- 糸井
-
任天堂という会社は、
新しいことに取り組むときに、
「会社ごと買ってくる」、
みたいなことをしないですよね。
- 宮本
-
そうですね。
基本的には、社内でできるようにする。
- 糸井
-
それは、風土だね。
まあ、当然、外のひとたちとも
仕事はするんでしょうけど、
「社内でつくる」が基本。
- 宮本
-
社外の方とももちろんやります。
けど、その場合は仕事として
発注するかたちになるので、どうしても
「納品のために」動いてしまいます。
まったくはじめてのことを学ぶとか、
ある種のチャレンジをするとか、
外と組むのはいいこともたくさんあるんですけど。
- 糸井
-
外と組んでつくることも、
最終的には、社内の力にしていく
というのが理想なんでしょうね。
会社の経験が深まるというか、
任天堂という体内に経験が蓄積される。
- 宮本
-
そうですね。
社内でできるようになると、
つくりながらどっちに行くか様子を見る、
みたいなことができるようになりますから。
逆に、外に仕事として発注するものは、
「こういうものをつくるので」と言って、
チームを組むことになるので、
決まったことを進めることになる。
- 糸井
- 最初に描いた設計図に向かうしかない。
- 宮本
-
はい。それはそれで向いてる企画があるので、
外に出したほうがうまく進むものもありますし、
責任の意識が仕上げることにおかれる。
- 糸井
-
一方、じぶんたちでつくってると、
思ったように進んでいないときに、
どこを直したらいいかとか、すぐわかりますよね。
- 宮本
-
そうですね。
もう、おおもとからつくってるので、
「どこでまちがったか」みたいなことも含めて、
いじれるので大胆に進められます。
- 糸井
- なんかすごい、手づくりな会社だね、任天堂って。
- 宮本
-
もともと、そういうものですからね、
ゲームをつくることって。
ハリウッド映画をつくるような
システムに乗せてつくるというより、
いじりながら整えていく。
- 糸井
- ああ、まったくそうだ。
- 宮本
-
まあ、規模は昔よりも大きくなってますけど、
基本的には、昔もいまも、
手づくりでおもしろい構造をつくって、
それをインタラクティブな製品に仕上げる、
ということをやっているわけで。
- 糸井
-
うん、うん。
だから、ひとりやめたらそのぶん、
できあがる仕事に影響しますよね。
- 宮本
-
影響しますね。
誰かがいなくなったことをカバーしようとして、
結果的によくなることもありますけど、
まあ、誰かが抜けると、変わりますね。
- 糸井
-
職人さんの仕事みたいですね。
だから、関わる人の腕前とか
クセみたいなものって、
商品に直接跳ね返っていく。
- 宮本
-
むしろ、それが跳ね返らないとダメでしょうね。
設計図を機械的に組み立てるようになると、
つくる人の個性が、だんだん、
商品に跳ね返らなくなるので。
- 糸井
- いまどき、そんなこと言ってる会社って‥‥。
- 宮本
-
ないですかね(笑)。
でも、うちがやってることって、
だいたい、そういう感じだと思います。
- 糸井
-
いや、うれしいです、いま聞いてて。
経営コンサルタントみたいな人が聞いたら
頭を抱えるかもしれないけど(笑)。
- 宮本
-
経営術を教えるような人からしたら
いちばん困る会社ですよね。
組織をいかに効率よく動かすか、
ということとは、たぶん、逆のことなので。
- 糸井
- 非効率だものね。
- 宮本
-
だから、「非効率」なものを、
どうやって「効率よく売るか」、
っていう話なんですよね。
- 糸井
-
あーー、そうですね。
そして、その両方を深いところでわかって、
バランスを取ってたのが、
前社長だった、という。
- 宮本
-
そうですね。そういう組織ですから。
だから、これまでも、これからも、
そこは、続けていかないとダメでしょうね。
- 糸井
-
組織としての肉体性を維持する、というか。
それは、すごく意識してそうしているのか、
あるいは、社風のようなもので、
自然なことなのか。
- 宮本
-
まあ、社風というか、受け継がれているというか。
あの、たとえば、いまのゲームって、
長い時間かけて1本つくって出しても、
1週間で売れる期間が終わってしまって、
そこでもうぜんぶの売上が決まってしまう、
みたいなものが多いでしょ。
そのなかで、任天堂のゲームというのは、
比較的、長く売れるものが多い。
いま『Splatoon(スプラトゥーン)』とか
いい感じでヒットが続いてますけど、
半年くらい経っても多くの方に
楽しんでいただいているとか、
5年後にまた売れはじめたとか、
そういうものがありますよね。
だから、極端にいうと、数万本で終わるソフトと、
長く売れて500万本くらいまで伸びるソフトがある。
で、「500万本売れたほう」の経験をした人が、
いま、社内にたくさんいるんです。
これは、けっこう大きくて、
そういう人たちがいろんな場面で
組織を支えてくれるんです。
- 糸井
- なるほど、なるほど。
- 宮本
-
500万本になるためなら、
いま、とことんまでやるとか、
多少はがまんするとか、
そういうことがわかる人が会社にいるって、
大きいことだと思うんですよ。
- 糸井
-
すごいことだよね。
いってみれば、ミリオンヒットを
経験した人だらけだものね。
- 宮本
-
そうなんですよ。
身をもって体験していると、
考え方が変わってくるんですね。
たとえば、ぼくの経験でいうと、
20年ぐらい前、工場の納期に間に合わないときに、
工場の偉い人から
「倍売ってくれるんなら、
もうちょっと待ってもいいよ」
みたいなことを言われてましたから。
そういう経験ってすごく大事で、
社内からまったくなくなってしまったら
ちょっと困るんですね。
- 糸井
-
そういう融通を利かせるためにも
いろんなことを社内でやってるわけだから。
- 宮本
-
もちろん、ぜんぶのプロジェクトが
納期より品質を優先させたら成り立たないし、
ぼくも言わないといけない立場でもあるんですけど、
全員がもっともらしいことを
言い出すのも困るんですよね。
- 糸井
-
だから、オリンピックで勝とうよっていうときに、
「メダルじゃないですよ」という心はわかる。
でも、メダルを実際に一回獲ってみないと、
なにもはじまらない、というような。
- 宮本
- そうそう(笑)。
- 糸井
-
そこだよね。
それがあるかないかは、大きい。
- 宮本
-
「パレートの法則」でしたっけ。
全体の2割のものが残りの8割を支えている、
ということが、いわれますよね。
たしかに、商品別に売上を見ても、
2割の商品の利益が
全体の利益の8割を占めていることはよくあって、
逆にいうと、2割の商品がちゃんとがんばれば、
残りの8割が多少失敗しても大丈夫なんですね。
- 糸井
-
それは、
「俺は8割だから失敗してもいいや」
っていうことじゃなくて。
- 宮本
-
そうじゃなくて(笑)。
要は、全員が真剣に2割のほうを目指すから、
結果的に2割の人がうまくいって、
のこりの8割を支えてくれるわけで。
参加者全員がメダルを獲ろうと思っているから、
何人かが獲れるんですよね。
全員が「参加することに意義があるんです」
って言ってたら困ってしまう。
- 糸井
-
「8割を目指す人ってすてきだなぁ」って
こころから思うなら、それでもいいけどね。
でも、それは、なんだろう、
理想がつかみづらいんじゃないかなぁ。
- 宮本
-
ええ。基本的には、みんな、
世の中の人たちを、あっと言わせたくて
会社に入ってきたと思うので。
- 糸井
- そうだね。
- 宮本
-
だから、「売れるものをつくる」というより、
みんながじぶんの理想として
2割のほうになることを目指す。
それはもう、思い切ってやったらいい、って、
開発の人たち全員に言ってるんです。
最終的に2割になった人が助けてくれるから、
8割になることはまったく心配しないで、
もう2割になることだけ考えたらいい、って。
勇気を持ってやろう、と。
- 糸井
-
客観的にどうあるべきかじゃなくて、
「こうありたい」という
じぶんの気持ちが大切なんですよね。
それは岩田さんとも、何度もしゃべった。
- 宮本
- ああ、そうですね。
(つづきます)
2015-12-15-TUE