糸井 | 今日は、切り口としては 『ピクミン3』の話だと思うんですけど、 本質的には、宮本さんの話をしたいんですよ。 |
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岩田 | ああ、いいですね。 |
宮本 | (笑) |
糸井 | おそらく、宮本さんがご自身で 『ピクミン3』はこういうゲームです、 っていうのは、すでにやってるでしょうし。 |
岩田 | はい。そうじゃないほうがいいですね。 じつは、今日のこの場を 提案させていただいたのは私なんですけど、 これまでに宮本さんは『ピクミン3』について 何度かしゃべってはいるんですが、 まだ、宮本さんの話の ほんとうにおもしろい部分を 引き出せていないような気がするんですよ。 そこで、糸井さんとお話しすることで これまでに語られてないことが ことばになったらいいなと。 |
糸井 | ま、たぶん、ぼくがふつうにやると、 ゲームの説明にはならないんじゃないかなと。 |
宮本 | はははは。 |
岩田 | よろしくお願いします(笑)。 |
糸井 | ぼくも、宮本さんと しっかり話をする機会がほしいなって 思うときがあるんですよ。 というのも、ぼくが岩田さんと話すときって ものすごく「公」と「私」が混ざるじゃないですか。 |
岩田 | はいはい。 |
糸井 | ところが、宮本さんと話すときって、 公なら公、私なら私って、 分けてしゃべってる気がして。 つまり、友だちとしてしゃべってるときと、 こうして取材でオフィシャルに話してるときと。 |
宮本 | ああ。 |
糸井 | そのへんを今日は混ぜながらやってみたいなと。 ま、どうなるかわかりませんけど。 |
岩田 | ああ、たのしみです。 私は今日は、半分観客ですから。 |
糸井 | じゃ、さっそく混ぜちゃいますけど、 ひと月くらい前に宮本さんと会って話したとき、 なんというか、こう、 「いま節目にいるんじゃないかな」 っていう気がしたんですよ。 |
宮本 | あ、そうですか。 |
糸井 | うん。どういうのかな、 スイッチを入れ直してる感じというか。 |
宮本 | あのときは‥‥E3に行く前でしたね。 ちょうど『ピクミン3』ができあがったころで。 |
糸井 | ああ、だからかな。 あの、ぼく自身もそうなんですけど、 「駅」と「線路」ってあってさ。 駅で止まっていろんな展開があるときと、 つぎの駅にバーッと走ってるときと、 2種類あると思うんですよ。 |
宮本 | ああ、はい。 |
糸井 | ちなみにいまぼくは「駅」なんですよ。 しかも、ベルが鳴りつつある状態で、 もうちょっとしたら走り出すぞ、 っていうような感じなんです。 新しいことをやりたくてしょうがない時期。 で、このあいだ宮本さんに会ったときに、 宮本さんも、なんか、違う線路に向かうのか、 なにかの用意できてるような、 そういう「節目感」を感じたんです。 だから、『ピクミン3』ができあがったというのは 宮本さんのなかでひとつ、節目になるような 大きいことだったんじゃないですか。 |
宮本 | あ、それはけっこう、そうですね。 『ピクミン3』をつくったことでね、 これまでつくってきた歴史のようなものが ひと通り終わったのかな、とも感じてて。 という状態なので、ちょうど「駅」に着いた気分。 そんなこと言うて、いいのかな? |
糸井 | いや、言ってください、ぜひ。 |
岩田 | ええ(笑)。 |
宮本 | まあ、『ピクミン3』は、 ぼくがつくったというよりも 現場のスタッフがつくったわけですけど、 最先端のやり方で、 昔からあるおもしろさを形にできたというか。 このゲームって、ファミコンの初期のゲームとかに すごく似てると思うんですよね。 |
糸井 | ああー。 |
岩田 | 上手なやり方がわかったときに、 やり直すことがたのしかったりとか。 |
宮本 | そうそう、リセットボタンを ばんばん押すたのしさがあったり。 |
糸井 | それは、あえて狙ったことではなくて。 |
宮本 | そこを目指したわけではないんですけど。 どんどんこう、最近のゲームが、 なんていうんですかね‥‥ 豪華に進化ばっかりしてるんでね、 もう少しアコースティックな感じというか、 自分でわかるおもしろさを 追求したいなという思いがありました。 それと、もうひとつは、 『ルイージマンション2』というゲームを出してみて、 これもやっぱり、構造としては ちょっとクラシックなんですね。 で、このクラシックなものが、 いま、どう受け止められるんだろうって 岩田さんとも話してたんですけど。 |
岩田 | はい。『ルイージマンション2』は、 構造としては昔からあるクラシックなもので、 それをいまの技術できちんと磨いたら こうなりましたっていう感じだったんです。 |
宮本 | それで、発売したら予想より評価されて、 やっぱり、こういうものもみんな求めてるんだな、 という手応えがあったんです。 ただ、ちょっと「難しい」とも言われたんですね。 で、この「難しい」という問題については ある意味、どうしようもないわけですよ。 だって上手い人と下手な人が同じように遊んで、 あるいは、我慢強い人と我慢強くない人がいて、 両方が「ちょうどいい」って 感じることはありえないので。 そうすると、アクションゲームっていうのは、 ファミコンの『マリオ』のころはよかったけど、 お客さんがいまの規模になると もう、万人が遊べるようなものは、 つくれへんのかなって。 |
糸井 | うんうん。 |
宮本 | その差を埋めるように、 たとえば便利なアイテムとかシステムを盛り込んで、 上手じゃない人も進めるようにってつくると、 ちゃんと最後までがんばってプレイする人を 無視しているような感じにもなってしまう。 |
岩田 | はい。 |
糸井 | うん。 |
宮本 | となると、けっきょく、 ぼくらはハードルをいくつか準備して、 あとは遊ぶ人が、自分の超えるハードルを決めて チャレンジしていくのがいいんですよ。 で、じつは『ピクミン』の一作目って、 まさにそういう構造になってるんです。 『ピクミン3』をつくりながら、 あらためてそこに気づいたというか、 「あ、この構造って、十何年前から考えてんのや」 って、思い出したんですよね。 |
糸井 | なるほど。 |
宮本 | で、『ピクミン3』というのは、 その構造ととことん向き合って、 最後まで仕上げてみようと思ってつくったんです。 だから、完成したものは、 万人が遊べるアクションゲームというテーマと、 豪華になっていくゲームがその豪華さを どこに活かしていくのかということと、 それから、遊び手が自分でハードルを決めて チャレンジしていくクラシックなたのしさとを、 だいたい全部、おさえられたような気がして。 |
糸井 | はぁー。 |
宮本 | それこそ昔の、グラフィックが丸とか三角だけでも 十分、のめり込んで遊べたころの感じで。 だから、もしもこれが受け入れられたら、 別の方法でこういう構造を つくることを考えるだろうし、 逆に否定されたとしたら、 もう、ゲームというものに求められているものが 違ってきているということだから、 姿勢を改めて、つくりに行くのもいい。 そういう意味では、 『ピクミン3』をつくり終えたいまは たしかに「駅」に着いていて、 つぎはどうしようかなという時期にあるんですよ。 |
糸井 | そういうときって、 どうしようかなっていう不安じゃなくて、 むしろ、自由を感じるんですよね。 |
宮本 | そうですね。けっこうワクワクしてます。 |
糸井 | やっぱりどんどんできることが増えて、 規模が大きくなったり 表現が豪華になったりしていくだけっていうのは、 方向性として拡大していくしかないから、 自由じゃないんですよね。 じゃあ自由ってなに? って言ったときに、 まさに「駅」にいて、 自分なりに「両方をやれるんだ」って 思えているときっていうのが、 ほんとは自由だと思うんですよね。 こっちしか行けないんじゃなくて、 こっちもあっちも行けるけど こっちを選んでるという自由。 |
宮本 | うん、うん。 |
糸井 | 『ピクミン3』の映像を少し見ましたけど、 やっぱり、このゲームのなかにも 宮本さんが自由に選んでる感じがあるんですよね。 たとえば、情報量を過剰に増やして、 あっちこっちに目をやらせるんじゃなくて、 「ここを見ればいい」っていう範囲を あえてせまくしているところ。 その、豪華になる一方のゲームのなかで あえて音数を減らしているというか。 |
宮本 | ああ、ああ、そうですね。 アンプラグドな感じっていうか。 |
糸井 | そうそうそう。 さっき、丸と三角だけでもおもしろい、 っていう話が出ましたけど、 お客さんは、ボール一個渡すだけで遊ぶよっていう。 |
宮本 | そうそうそうそう。 |
糸井 | そのことがまず言いたくて。 |
宮本 | たしかに、いまは、どれでも選べるというか、 そういう自由なところにいるかもしれません。 どこからも統制されていないというか、 まぁ、そういうところを岩田さんが 引き受けてくれている というのもありますけど(笑)。 |
岩田 | 宮本さんを自由にするのがわたしの仕事ですから。 |
糸井 | あいかわらず、いいなあ、その関係(笑)。 |
(続きます) |