#17 偶然か、作為か。その1

講師

菅原 「きょうから新テーマですね。
 写真にムードのあるなしっていうのが
 撮る人によるものなのか、
 カメラによるものなのかっていうお話しです」

司会

山下 「人でしょう!」
「カメラじゃない?!」
シェフ 「両方だと思う!」
シェフ 弊社のスガノの写真が、
「ただいま製作中!」に載ると、
けっこう反響があるんです。
山下 「スガノさんの写真は、
 ムードがあっていいですね」と。
「カメラはなんですか」
っていうのも、来ますよねー。
シェフ そのことは「質問編 その3」でも
とりあげたんですけれども、
「RD-1S」っていうカメラなんですよね。
山下 このムーディーな感じっていうのは
やっぱりこのカメラどくとくのものなんですか。
菅原 「RD-1S」っていうのは、
レンジファインダーデジタルカメラっていう
なかなか珍しいタイプのものなんです。
EPSONが出しているんですけれど、
レンズ交換式のカメラで、
ライカのMシリーズだとか、
カール・ツァイスだとか、
フォクトレンダーだとか、
古くからある個性のあるレンズを
使うことができるんですよ。
山下 おもしろそうですねえ。
シェフ でもオートフォーカスじゃないよ〜。
絞りも自分で決めなくちゃならないし。
シャッターを押すまでに、時間がかかるよ。
菅原 デジタルで記録できるけれど、
操作性はフイルムの機械式の
マニュアルカメラに近いんですよ。
山下 「あえて」使うというか、
趣味性の高いカメラですね。
ではこの「RD-1S」だと
ムードがある写真が撮れるというのは
カメラのおかげなんでしょうか。
菅原 レンズとカメラの両方ですね。
「RD-1S」独特の、
ちょっとこってりしたよさっていうのがあって、
料理の写真のときに説明しましたが
これもやっぱり「シズル感」なんです。
それと、スガノさんが使っている、
たしかお父さんからゆずりうけた
旧いレンズのよさと、
よい感じで足し算になっているんでしょう。
いま、シズル感がない画像が
けっこう多いから。
山下 写真ではなく画像なんですね(笑)。
菅原 そうだね、画像処理であって、
写真じゃないものをとりこむカメラが
多いかもしれないね。
シェフ シャッターを押すまでに、
時間がかかるからといって
タイミング逃すってことも、
別に、そんなに、ないですもんね。
報道写真や、スポーツ写真を
撮ってるわけじゃないから。
菅原 逆に、1枚の写真に、
手間がかかっているとも言えるよね。
写真を撮るときに一呼吸あるわけです。
その一呼吸が、やっぱり写っているんだと思うよ。
山下 その一手間っていうのをやっている間に、
気持ちがちょっと変化したりするわけですね。
菅原 それがすべてとは言わないけれど、
写真って儀式みたいなことが
大事なときもあるっていうか。
シェフ 「えーっと、えーと、ちょっと待っててね」
って、待たせたりしますよね。
菅原 撮られるほうも
「え、来るの? 来るのかな?」
なんて思いながら待っている。
そのこと自体が大事なときも
あるような気がします。
山下 心の中に「ため」があるんですね。
菅原 ゆっくり流れる時間の、一瞬というか。
そういう意味ではね、
素早いオートフォーカスのデジタルカメラで
撮る時であっても、
会話をしながらゆったり撮ったら、
そこに流れる時間は写ります。
写真を撮った前後が写っているっていうか。
スガノさんはねえ、
さらに演出も入れるんですよ。
わたしのこの写真。

シェフ ひゃー!
山下 おそろしい‥‥。
菅原 (笑)
これね、「妖怪っぽく!」って
指示を出されているんですよー。
さらに、カメラを設定してるから、
しばらく待っているんです。
妖怪になってから。
「まだぁ?」とか言いながら。
山下 またその妖怪っぽさが
「RD-1S」だとよく写りますね。
菅原 なるほど。
スガノさんっていう人は、
演出をするんだね。
全部、しっかり絵をつくっているんだ。
スガノさんの状況劇場みたいな感じなんだね。
シェフ あ、瞬間をとらえるんじゃなくて、
こういう意図を持って、
こうやって組み立ててっていうことを
考えて撮っているんじゃないかってことですね。
菅原 なんかうん、ちゃんとこう、頭の中に
絵があるような気がしますね。
シェフ それはそれで、
弊社ではめずらしい個性なんですよ。
だから「製作中!」でも
目立つのかもしれないですね。
見ている人も「いいですね」って言ってくれる。
菅原 ただね、僕はそういう写真を
「写真的ではないな」と
感じることもあるんです。
山下 絵画的っていうことでしょうか。
菅原 それはもう、僕の考えなんですけれど、
偶然のなかから、「うわっ!」って思うことを
撮ったときの、凄みというのを、
知ってしまっているから。
偶然の力ってすごくってね、
「俺ごときが、いろいろ考えたってさ!」
って思っちゃうくらいなんです。
シェフ それも考え方のひとつですよね。
スガノのように、箱庭的に楽しむ写真がある一方で。
わたしと、シェフがよくやる
「小芝居劇場」はどうなのかしらー。
シェフ どうなんだろう?
(つづきます!)
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2008-05-23-FRI