛えられている最中なのかもしれない。
岩田さんがいなくなったおかげでね。
- 宮本
- ほんと、ひどい目に遭ってます(笑)。
(つづきます)
2015-12-16-WED