糸井 | このゲームって、 人の心の鎧を脱がすゲームと言いましょうか、 ひねくれている人であっても、 ゲームの世界にスッと入っていけるような 作りになっているじゃないですか。 |
岩田 | うんうん。 |
糸井 | そこらへんの仕組みをお聞きしたいなぁ。 |
江口 | そのあたりを話すにあたって、 まずはこのゲームの成り立ちを説明しますと、 このゲームって最初は 動物を引き連れて戦うゲームだったんです。 |
糸井 | ‥‥それはけっこう驚きますね(笑)。 |
野上 | 最初はニンテンドウ64(※)の拡張機器である 64DDというハードで作ってたんです。 大容量がウリだったので、広大なダンジョン、 広大な平原を実現させるべく作っていたのですが、 64DDで開発することが中止になり、 通常のROMカセットで作ることになったんです。 ※ニンテンドウ64 1996年に発売された据え置きゲーム機。 3Dグラフィックの表示能力に力を入れ、 ゲームの新たな可能性を広げた名機である。 『スーパーマリオ64』や 『ゼルダの伝説 時のオカリナ』など名作多し。 |
糸井 | じゃあ内容を削ってサイズダウン しなくちゃならなかったんですね? |
江口 | そうです。 データを4分の1以下にしないといけない、と。 |
岩田 | さすがにこれじゃダメだと判断しましたね。 |
江口 | それなら発想を変えて、動物は活躍するというよりは 話し相手になってもらったり、 いっしょに暮らす人になってもらうのはどうかな、 って考えたんですね。 |
糸井 | また、それはガラっと変えましたね。 |
岩田 | そもそも、このソフトは、1台の機械で複数の人が 時間をずらして遊ぶ、というテーマを ずっと持ち続けて作られてるんですね。 それこそ、動物を引き連れてるころから。 |
糸井 | うんうん。 |
岩田 | 自分が仕事に行ってるあいだに子供が遊んでて、 帰ってきたら、その子供が遊んでいた様子がわかる。 さらに、自分が何かをしたことが、子供もわかる。 そういう時間をずらして 世界を共有する遊びを目指してたんですよ。 |
糸井 | なるほど。 その根本的なコンセプトを 別のアイデアで実現させようと考えたわけですね。 |
岩田 | そうなんです。 それでいて、本当に運命って不思議だな って思うのが、このゲームはその後 ニンテンドウ64用ソフトとして登場し、 そこそこ話題になって売れたんです。 「じゃあ増産しよう」となったけど 時計を制御する特殊なチップが使われているせいで 「納期4ヶ月」と言われてしまったんですね。 |
糸井 | それはかかり過ぎですね。 |
岩田 | えぇ。しかも、 そうこうしているうちにゲームキューブ(※1)の 発売が迫ってきてしまったんです。 そのとき、宮本さん(※2)が「じゃあ、もう、 ゲームキューブで作ろう」って言うんですよ。 で、ゲームキューブ版が開発されることになって 宮本さんが最初に指示をしたのが 「絵はそのままにしろ」。 ※1 ゲームキューブ 任天堂が初めて光学ディスクを採用した 据え置き型ゲーム機(2001年発売)。 そのソフトはWiiでも遊ぶことができる。 ※2 宮本さん あの『スーパーマリオブラザーズ』を作った マリオの生みの親。 任天堂株式会社専務取締役。 |
糸井 | へぇー。 |
岩田 | ニンテンドウ64からゲームキューブになれば グラフィックの性能はグンと上がって ほかのゲームはどれもキレイなんですよ。 ところが『どうぶつの森』だけは ゲームキューブらしい 美麗なグラフィックではなかったんですね。 でも、美麗なグラフィックの『どうぶつの森』を 出していたら、絶対に ニンテンドーDS版は作れていないんです。 |
糸井 | それは贅沢にした絵を DS版に置き換えるのが困難、ということですね? |
岩田 | そうです。 DS版がなければ『どうぶつの森』は こんなにみなさんに遊んでもらえる商品には なり得てないでしょうからね。 不思議な運命ですよ。 |
野上 | まさに幸運だと思います。 |
糸井 | じゃあこれはちょっと ご本人からお聞きしないといけないですね。 「絵を変えちゃいけない」と言ったのは どういうところからなんですかね、宮本さん? |
(つづきます) |
『どうぶつの森』は現実どおりの 時間が流れていくゲームなんだけど、 やえちゃんとモギちゃんの村は ゲーム内の時計をずらしてあるんですよね。 モギちゃんは12時間で、やえちゃんは‥‥。 |
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4時間40分です。 | |
すごい半端だね。 | |
僕、時差をつけずにプレイしてるんで、 うちのたぬきちの店はすぐ閉まっちゃうんです。 で、家に帰ってプレイしたときに、 その時差がすごくありがたいんですよ。 |
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そう言ってもらえるとなんかうれしいですね。 | |
朝まで魚を持ったまま寝たくないんですよ。 | |
武井さん(シェフ)もずらせばいいじゃん。 | |
僕自身がそういうことができない性分で。 | |
うちも、2、3時間くらいずらしてありますよ。 | |
私は最初6時間ずらしてたんだけど、 それでも間に合わないってことがわかって、 12時間ずらしてあります。 これだと「昼夜逆転」になって すっごく遊ぶのがラク。 |
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遊ぶのがラク(笑)。 |
そうすると、夜遅くに家に帰ってから 朝、家を出るまで、たぬきちの店は開いてるもん。 |
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なるほどね。 でも、時差をつけ始めると僕の性分だと 日にちまでドンドン動かして 1年分の魚とか1年分の虫を 捕りたくなっちゃうかもしれないんだよね。 |
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武井さんの場合、それはありますね。 | |
でも、それは遊びとしてもったいない。 あのしっかりと流れる時間の中で遊びたいんだよね。 |
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なるほど。 僕の場合、ちょっといじったときがあって。 |
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うんうん。 | |
カブ価を調べようと思って時間を戻したんですが、 そうしたらカブがすべて‥‥。 |
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一同 | あちゃー。 |
だから、時間をいじるのはちょっと トラウマになっちゃったんです。 これ以上いじるのはやめようと思いましたね。 |
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私も怖いからカブを買ったら 絶対にいじらないようにしてるよ。 |
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やっぱり時間をいじってできることに きりがないからね。 |
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でも、僕、いま買ってるカブを売り忘れても あんまり後悔しないかも。 |
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そうそう。 私も大量に腐らせたことがあるんだけど、 それをやっちゃうと、カブに関して失敗しても 「ま、そういうときもあるよね」 っていう寛大な気持ちになりますよね。 |
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それはイヤだなぁ。 | |
やっぱりカブって人を狂わせるような何かがあるよね。 | |
うん、あるある。 |
朝会社にきたら、 とさんが、 なにやらを話している。 なになになになに? 「うちの村でカブ価が 523ベルなの!」 えー、なんの話かといえば、 「どうぶつの森」の話です。 どうぶつの森には、 「カブ」というものが売られていて、 その値段は日によって違うのです。 安値でかって高値でうれば、 森のなかで大金持ちです。 さっそく が、 確認をします。 「ぎゃああああ! こ、これは! これは!」 どうやら、 は昼休みに 自宅に帰って、 カブを売ってくるようです。 |
たとえば残業して遅くに帰ったとしても 顔も洗わずにWiiの電源を入れちゃうわけですよ。 |
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カブ価をチェックしたいがために? | |
そう。 で、いっぺんプレイを始めちゃうとずっとやるから このコンテンツの連載があった2ヶ月間、 1冊も本を読んでないことに気づいちゃった。 |
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余暇として使う時間を 『どうぶつの森』に注いだわけですね。 |
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もう、ほんと恐ろしいゲーム(笑)。 |
(つづきます) |
2009-04-16-THU |